読み方のスタンスによって非常に評価が分かれる、個人的にはプレイして良かったと思える作品だった
マイナスから入ってしまうが、ネタバレしたら楽しみが半減するタイプの作品で、スタンスによっては受け付けられない人もいるのって作品としては致命的なのではと思ってしまう。仮に合わなかったとしてもガハハと笑って済ませてくれる人にのみ自分は勧めるかなと思った。
まず、人によって受け付けられない要素の一つは主人公の黒須太一だ。彼はコンセプトとして物語の開始時点では人間に擬態した怪物であり、行動について読み手が共感しやすい要素が序盤においては一切ない。
ギャルゲ―・エロゲーを読むためのスタンスとして、主人公を三人称の視点から第三者として俯瞰して読むか、主人公と自身を同一化して一人称の視点で読むかの大きく分けて2パターンがあり、後者のスタンスで読む場合は拒否反応を起こしてしまう可能性が高い。
精神面においてもそうであるし、最初の時点で主人公と読み手の間で与えられている情報量が大きく乖離していることも同一化において没入できない理由となるだろう。プレイヤーによって極端に評価が分かれるのはこの部分が障害になっていると考えられる。
先ほど読み手が共感できる要素が一切ない主人公であると指摘したが、それはあくまで序盤の話であり、読み手も異質なものとして主人公のことを見てきたはずであるにもかかわらず、最終的には太一に対して一人の人間として共感してしまう点がCROSS†CHANNELの凄い所だと思う。
絶望的な生育環境の中で心を壊し、化け物となった太一は、精神疾患を持つ同じ傷を抱える仲間たちとの交流により、人間の演じ方を知っていく。それはあくまで表層的なものであり、霧には見破られて距離を取られるのだが、ループ世界の経験から皆をこの世界から解放するという目的を持ってから、少しずつ欲求を抑えて人間として変わっていく様子が描かれている。
内なる欲求に抗いながらも懸命に目的を達成しようとする姿を見て仲間たちも太一の変化に気づいていく。そして、全員を送還したその時に皮肉にも太一は普通の人間になった。一人の世界で他者との交流を求め、ラジオで誰かに届くことを願って語り掛ける太一に対して気づけば共感してしまっている自分がいるのだ。
人間に擬態した化け物でしかなかった太一が、仲間たち以外に人が存在しない世界で一人の人間になるまでの過程を描いた物語。これを軸に振り返ってみると、これほど綺麗で簡潔にまとまっているのは素晴らしいと思う。
人は本質的には一人、誰かと心を重ねて同一化することはできないし、依存をしてもその事実からは逃れられない。他人を完全に理解したと思うのは傲慢であるし、他人にもまた完全に自分を理解してもらうことは期待できない。
誰しもが抱える人生の孤独においてできることは交信のみ。自分なりに考えた言葉で相手に自分の考えや気持ちを伝えていくしかない。
そういった交信が交差するのが今の人間の社会であるなら「CROSS†CHANNEL」というタイトルにも納得がいくし、太一があの世界で一人取り残されながらも、人との交信を求め続けるのが人間のあり方であると考えるならこれ以上に納得のいく結末はないと思った。
どうしても主人公の変化がメインの内容であるため、ヒロインに対する言及が少なくなってしまっているので、そちらについても思ったことを話しておこう。
個人的に刺さったヒロインは美希で、彼女だけは人狼ゲームの村人として参加して人狼の太一と曜子から逃げるように立ち回り、ループ世界において自分を保ち続けることを選んだ。
再構成されるとしても今の自分の意識がなくなるなら、それは他人であるという考えには共感しやすい。それでも終わりのないループに疲れ果て、最終的に太一を思いを寄せたことから再構築を受け入れる。再構築後の美希の姿を見ると彼女は最初に出会った美希ではないことを本質的に理解させられ、再構築された美希との交流はどこか寂しい気持ちになってしまうものだったと思う。
昨今では異世界におけるループ系の作品は珍しくもないが、2000年代前半のこの時代においてここまで完成された作品があったことに驚かされた。賛否分かれる作品ではあると思うが、個人的にはプレイして良かった。
過去の作品ということもあり、感想を書いても中々読んでくれる人はいないと思うが、最後はやはりこの言葉で締めたい。
「生きている人、いますか?」
今、CROSS†CHANNELの批評・感想を読んでくれている人に、私の交信が届くことを信じて。