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ysm0624さんのレイジングループの長文感想

ユーザー
ysm0624
ゲーム
レイジングループ
ブランド
KEMCO
得点
84
参照数
872

一言コメント

スマートパス版でプレイ。これまで評判の良いデスゲームADVを何本も出してきたKEMCOですが、今回の新作はただのデスゲームに留まりません。デスゲームそのものはあくまで一要素に過ぎず、その奥に隠された伝奇的な謎を追う物語として、非常に楽しめた作品でした。ボリュームも過去最大で、ボイス(パートボイス)やボーカル曲が付く等クオリティアップもしており、今までより一段上の作品へと進化した印象があります。ただ、苦言を呈するならば、①主人公ボイスが終始棒読みなこと、②最後の核心に迫る部分の一つに過去作ネタ(デスゲームでない)を持ってきており、未プレイ者からすると置いて行かれてしまうこと、でしょうか。

長文感想

自分はデスゲームものは結構好きでして、エロゲなら「シークレットゲーム(同人版も含め)」「リベリオンズ」をプレイしていますし、スマホアプリでもKEMCOの「トガビトノセンリツ」「鈍色のバタフライ」「黒のコマンドメイト」は全てプレイしてきました。コンシューマーでは「ダンガンロンパ」を2までクリアしています。それ以外にも同人ノベルで同系統の作品をいくつかやってみましたが、あまり満足できるものは見当たらず(良いのがあれば教えて下さい笑)、という感じです。KEMCOのデスゲーム過去作は点数を付け感想を書く程内容を覚えていないので登録はしませんが、クリア当時点数を付けるなら、どれも75点以上は付けたと思います。

ただ、この手のデスゲーム作品って大まかに共通している設定・展開があります。思いつくままに箇条書きにすると、

①ゲーム参加者は全員が完全な初対面ということはほぼなく、様々な人間関係がゲーム開始前の段階で存在している。その人間関係がゲームの展開に大きく影響してくる。
②ゲーム参加者の中に意図的に参加した人、内通者、黒幕等が含まれている。
③途中までは誰がどの役か、殺人を犯した人は誰かと探究することが話の中心となるが、最後の最後には黒幕を見つけて打倒し、生きてゲームから脱出することが目標となる。

という感じでしょうか。

まあ、こんな設定・展開が待っているんだろうと分かっていてもキャラ、ルール等の違いで楽しめるのがデスゲームですし、それは本作も変わりません。ただし、本作はそこから一歩進んだところに話が展開します。ネタバレにならないように書きますが、本作の場合、人狼ゲームの役がどう配置されているかとか、最後に誰が生き残るかとか、そんなことは全体の話からするとどうでも良いんですよね。主人公が生き残ればそれで良いということもありません。むしろ一つの人狼ゲームの展開だけで見ると、過去作と比べ役の数も少なくルールも単純で、心理戦がメインになるので、面白みに欠けるかもしれません。しかし、そこに伝奇的な謎が加わることによって、今までには無かった面白さが出ています。人狼ゲームだけを見ても、ルートごとに参加者、役が変わるという、過去作には見られなかった分岐が実装されていますし、最終ルートの結末は過去のデスゲーム作品へのアンチテーゼとも言えるものでした。序盤こそ人狼ゲームの展開そのものへの関心が大きいですが、中盤以降は大分変わってきます。人狼ゲームを繰り返す中で、いかにして謎が解明されていくのか、どうやれば全てを解決できるのか。そういう所に関心が移っていくので、一つひとつの人狼ゲームの結末は割と(全く気にならない訳ではないけど)どうでもいい。そんな感じになってきます。

また、この作品はキャラの個性が強く、いい味を出しています。特に、メインヒロインである芹沢千枝実と回末李花子の2人は強烈でした。表面的には快活な美少女と、清楚なお嬢様という感じですが、2人とも心の奥底の部分では相当に病んでいます。リアルにああいう人がいたらどちらともお近づきになりたくないです。でも、その病みっぷりがこの作品には欠かせないのです。ネタバレしたくないのでこれ以上は伏せますが、台詞の言い回しにも強く印象に残るものがいくつかありました。中でも「ぶっしゅぶっしゅ殺す」という表現は耳にこびりつきました。ボイス無しだとそれ程までではなかったかもしれませんが、ボイス付きであることによって、ずっと印象的になっています。おそらく意図的にやっているのだと思いますが、成功しているなあと思います。

声で言えば、劇中歌の「しんないもうで」の印象も強いです。これは舞台となる田舎町に古くから伝わる民謡のようなもので、物語の根幹にも関わってくるのですが、BGMとして流れるだけではなく、キャラクターも何度も歌うので、本作をプレイしていれば自然と覚えてしまいます。さすがに歌詞を全部覚える所まではいきませんが、冒頭の
「しんないさんのおまもりは ひかがち ふましら みがらす よぐも」
のあたりは覚えようとしなくても入ってきます。これもボイス付の効果でしょう。

ただし、主人公の声だけは残念です。本作のボイスはパートボイスなうえで専門学校の学生を使っているそうです。自分はそれ程声にこだわりはないし、それはそれで構わないのですが、主人公の声は擁護不能なレベルで終始棒読みでした。サブキャラだったらまだしも、主人公ですからねえ。これだけはどうにかして欲しかったと思います。

本作は全体的に過去作よりグレードアップしており、声が付き、OP、ED(歌うのは千枝実ちゃん!)とボーカル曲が付き、BGM、CGの数もちゃんと調べてはないですが、過去作よりも多くなっています。ボリュームも過去最大になり、そのうえでクリアした後の暴露モード、エクストラという今までの伝統も引き継ぎ、商業エロゲならフルプライスで売って良いぐらいのボリュームになっています。話の内容も、全く引けを取りません。でも、だからこそ、ボイスの質の悪さ、増えたとはいえ圧倒的に数が足らないCG数が気になります(ブラックアウトして文字だけが流れるシーンが多い)。ここまでものを作れるなら、もっと値段を上げて更なるクオリティアップをして欲しいとも思うのだけど、それをKEMCOのような安いスマホゲーばかり出している所に求めるのは筋違いというものなのかな…。

あと、気になる所といえば、過去作ネタの使い方です。本作では最後の核心に迫る部分の一つに突然「デスマッチラブコメ」というデスゲームではない過去作ネタが関わってきます。そして、それに対して作中では何の説明もありません。「デスマッチラブコメ」のネタだと分かったのも、クリアした後で調べたからです。「デスマッチラブコメ」という作品は本作と同じライターが手掛けていて、評価も高いのですが、自分にはどうも面白みが感じられず、途中で積んだまま放置しています。再プレイする予定も今の所ありません。そういう事情もあるのですが、折角のクライマックスの部分に、意味の解らないネタが唐突に出てきたことにはテンションが下げられました。未プレイ者向けに説明があるならまだしも、何もありませんでしたからねえ。「○○○○○○○計画」とか言葉だけ出てきても全然興味が持てない。こういうのって全作プレイしていて内容を覚えているコアなファンなら嬉しいのでしょうけど、作品ごとに好き嫌いのある、内容もうろ覚えなライトファンにはキツイです。明確に世界観を共有していることや続編であること等を示しているのなら良いですが、そうでないのなら、過去作ネタは最小限にするか、分かるように説明して欲しいです。KEMCOのアドベンチャーポータルサイトを見ると、過去作やファンを大事にしている感じが伝わってきますが、あまりキャラ愛が過ぎるとついていけなくなるかも、という懸念が少々あります。ライトファン、新規にも楽しめる作品であり続けてもらいたいものです。

……何だか完全に愚痴になってしまいましたが、本作が非常に中毒性が強く楽しめる作品であることは間違いないです。自分も同時期にプレイしていたエロゲを差し置いて、一気に最後までクリアしてしまいました。1600円というスマホゲーにしては高めの値段設定には躊躇する向きもあるかもしれませんが、それ以上の価値はあります。自分のようにスマートパスに入っているなら即DLすべきでしょう。人狼ゲームの形を借りた、奥深い伝奇物語が楽しめます。