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tsubame30さんのラブレプリカの長文感想

ユーザー
tsubame30
ゲーム
ラブレプリカ
ブランド
Garden
得点
92
参照数
172

一言コメント

「臓器移植でしか延命できない疫病」と「臓器移植用のクローン」が存在する世界でのラブストーリー。 すごく良かった。完全に埋もれた名作です。 とはいえ知名度が低いのもまあわかる。 ハードな世界観で弛まないシーンが続きます。ストイックなゲームです。 一番の特徴は選択肢が非常に多いこと。 パッケージにある「命と愛の価値を問う究極の選択を迫る」の言葉通り、 謎が解明されない中で、それでも重要な場面で迫られる選択に胃を痛めてほしい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

途中までは「クローン」の設定はそりゃ必要だけど「臓器移植用」という設定は本当に必要だったのか
と思っていましたが、みずほ編ラストで「鈴の臓器を、ください」のセリフが出たときは、
この世界で、この物語でなければできないことをやってくれたなと感服しました。
誰かを「選ぶ」ことは、それ以外の誰かを「選ばないこと」であり、それをトートロジーで終わらせず、
「とどのつまり見捨てること」であるということを、臓器を象徴として突きつけてくる。
パッケージのキャッチコピーにもある
「大切な人を見捨てられますか?」
を体現した作品と言えるでしょう。


事件の全体像が1つのルートですべて明かされるタイプでなく、
各個別ルートを通る中で断片的にしかわかっていきません。
そのため、どの順番で攻略したかで体験が大きく変わりかねない作品だと思いました。
僕のやった順番を示しながら感想を述べていきます。



①藍ルート
クレイジー女の子に振り回されながら容疑者Xを探すだけのルートだと思っていました。
エッチの絶頂シーン「ユニバァァァァァァス!」にはこんなん笑うしかないやろとなってました。
最後に鈴になってしまいますが、統合失調症以上の説明がされずモヤりつつも、
お守りと手紙の演出が古のkey作品ぽくていいなと思ったくらいです。



②みずほルート
みずほは、ツンデレがまだ美味しいが、暴力がまずくなってきた過渡期が生み出した
ピコピコハンマー系ツンデレ幼馴染と言えるでしょう。
といいつつ割と暴力してますけどね。チンコ蹴ったりとか(笑)。
分岐するなかで、料理下手属性まで出してきました。現代では、料理下手属性は
試食するという気遣いができないとして、ギャグにすることすらできなくなっていますが、
やれ炭化だ溶接だまでやっていて非常に懐かしくなりました。

このルートで一番シビれたのは「鈴の臓器を、ください」のシーン。
この時点でこれはすごいゲームだぞ、と思いました。
鈴と真っすぐにやりとりするその姿に、いいキャラだなと素直に思いました。
いざというときははっきり物を言うから、気持ちがいいです。



③怜ルート
正直怜ちゃん先輩はキャラとして弱いなと思っていて、ルートを読み切ってもその印象は変わりませんでした。
しかし意外にも、藍(セカンド)・鈴(サード)の入れ替わり、事件の全体像が発覚するのはこのルートでした。
そのネタばらしのためのルートに終始せず、「未来に目を向けること」という一本筋を通して
子を成すエンディングを迎えたことには価値があると思います。

ここで初めて気づくことが沢山ありました。
藍ルートにあった、偽沢人くんという表現。
「もしも、生きているのに、みんなに気づいてもらえず、ただ忘れられていくとしたら…」というやりとり。
あの笑うしかない「ユニバァァァァァァス!」が、
今にも自分でいられなくなる藍の最初で最後の交わりであったこと。
お守りのシーンも「沢人きゅんは、リンリンを思い出していいんだよ」というセリフも、
改めて見ると世界が違って見えました。

みずほ編に分岐する最中にあった
「わたしのこと、鈴だと思いますか?」の2択。
「臓器を、ください」の前の慟哭。
第2部の藍(または鈴)がセカンドではなくサードであるということを知ると景色が全く違います。

事件の謎が断片的にしかわからないことによって、
先にクリアしたルートに対する時間差の発見をすることになります。
その発見が、十分に謎が解明されない中での選択の重みを際立たせます。
「あのときのあの発言はそういう意味だったのか」という気づきを
他のルートをまたがない限り得ることができない。
その仕様はとてもストイックで、
「なんとなく楽しい」を追及しがちな現代エロゲーにはない味わいがあると感じました。
一方で、すべてが一気にわかるようなカタルシスはなく、エンタメとしては少々弱い。
ゲームじゃなくて教材のようだ。と言われてしまいかねない側面ももっており、
そのせいでここまで埋もれてしまっているのかもしれません。



④千佳ルート
ただのにぎやかしサブキャラかと思えばとんでもない。
みずほが真っすぐならば、千佳は献身的。
軽音部を維持し、食を支え、沢人の居場所を守り続ける千佳の献身に胸打たれました。
このルートでも「助けてくれ」ではなく「腎臓をあげてくれ」と言うことを迫られます。
「選ばない」ではなく「犠牲にする」んだぞと念を押されます。
でも、千佳は「犠牲ではなく、まごころだ」という。
千佳の強さと愛の深さに負けました。



⑤鈴ルート
みずほ編以上にみずほの真っすぐさが際立ちましたね。
森谷美園氏の演技力に、ここにくる道中何度も驚かされましたが、改めて感服することになりました。
ラストの代理母の提案は、想像はしてたものの驚きました。
今までさんざん「選ぶ」ということは「見捨てること」だぞといってきたのに。
最後の最後にどっちも見捨てないという決断をぶっこんできたのです。
やりかたを間違えれば"台無し"あるいは"ご都合主義"です。
しかし、明らかに茨の道なので"ご都合主義"とは思わなかったですし、
鈴の「大丈夫です「大丈夫です」「些細なことです」の演技で、"台無し"感も吹っ飛びました。
誰も犠牲にならない希望があって欲しい、という願いを僕も肯定したくなったのです。


(ただ、このルートに一言苦言を呈するなら、
ここまでやったんなら本当に露出羞恥プレイ入れてもよかったんですよ?)



⑥咲子ルート
「自分が何者か、というのは、自分だけで決められるものではない」
この話は、統合失調症の一言でモヤモヤしていた自分に、藍編の説得力をもたらしました。
同時に、沢人によって鈴になれたと言う鈴ルートの文化祭のシーン。
"姉"という役割によって千佳自身も救われたことにも繋がります。
自分を自分たらしめるのは「他者とつながり」「社会を営むこと」であり、
だからこそ、沢人はラブレプリカに生殖能力をもたせることを目指す。



⑦メメント・モリ
セカンドの献身が影士の命を繋いだあとの話。
藍という存在を忘れない・藍ルート
未来に目を向ける・怜ルート
献身は犠牲ではない・千佳ルート
世界を変える道を示す・咲子ルート
それらがすべて踏まられていて、短いながらグランドにふさわしい内容でした。



三角関係の中心であるみずほと鈴のル―ト以外が、まったく捨てルートになっておらず
「臓器移植でしか延命できない疫病」と「臓器移植用のクローン」が存在する世界での話として、
計算しつくされた非常に充実した内容であったと思います。
知名度はめちゃ低いけどこれは名作です。

いやしかし、これは流行らない。ストイックすぎる。
母体がビジュアルアーツじゃなかったらホームページすら残ってなさそう。
でも、こういうゲームがあってもいいじゃないか。

こんなゲームが存在していたことを、
「選択」に重きを置いた
あとから振り返ってほろ苦くなる
他者と愛と、命と未来のラブストーリーを、
『ラブレプリカ』が存在していたことを覚えていたいと思います。