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wellroundedさんのEver 17 - The Out of Infinityの長文感想

ユーザー
wellrounded
ゲーム
Ever 17 - The Out of Infinity
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
85
参照数
31

一言コメント

これほどまでに物語世界に近接した体験などしたことがない。そして、これほどまでにプレイヤーを信頼する物語も、他に知らない。まさに唯一無二だ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 本作の凄みは、プレイヤーを完全に物語世界に引き摺り出したところにあるんじゃないか。いや、強引さに“引き摺り出した”というよりは、懇切丁寧な儀式によって“降臨させた”と言い表した方がよいだろう。

 トリックは、私が今更繰り返すまでもなく、凄まじい。ノベルゲームという形式に特有な、「視点を憑依させる」プレイヤー体験を巧みにハックする。だからこそ感じる違和感が、終盤にかけて一気に解消され納得させられながら物語が収束していく様に、Aボタンを押下することを止められなかった。(序盤、というか前半8割の退屈さは流石に擁護し難いが…)

 しかし、こんな比類ないトリックですら、手段でしかない。田中(春香菜)が言うように、プレイヤー(=第三視点、BW)をこの物語に繋ぎとめるための、楔でしかない。
 
 では何故、プレイヤーは留められねばならなかったのか。
 
 …いかなる物語も、観測者が在ってはじめて存在できる。読み手がいてこその、語り手。海中深く、地上とは隔絶された世界で、彼ら彼女ら以外に「かつて交わした約束」を証言できるのは、主人公に憑依したプレイヤーの視点しかいない。
 
 だが、更に、何より…物語が進むのも、観測者たるプレイヤーがいてこそだ。“われわれ”もまた、物語を駆動させる張本人であると、物語の側から懇切丁寧に諭され、そしてボールを手渡される…「いつか還るべき場所」へ皆が辿り着けるかどうか、“あなた”に託されている、と。

 これほどまでに物語世界に近接した体験などしたことがない。そして、これほどまでにプレイヤーを信頼する物語も、他に知らない。まさに唯一無二だ。



 最後に。ラストシーンを飾る、登場人物全員集合の一枚絵を見て思った。…こちらこそ、心から「ありがとう」と言いたい。こんな物語を観測させてくれて。私を観測者としてそこに居させてくれて。