「夢」テーマにした作品。前編後編ともに読後余韻が残る素晴らしい作品。
個人的に「夢」をテーマにした作品に弱いということに気付かせてくれた作品。
前半の子供時代
達観している少年の心理描写なのにこうも無邪気で、しがらみなく自分のやりたいことをしていて
プレイヤーまでワクワクしてくるし、楽しい夏を感じるテキスト。
それでいて、将棋に関しては物凄く緊張感を与えてくるテキストで、興奮を掻き立てられる。
これから夢に向かって歩んでいく、その後姿が見えるような素敵な展開
ここまでなら、普通の「夢物語」をえがいた作品
しかし後半の大人時代
ひどく残酷で、現実的な展開
夢をかなえられなかった自分が酷く惨めで死にたくて、でも自分では死ねなくて誰か殺してくれ
死ぬ機会があればさっさと死ぬし、絶対にないとはわかっているけれども、もしかしたらあるかもしれない幸せを何もしないで転がり込んでくるのを待つだけの存在になってしまう
それまでの熱が急激に冷まされていくような展開と心理描写
心抉られる
それでも、杏と再会し、杏に話し、杏に勝って、杏の言葉をいつの間にか暗いものに埋め尽くされていた心に刻んで、二度目の別れと、二度目の人生を歩んでいく
その展開は淡々としていながらも、前半のようなメラメラ燃える炎ではなく、静かな炎というようなものを感じた
それとは別のIFルート
本編が、夢を叶えるか叶えないか、100%か0%の話だったのだけれど、この話は50%叶えるような話。
将棋は趣味にして、就職して結婚して子供も生まれて夫婦仲よく、”幸せに”暮らす
本編では幸せになるには非常に厳しく、結局はプロになれるのだがそれも40歳と非常に遅く、結婚などはできないかもしれないし、もしかしたら喜んだり祝ったりしてくれる人がもう居なくなっている可能性もあった。
それでもやるせなさを感じてしまう。佳一は本当に幸せを感じていたのだろうかと考えるのは、負け組の感情なのだろうか?
前半で夢を見させてからの後半で現実を突き付けてきて、夢と幸せについて考えさせられる
巧みなテキストで主人公に感情移入してしまって、ひどく心に残る作品だった