テーマ、メッセージ性、雰囲気は抜群です。私の感覚からすると、テキストがもう少し洗練されていれば、、、、と思いますが(最後、ちょっと理屈っぽいかな、と感じた部分有り)。。。。「終末」という圧倒的な現実を迎えて、ごくごくニュートラルで自然で前向きな心のありようを記した小品。いいです。
私の好きなある詩人の回想録かなにかで、
こんな一節があったように思います。
(うろ覚えなので、ニュアンスだけ伝わってもらえば。。。)
学生運動真っ只中、あの頃、俺たちは明けても暮れても、
夢とか希望とか社会とか現実とか、
そんな大きな事を仲間と議論したり、衝突したりして熱くなっていたりした。
でも、ふっと、議論の最中なんかに、
仲間の一人が、
明日は洗濯と掃除をして、一日部屋で彼女とのんびりしたいなあ、とか、
そんなたわいもないことを言い出すと、
皆、まるで、ポケットに隠していた大事なものを言い当てられたかのように、
うつむいてしまって、そのあとは、白けたように黙るしかないのだった。。。。
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この物語は、「終末」という、圧倒的な現実の前で、
ごく自然な、ニュートラルな心の拠り所を、前向きに掴んでいく、というお話です。
(セックスも当然ありますが、登場人物の心境は、刹那的では決してありません。)
三人称で、落ち着いた語り口。
登場人物もしゃべりすぎていない。
音楽もなかなか乾いた情緒があっていい。
テーマ、メッセージ性とも抜群。
惜しむらくは、テキストがもうちょっと洗練されていて欲しかったのと、
サブヒロインの話が、ちょっと弱く感じたかな。
登場人物のちょっとした心の変化を扱ったような
こういう短編は、語りすぎず、
最後も、たいていの人が「あれ、これで終わり?」「物足りない」
と思わせるくらいにすっぱりと終わらせたほうが、深みが出ますよね。
淡々としていますから、人を選びます。
それに、物足りない、と思う人も多いでしょうね、
けれど、必要な事はきちんと作中で語っています。
最後がちょっと理屈っぽくなったとはいえ、
短編ならではの見せ方、言葉遣いにこだわった点は、
非常に好感をもっています。
のっぺりとしたテキストよりはよっぽどいい。
私には、かなり好きな作風。