エロ、ギャグ、バトル、設定、さらに主題の貫徹と、内容的にかなり欲張ったが、基本的には成功している。(長文感想はマルセル氏の感想を読んだ上での感想という形式になっています)
注意! この文章はマルセル氏の感想へのコメントとして書いたところ、「このような内容ならば自分のアカウントに記入すべき」というマルセル氏からの指摘を頂きましたので、こちらに転載しました。よって文章が
独立したレビューではなくマルセル氏の感想へのコメントという形式になっておりますが、その点を納得していただくか、見逃してもらうかしてもらえるとありがたいです。
尊敬すべきマルセル氏の感想にコメントをする機会を逃す手はないと思い、書き込み。この作品に82点をつけたtakaisoraです。よろしくお願いします。
まず簡単に私の立場を説明します。基本的に私は採点する際に、「欠点はよほどのことがない限り減点しない」という加点方式でやっています(むろん、欠点が多いほど加点要素が減るので、相対的には減点になります)。それは私が、与えられたコンテンツを楽しみたいだけの人間であり、「批判すべき点を妥協すれば楽しめるなら妥協するだけ」というエロゲの味わい方をしているからです。わかりやすく言えば、「最大限楽しもうと思えばこの点数になる」という点をつけていると言えましょう。しかしこれは裏を返せば、エロゲ業界に最初からさほど期待していないという前提の楽しみ方で、作り手をなめていることによって作品を楽しんでいると言えます。おそらくマルセル氏は「頑張ればもっといい作品ができるはずだ」という期待があるからこそ時に厳しめの感想を書くのだと予想しますが、私は最初から高い完成度など期待していません。ほぼ間違いなく、マルセル氏ほど作り手をリスペクトしていないのです。
このような理由でメーカーに有利な点数付けをしているという自覚があるのですが、人目に触れる場所に感想を書き込む以上、理性的な公平さを欠いているという点で、レビュアーとしての資質が大きく欠けているということも認めなければなりません。批判的な文章を書けない臆病者です。
前置きはこれくらいにして本題に入ります。私は以前コメントで「基本的には成功している」と書きましたが、まず間違いなくこのコメントを、マルセル氏は理解に苦しんだと思いますので、メーカー擁護側の言い訳と、マルセル氏との一部見解の相違点について述べさせていただきたいと思います。
なお正直な話、マルセル氏の感想に同意している部分は大きいです。
・バトルシーンが詰まらないという点については、基本的に同意です。ただし、もともとエロゲのバトルシーンにハナから期待していない私には想定内。むしろカレンルートでラストバトルがあれほど盛り上がったのは想定外でうれしい誤算です。
・厨二病バトルとイチャラブの融合は可能かという点については、不可能もしくは極めて難しいという点で同意です。もちろん私はそんなことは購入前から織り込み済みで、多少強引でも構わないと思っていたのでその点に文句をつける気はありません。
・葵ルートは「ある点」を除けば満足しませんでしたし、リコリスルートはオートモードでうたた寝状態でしたが、「エロゲにおいて気に入らないルートがあるなんていつものこと。いちいち腹を立てていたらエロゲーマーやってらんねえぜ!」というあきらめにより、まさかの減点ゼロ。
・その他たびたび私の脳裏によぎった「ん?」という疑問はすべて水に流して減点ゼロ。
そろそろ見解の相違点について述べたいと思います。重要度の低いものから。
・ハーレムゲーか純愛ゲーかはっきりせず、中途半端な融合をしているという点は、それ自体は全く間違っていませんが、私はそれを気持ち悪いとは思いませんでした。私は純愛そのものにこだわりがないどころか価値を見出したことすらありませんし(エロゲ―においてですよ!)、ハーレムは単なるサービスだと思っています。「エロゲ―ならエロシーン欲張ったほうがいいよね」というメーカーのご厚意で、ルート攻略中ほかのヒロインとエッチシーンがあっても私はキャッキャと喜ぶだけなのです。むしろ整合性を重視してエロシーンを抑え目にされる方が私としてはしょんぼりなのです。
ここでマルセル氏の「マリルートのエンドは誰得か?」という問いに答えますと、「私のようにこだわりを持たない人間が得をする」ということができます。マルセル氏の言うごちゃまぜでグロテスクなものを提供されても、私は気にせずいただいてしまうのです。何という悪食。
・イリスは大好きで、御宛生メイ様も今回すごくいい演技してくれました。しかし私が思うにイリスの役割はあれでオッケーで、個別ルートまでほしいとは思いませんでしたね。もちろんこれはただの好みの話ですが。
・最後に、マルセル氏との最大の相違点であり、おそらく最も点差がついた要因になっていると思うのですが、私は主人公の葛藤を悲劇のために用意された茶番劇だとは思いませんでした。ここからマルセル氏と本格的に対峙することになるため、マルセル氏のファンの一人として、マルセル氏やほかのファンの皆様を敵に回すような発言をするのは正直嫌なのでありますが、マルセル氏の発言の影響力を考えると、見解の相違を放置するわけにもいかないのであります。端的に申し上げますと、マルセル氏は理性的過ぎるのではないか? というのが私の抱いた感想です。
今回の物語を読み進めていくと、プレイヤーはヒロインたちとともにやきもきさせられます。「さっさと始祖になっちゃえよ、それで全部解決じゃないか」と。しかし、それと同時にカレンに対して、次のような思いを抱いた人も少なくないのではないだろうか?「何が親に言われたから結婚する、だ。お前には自主性というものがないのか? 自分というものがないのか?」と。私は現実にはこういうカレンのような人間が一番嫌いである。たとえば主人公の「お家騒動の駒になるなんて嫌だろう?」という問いに対する「いえ、これっぽっちも」という返答や、「断れる立場にございませんもの」といった回答は、明らかにプレイヤーがカレンの自主性の無さに嫌悪感を抱くことを狙っている(多分)。そしてプレイ中にふと気づくのである。主人公に対する「自分らしさより自分の役割を優先しろよ」といういらだちと、カレンに対する「自分の役割より自分らしさを優先しろよ」といういらだちが同時に存在するのは、明らかに矛盾していると。
ここに気付くと、主人公に対する「さっさと始祖になっちまえ」という考えを固持するのが難しくなる。葵ルートでは特に、主人公が始祖にならずに最終決戦に向かい、当然のごとく大苦戦するし、それは世界の危機を意味するのだが、それでも始祖になりたがらない。ここまで来ると、私は主人公がうらやましいとすら思った。
「はあ? 何言ってんだこいつ」と思うかもしれないがまあ聞いてほしい。
多くのプレイヤーは、「主人公さっさと始祖になれや」と思う。しかし、カレンの態度に嫌悪感を抱くようなプレイヤーだとまた話は変わってくる。簡単に要約すると、こうだ。
「へえ、君はカレンに対し、自分らしさを大事にしろよ、という思いを持っていながら、始祖にならなきゃ世界が危ないと言われたら、簡単に自分らしさを捨てちゃうんですね。いえ、別にいいんですよ? ただ、君の自分らしさへの執着は、必要とあれば簡単に捨ててしまえるほど、もろいものだったんですね」ということを本作の内容は訴えかけてくる。この事実は私にとってかなりショックであった。これでも私は自分のことが大好きだと自認していたのだが、いざ主人公と同じ立場になったら、さっさと自分らしさを捨ててしまうのではないか? という懸念は、カレンと同様の自分らしさへの無関心さが、実は自分の中にも潜んでいることを示唆している。
それに比べて主人公である。始祖になることを拒むという選択そのものは、正しくないかもしれない。しかし、始祖にならなければ世界が危ない(自分の命が危ない)と知ってもなお、それでも自分らしさを失いたくない、自分が自分であることに執着したいという主人公の強い気持ちは、自分らしさを簡単に手放してしまいそうになるプレイヤーにとって、あまりにもうらやましくはないだろうか?
まだ「何言ってんだこいつ? 頭クルクルパーか?」と思う方がいらっしゃるのであれば、別の例を紹介することもできる。巷で人気な有名漫画『進○の巨人』の十六巻を見てほしい。そこでは今議題にしている内容にきわめて近い状況が描かれている。「マルセル氏の感想に見当違いな批判を加えるなんて許せん!」という殊勝な方がいらっしゃれば、単行本代五百円ばかり捻出して、私の言っていることがトンチンカンか確認してみるのも面白いかもしれない。
さて、まとめに入ると、私が言わんとしていることは、マルセル氏の「全世界を守るという大義名分があれば、主人公はとっとと吸血鬼に成れば良かったんじゃね? で葛藤テーマが殆ど無効化されてしまう」という主張に対して、「そんなことないよ」と伝えたい、というものである。
主人公が全体物語設定を知った後も葛藤することに、「合理的な意味で」説得力がないというのは当然である。主人公にあるのは、極めて不合理でわがままな理由、「自分が自分でなくなるのは嫌だという感情」なのである。ここでマルセル氏が理性的過ぎるという私の主張に返ってくる。これこれこのような大義名分があるから、今の自分を捨てて怪物になってくれと言われたら、普通の人は心理的抵抗があるはずだ、という点を、マルセル氏は想定しなかったのではなかろうか? と私は予想します。もしこのようなことを頼まれて、うん分かったと即答できるようなら、そいつはもはや怪物以下で、感情のない無生物、人形であると思う。ここまで言っても終盤の葛藤は茶番だというマルセル氏の主張を受け入れるというのなら、一度胸に手を当てて考えてみてほしい。仮にあなたが主人公と同じように、「吸血鬼の始祖にならなければ世界が滅ぶ。世界を救うという大義名分があるから、今の自分を捨てて始祖になってくれ」と言われたとしよう。今、あなたの中に、「どんな理由があろうと、自分じゃなくなるのは嫌だ」という気持ちがわいてきたとしたら、あなた自身が、主人公の葛藤が茶番ではないということを示していると言えないだろうか? その気持ちこそが、本作が伝えようとしていた「自分自身を大切にしたいというわがままな気持ちの大切さ」を示しているのではないだろうか?
そのような気持ちは全く湧いてこなかったというのであれば、私の感覚が狂っていると判断してもらって構わない。
さて、最後に私の雑感を述べさせてもらいたい。私自身、当初は主人公がさっさと覚醒して白熱のバトル展開になると思っていたが、そうはならなかった。それどころか主人公は吸血を拒否してバトルで足手まといになっていることが多い。これはつまりバトルが盛り上がらない理由の半分は意図的なものであり、バトルものをうたっておきながらバトルよりも主題の貫徹を優先するというメーカー側のポリシーによるものだと言えよう。
総合すると、深く考えなければエロシーンはよかったし、ギャグは結構面白かったし、バトルは最後盛り上がったし、テーマとしての自分のアイデンティティーへの執着の意外なもろさと、それを踏まえた上での大切さに気づけたという点で、不満点はいくつかあれど、私はこの作品に基本的に満足したし、十分他人に勧められるレベルの商品だと判断したから82点という個人的に高めの点数をつけた次第である。(加えて、より内容のあるゲームを作ろうというオノマトペさんの路線変更を私は高く評価したいし、これからも応援する)
マルセル氏が抱いたであろう、私の点数や一言コメントに対する不可解な点が少しでも解消されたなら幸いである。ここまで読んでいただきありがとうございました。本文に対する意見はこの場で可能な限り対応したいと思います。
おまけ
レビュアーがどのような視点、立場でレビューを書くかは、人によって違っていいと思いますし、むしろ多様な意見が出るほうが望ましいと思います。
今回のように、自分はこのような立場で感想を書きますと明記したうえでなら、基本的にどのような感想を書いてもいいのではないでしょうか?
ただし、多様なレビューを許容する立場をとるならば、当然私のような激甘評価も許容されるべきだということになりますが・・・・・・