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hotpantsさんのフリックドロップの長文感想

ユーザー
hotpants
ゲーム
フリックドロップ
ブランド
.17
得点
70

一言コメント

綿密に構築された世界。現在の遥か先をゆく科学技術と未知のエネルギィが創りだすヒューマノイド。 人と同様の容姿と心をもったそれは果たして人足り得るのだろうか、存在定義が問われる。 本作は、ロボットと人間の在るべき関係と存在意義を概念実証し、一つの答えを提示する。 これはもしかしたらとんでもない作品なのやもしれない。 けれども、ゲームとしての面白さを評価するならばどうかと思うのであった。 というのも、クリティカルな問題としてつまらないのである。 凄さが面白さに直結しないということを身をもって体験できる勿体無い作品といえよう。

長文感想

▼基本情報
対象年齢:無し
ジャンル:SFビジュアルノベル
スクリプトエンジン:吉里吉里
操作性:標準
システム:標準
内容:CDケース、プレスCD
形式:選択肢無しの一本道ノベル
価格及び入手手段:500円程度。DLsite様にてダウンロード販売中。


▼作品概要
隕石により、世界が一度滅びた後。
未知のエネルギィが発見され、
人類はヒューマノイドを創りだす。

それから百年の長い時が経ち。
復興を遂げた世界で、二つの物語が交錯する。

(パッケージより転載)


▼CG枚数
イベントCG数:0


▼プレイ時間詳細
prologue 0:05
1章 A0:50 B0:10
2章 A0:30 B0:20
3章 A0:40 B0:20
4章 A0:45 B0:25
5章 A0:35 B0:40
6章 A0:50 B0:25
7章 A0:30 B0:25
8章 A0:50 B0:25
9章 A0:30 B0:25
10章 -1:45-
epilogie 0:15

Total 11:40


▼備考
クリア後にExtra開放(サウンドモード、各タイトル別にシーン回想可のシナリオモード等)



▼雑多な感想

物語について
創造主<人>と被造物<ロボット>の関係、その行き着く未来。作者なりの答えを作品を通して提示している。
これまでも種々様々な両者の在り方が多様な媒体で伝えられてきたが、観念的で分かり難いと感じたことが幾度もあった。
しかし、本作はロボットを鏡像として人間の本質を浮き彫りにすることで、より具体性を持った関係性を描写できている。
未だ見ぬ未来とその舞台に生きる現実的な人間模様をそこそこに表現した、SF的醍醐味を堪能できるだろう。
しっかりと練られた設定で作り上げた世界観、それに即した「人とロボットの融和」を目指す人々と、
反対に、人間に他の種族(ロボット)が混じるべきでないとする人物もいて、どちらにも納得できる理由がある。
二項対立論を前面に出すことで、傍観者である読み手は思想の応酬を楽しみ
また、どちらに属するのか問われているような気がしないでもなかった。
けれども、だ。私見であることをあらかじめ断っておくならば、
作中では公的立場としてなら排斥派、個人的立場としてなら賛成派、のような
中途半端な印象を受ける、上っ面をなぞった糞展開であったようにも思える為、私としては正に糞であった。
そして、帰結がどうにもしっくりこない。
物語的結末を求めたが故に積み上げてきた主意が瓦解してしまったかのようで、なんとも勿体無いことになっている。
真意を汲み取ろうとした為か、考え方が捻くれてこのように受け取ってしまったのやもしれない。
矛盾と欠点を抱えつつも本筋は賞賛に値するものなので純粋にテクストを読み解けば傑作になり得る作品であった。

テキストについて
SF作品に欠かせない複雑な設定を理解する為の解説という点において、
テキストは論理的でありまたアナロジーを組むことで分かりやすくなっている。
しかし悲しいかな、易しく噛み砕いているとはいえ文章から読み手が受けるのは圧倒的情報過多。
理解に多少の時間を要しテンポを欠いている為、読んでいて疲れる。
そして、日常会話でのコミカルな描写のセンスの無さが全体を駄目にしてしまっている。
(これは恐らくBsideを担当しているシナリオライター様が原因だと思われる)
作品に於ける構成要素として足を引っ張っているのは否めない。

構成について
上記だけを見れば辛口となってしまったが、しかしそれだけで本作に見切りをつけるは早計である。
構成は非常に素晴らしいものとなっているので簡単に紹介しよう。
本作はAside、Bsideの二部構成となっていながら両サイドを交互に進行させる構成となっていて、
両サイドに登場する時間標識(作中の時間を特定する材料となる情報)となる人物とそれによる矛盾等、
両間における謎は章が進むごとに増え、そして解けてゆく仕掛けになっている。
構成が織り成す緻密な配列と叙述トリックが物語の旨味をより引き出していて非常に楽しめるのである。
重なったときのカタルシスは各々で感じ取ってもらいたい。

絵・音楽・演出について
おぼろげな記憶では、イベントCGを終ぞ目に収めることは無かった。
ここで手を抜かれては読者として遺憾の意を発動せざるをえない。
しかし、立ち絵は良くできていた。絵から受ける印象は人物の性格を上手く表現できている。
画面を半分以上覆うロボット(Iタイプ)の存在感、誰だろうと怯んでしまいそうなキョウの迫力は特に素晴らしかった。
音楽と演出は魅力とは呼べないものの坦々としたシナリオ進行をよく支えられていて良かった。


投稿時点で批評空間内のレビュー数0という、かなり埋もれてしまっている作品ではあるが
原案と構成、メッセージ性を重視する方には満足できる作品なので興味が湧いたならば是非。
コスト(低価格であること)を考慮すれば十分に良作といえるだろう。