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violinsさんのロストカラーズの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
ロストカラーズ
ブランド
自転車創業
得点
95
参照数
701

一言コメント

ほとんどのエロゲ―は度々電子紙芝居と揶揄される。そして「ゲーム性」を持つ作品としてSLG・ACT・RPGなどのジャンルが親しまれている。では、選択肢を中心とした本作はどうであろう。これは(映画でも小説でも紙芝居でもなく)「ゲーム」という媒体を活かしきった、紛れもなく「ゲーム性」を持つ作品である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

>丸暗記で100点取るより、自分で考えて出した解答の70点の方が、意味と価値があるし、そして何より楽しいと思っています。

OHP、■ゲームに詰まった人の為の道しるべ より抜粋。



本作はネタバレを踏むと面白みが非常に減少します。
詰まって詰まって考えに考えて…………先が見えた時の感動。カタルシス。もの凄いです。ぜひ体験して戴きたい。
例えば知恵の輪なども、度分かって[教えられて]しまえば、それ以後は「遊び」が「作業」になってしまいますよね。
答えだけ教えられて「このトリックは凄い・巧い」と思うのと、自分で体験して騙されるなり解くなりするのと、どっちが良いですか?という話。
"初回"で、"どこまで"解けるか。試してみたくありませんか?

なので私も語るべきではないのですが、書きたいという衝動も抗いがたく(汗
(かなり濁しつつの)ネタバレ感想は後半に纏めてるので前半は未プレイの方も読んで大丈夫だと思います。
が、できるだけ記憶に残らないように読み飛ばしてもらった方が安全かと。
見ないのが一番と言えばそれまでですが(笑)













もうね、やられた。

こういうことも「ゲーム」なら出来るんだな、と。


まず映画や小説(ゲームブックも含む)といった「(解釈の余地は置いておいて)そこにあるものをそのまま受け取る」受動的な媒体を通しては表現できない限界。
それらの媒体とゲームという「能動的になることができる」媒体の違いをここまで意識させられる「ノベルゲー」はそうそうないだろう。

 ※この感想における「ノベルゲー」はSLG・ACT・RPGなどの「ゲーム性」のないゲームを指します。

確かに多くのENDがある(≒フラグ管理が複雑な)「ノベルゲー」もあるが、それは「(条件はあれど)特定の場面に出てくる選択肢を選ぶ」という作業を越えていない。
私がやった中では「MinDeaD BlooD」や「EXTRAVAGANZA」が挙げられる。 *1
これらを自力で攻略するにはかなり頭を使うので「遊ぶ」という側面も強くなるのだが、本作は更にその一段上を行く。
やれば分かる。
「ああ、ゲームでしかできないな」と。



*1 「セカンドノベル」については「選択肢を選ぶだけ」の作業からより離れ、システム的に似た側面(≒記憶管理と繰り返し)があり本作に近い。
  ただそれでも「能動性」を比べた場合本作の方が上に位置する。
  (理由はネタバレにつき後述)





ANOSモード(今迄進めたシナリオの分岐を自由に辿れる、特定地点のループではなく自由な遡行性)+記憶管理(特定の箇所で得たキーワードを記憶し、ANOSで逆行しても維持)を組み合わせたシステムの話はここまでにして、ストーリーについて。

まず目を引くのが"掴み"の巧さ。
いきなり選択肢から始まるのだが、これがなかなかにキツイ。
主人公のキャラ・世界観を表しながらユーザーに強く印象付ける。
よくできた一場面。



>今更言うまでもない話だが、この世界に色は無い。

この言葉通りファンタジー色は強いのだが、コンパクトに纏まっている印象。
過度に広げ過ぎず「謎解き」を楽しむことが前提にあり、それに見合うサイズかと。
実際、謎解きにかかる時間を0とすれば7h程かと思われる。
(「Quartett!」がFFDを前提にストーリーを過度に濃くせず纏めたのと同様、)メイン(=謎解き)を阻害せずに盛り上げる絶妙なバランスの上にある。



キャラに関しても深みがある。
主人公レアルの機微の変化もそうだが、王女スフライトに、変な歌を歌ってるムードメーカーミドリも良い味出してる。
萌えキャラではないが(かわいい所も見せてくれるんだけどね)、最後までプレイしても嫌いということは少ないだろう。
謎解きという「遊び」で楽しみ、テキスト・シナリオという「読み」でも楽しめる。
本当によくできた作品。
うどん~♪














以下、ある程度のネタバレ含みます。

何度でも言います。

まっさらな状態でやるのが一番楽しめる、と。











―――――――――――――――――――――注意――――――――――――――――――――――――

































*1 「セカンドノベル」との大きな違いは、「見えない選択肢」。それと遺跡の「アレ」とか。

「見えない」ということ。それは非常にやっかいなもんで。
注意しないと「何かありそう」と思えないし、それが分かっても適した「記憶」があるのかが不明。
確かに進めば進むほど慣れてくるし、着眼点も見えやすくなる。
しかし「記憶」が増えるということは手持ちの選択肢が増えるということ。
行く場所の選択肢も増えることだし。
「これはもう調べたはずだよな」「これは一回使ったけど、複数回使う可能性だって…」「これはあの場面で使う…はず。いや、でも…」「……使えるもの、無くね?」
こんな状態(笑)
だからこそ、突破した時の喜びもひとしお。
叫びたくなったのは「車輪の国、向日葵の少女」以来。しかも本作は複数回にわたって。

まあ、「見えない」で終わってくれるのならば、虱潰しにやればいつか攻略できる。
ある行為がヒントになってるし。
しかしそれを許さないんですよね。
私は諦めてヒントを見てしまったが、自力で「ゲーム媒体故の可能性」に辿りつきたかった。(いくつかは自力で行けたけれども。)
ヒントだけでも唸ってしまったほど。
「ノベル」ゲー慣れしてる人ほど気づきにくいんじゃないだろうか。
(他の作品でも)もっと楽しもう。ゲームを存分に堪能しよう。
そう思わされる。





>もし、ですよ。もし、何かが起こって困ったり、迷ったり、腹が立ったりしたことがあったら、出来れば思い出して欲しいんです。
>目的を達成するための過程にも意外と価値があるんだって事を。
>それは最初の目的より価値が出る場合もあるんだって事を。
>そして自分が当然だと思っていた価値観は、ちょっと視点を変えるだけで変わる場合もあるんだって事を。


名場面であると同時に、作品そのものにも当てはまるこの言葉。
大好きです。