シナリオ冗長化に逆行した作品.前半はやる気があるのかすら疑問に思うような酷い出来だが,後半でその分を取り返してくれる.ただ,受け身のみで読むと置いていかれる可能性有り.
この作品で,評価しているのはひとえとふたえのシナリオなので,この2つについて書きます.
この作品では,テキストの大半は状況をただ描写するだけで,その状況に至った理由が明示されることは少ない.そのためか,他作品と比べるとシナリオ内でのイベント数はほぼ同じ位に思えるが,文章量が少ないためシナリオは短く感じる.描写不足や説明不足となるならば問題であるが,能動的に読めば容易に判るような情報が与えられているため,置いていかれることもだれる事も無く,むしろ,この短さが逆に気持ち良く感じた.
また,ひとえとふたえのシナリオでの設定の割り振りが巧かったと思う.この作品では,過去で起きた事が重要となるが,ひとえとふたえは過去において関係があるために,それぞれのストーリーが持つ魅力を全て引き出すためには,もう一方のキャラクタが知る過去が必要となる.そのために,どちらのシナリオにおいても二人分の情報が必要であった.
このような場合によく見かける手法で,エンディング間近までは,ほぼ同一のシナリオにし最後に二つに分けるといったものがある.確かにこの手法だと説明不足になることはないが,マルチシナリオにする意義が失われ,後にプレイするシナリオはプレイヤにとってただの作業になってしまう可能性が高い.
しかし,この作品では必要最低限の設定を用いることで,相互に補完しあう構造にし,かつ,単体でも意味が通じるものになっていた.そのため,どちらのシナリオも単体でも十分に楽しむことができ,また,双方を合わせることで別の新たな一面を見せることが出来ていたため,シナリオにより深みを与えられているように思えた.
シナリオの冗長化傾向のなか,逆に短くしようとした試みも面白いと思うが,メインシナリオが単体で巧く纏まっており,また,マルチシナリオを巧く利用し,シナリオの相互関係でも楽しめたため,高く評価した.