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saisalyさんのCANNONBALL ~ねこねこマシン猛レース~の長文感想

ユーザー
saisaly
ゲーム
CANNONBALL ~ねこねこマシン猛レース~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
40
参照数
479

一言コメント

一言でこの作品を片付けるなら「愛すべきガラクタ」。レースに関する描写に欠陥が多いし全体的にご都合主義多め。最終版とされるバージョン(雑誌付録/2015年版)でも回想にバグもまだあるなど壊れている。個性的で魅力あるキャラクターや世界設定、声優の熱演、OP音楽、バックボーンの設定には魅力が十分だがクラウンの力関係の設定上の無理をきちんと処理、解決しないのでレース部分やシナリオ内での「レース外で実力のみのガチな部分」での展開でおかしな部分が多い。強引でプレイヤーを置き去りにしているシナリオを勢いと取るか、雑な手抜きと見るかで評価が分かれる。率直な実感は 「シナリオが良い作品」ではなく「プロット(こういう話を見せましょうという企画、発想)」は良いけど「説得力、リアリティ(クラウン間の組織力/経験や実力の差)を感じさせる、縮める描写を加える事ができず生煮え状態で出荷された作品」。酷評。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2021年3月3日、大幅改稿。

「シナリオが良い、悪い」という評価、感想を見かける。
ただ、シナリオというのは作品全体を通しての物語ではなく、物語を支える「場面ごと」での出来事や
登場人物の会話、言動、行動とその結果(結末へとつながる複線、行動)の事だと考えている。

つまり、シナリオとは物語の場面部分であって、その部分の見せ場が格好良いからといっても、
その場面の格好良さに裏づけがないと茶番である。

このゲームに関して。
登場人物の力関係が、主人公が弱く未熟で、組織力や経済力が貧弱で、レースマシンの
メンテナンス力まで応急手当程度という状況がゲーム開始時点の立ち位置で、相当の劣等存在、
弱者としての現状がゲーム内で起きる出来事によって一向に改善されないのに、レースで圧勝し、
他の実力者を乗り越えていくので、設定上の力関係は整合性としては破綻している。

ライターが、登場人物間のその時点での力関係を正しくアップデート、修正していかないのが
問題で、大変不自然で、ご都合主義としか感じられなくなっている。

ストーリーとシナリオは別。
前段で書いているが、シナリオは章節、場面であって複数のシナリオを繋げたものの集合体が
ストーリーだ。
物語の進行中に、描写しなければならない変化、出来事が描写されない事で
不自然さが発生したり齟齬が起きてしまうと物語に没入できなくなる。

齟齬は、登場人物や世界観に設定された決まりごとが無視されるような挙動が発生した際に起きる。
不自然さの緩和や不自然さの否定のための理由付けには齟齬、つまり矛盾を齟齬でないとする理由付けを
正しく読み手に提示していなければならない。


◆作品評 序文
幾度も開催されている大宇宙を股に駆けた命懸けのキャノンボールレースに、レースの知識も持たず
それどころかキャノンボール自体を知らない、レース用マシンの操縦経験もなく、レース未経験の
フィリオを主人公に、彼が成り行きで出会った謎めいたネコミミ型シミュラクラのフォックスバットを
メインヒロインとして、彼女の為にキャノンボールレースに参加して優勝を目指すと誓いを立てる。
優勝により銀河一のレーサーと認められる事で、文字どおり銀河一の女にするために、何の後ろ盾もなく
初参加にもかかわらず果敢にレースの苦難を乗り越えて、各組織やクラウンの思惑が渦巻く中、
暗闘が繰広げられる終盤の混乱を生き抜いて最終レースで勝利!
見事に初参加ながらキャノンボールレースで見事優勝する、という物語、それ自体は良い話である。
(どう始まって、何が起きて、最後どうなったかについて)ストーリーも全体で見れば悪くない。


謎めいたネコミミの美少女シミュラクラの少女のフォックスバット。
謎めいた美女、レースの常連である数々の腕利き。
魔王、ラウンドの騎士、魔女・・・。
様々な異名で恐れられる腕利きたちが所属、または率いる宇宙国家や、
組織にまつわる様々な背景や暗闘など。設定については大変魅力的だった。
大宇宙+大レース+謎めいた人物たち。ド派手なレースマシン、競争相手の相関関係。
物語の為に、とても魅力ある世界観の舞台と題材、登場人物を登場させている。
主人公が相手に回す各クラウンとそのパートナーの言動は、魅力的で、怪しげだったり、ひたむきだったり
格好良かったり。
癖のある登場キャラクターも上質で、台詞回しにもセンスを感じる事ができる。

大宇宙を駆け抜ける大レース、「キャノンボール」。
レース参加者が各々ごとに独自のレース兼戦闘マシンを駆って、命を賭けて最速を競う!という主題。
その壮大さ、スケールの広さに期待は膨らんだ。
「こういう世界や物語を見せたい」って意気込みは素晴らしい。世界観も良くできていると思う。

音楽も連弾から始まるテンポの良いオープニングなど耳に残るは良い。
音楽もおしゃれで悪くない。

つまり、プロットは非常に秀逸。宇宙で、巨大なマシンに乗り込んで危険と隣り合わせの大レースを繰り広げるという。
登場人物は謎めいていて、怪しげであり、ユニークだったり、格好良かったり、大きな組織を率いていたりする。
それから、これはSF 。非常に、SFとしても期待できる設定である。

ここまで書くと、十分褒め称えているし、普通なら酷評にはならない。
だが、いろいろ批判を書き連ねたのには理由がある。


本作品を遊んだ結果は……。
これは曲がりなりにもレースゲームとして、タイトルにも「レース」と銘打っている。
それなのに、私はこれをレースゲームして評価するのは無理と確信してしまった。
つまりは、がっかりしたのだ。

●作品評 前段

フィリオチームの総合力はレース参加者「クラウン」の組織の中でも間違いなく下から数えて2番目か3番目
開始時点では最下層、というのが、シナリオライターの設定であるのは間違いない。

キャノンボールって何だ?とか、マシンも持っていなかった(載った事がなかった)、お金を使い切ってしまう場面や、
トト、フィリオ、フォクシィの3人しかいないチームであるという描写、メンテナンスは何とか間に合わせと
作品中、コレで本当に大丈夫か?と目を覆いたくなる場面を、私はプレイヤー(読み手)として見た。(見せられた)

フィリオのチームの初期スペックを何段か下に挙げるが、そういう状態で始まるわけだ。

しかし、だ。
いつの間に得た力なのか知らないが、少なくともリタイア寸前に追い込まれない程度には
渡り合えるようになっている事実に説得力が全く感じられない。
予選を終えた後のストーリー序盤からすでにこうである。
本選レースパートでの「プレイヤーの介入」で、このど素人が「ベテランやチャンピオン」と
かなり早期から、堂々渡り合う事が出来てしまう部分がとても不自然である。

その原因はもっぱら、プレイヤーの操作、神の介入という手法による。
(プレイヤーがフィリオに自己投影、移入しているのだからプレイヤーの判断で勝てていいはずだ、というのは
 フィリオチームに与えられた実力、環境上の設定が、上方修正側へ上書きされない限りは間違いである。
 プレイヤーとフィリオチームとチームの各々が持つその時点の実力は分けておかければならない。)

レースゲーではマシン、主人公とサポートするチームメンバーの能力は他のライバルとの戦力差を
何らかの形で示すのが自然である。具体的には、数値化による可視化。入賞回数などの実績の羅列でも良い。
そうして、数値で差別化することで実力の違いが明確化するから、プレイヤーにより自然に伝わるからだ。

このゲームがレースゲームでありながら、それも全てを文章で見せる形式ではなくプレイヤーの操作を必要とする、
シュミレーションゲーム的な要素の含まれた仕様であるのに、基本スペックを数値化して可視化しない、という
製作側のゲーム造りにより、ラウンド時点ごとの実力差が解り難い。
その上、プレイヤーの操作、神の介入が原因としか思えないレースでの拮抗した結果が生まれる。

幕間部分でのクラウン同士のストーリー上でのやり取りや、高い実力を身に付ける成長、マシンの強化などは
行われないまま物語は進み、中盤あたりになるとフィリオの設定上の能力は、もはや忘れられたかのようである。
初参加のレースではあるが、数ラウンドの走行を終えた事によるレースへの慣れなのだろうか。
ベテランだけではなく悪魔、チャンプ、魔女等の伝説的なクラウンが相手のレースでさえ互角に戦うなど、
何故それ程の実力を持つに至ったかが描写されず不明なままの為に、レースの真剣味というものに
疑問が生じ始め、白けてしまう。 神が勝たせているラッキーなマグレ野郎と思えてくるからだ。
フィリオチームが相対比で最下層、贔屓目に見て下から数えていくら目かの実力という開始時点の設定は
一体何処へ行った?? 各ラウンド時点、予選当初比での現時点との成長状態は?

◆初期状態

フィリオ
走行経験もほぼ素人で予選でレースを体験しただけの「素人に毛の生えた」レベル。
キャノンボールが何かも知らなかっったので、キャノンボールという実戦のレース大会参加は当然なし。
メカニック(メンテナンス/サポート)は充実していないのでレース後のマシン整備は
毎回「何とか走れるようにしている」程度でフォクシィとトトが毎回急造作業でしのいでいる
(整備力が高くない)、おそらくマシンはボロボロ、整備に追われるチームメンバーは毎回疲れてへとへと。

スポンサーやバックアップ組織がなくて、基本的にメンバー3人の手弁当で、レースマシンの性能の差、
クラウンとしての操縦技術、搭乗経験の格差、レース経験の歴然とした差などがある。
シュミラクラのフォックスバットが錯乱するレースがある(レースにパートナーとして参加するのは初めて)
レース参加当初、資金を使い果たして無一文、必殺技も持っていない。

相手
大会屈指の強豪、チャンピオンを含む実力派集団
出場経験は何度も、走行経験豊富、戦闘経験もある
操縦者がマシンの操縦に習熟していて、マシン自体もカスタマイズ、高性能化されている事が十分に考えられる
(資金力、組織力)
スポンサーやバックアップ組織がある、またはクラウン自身が組織の長
メカニック(メンテナンス/サポート)も充実している。または、フィリオほど酷い環境ではない
特別な必殺技あり。
頼れる(命を預けられる/信頼を置ける)パートナーがいる

設定の比較要素に
メカニック&メンテナンス(機体整備の環境力)、クラウンとしての操縦能力、操縦経験、
パートナーの能力、機体バランスや攻撃力&機動性、装甲、武装など、レースマシンの性能
得意な走行コース、、レース経験、組織力、資金力・・・etc
まだ幾つかあるはず

この辺は非常に大きな格差なので数値化して欲しかった。
数値化すれば、プレイヤーの介入操作があってもある時点で勝負にならないものはどうしようもなく、相手の弱体化や
コンディション不良が発生した場合、またはフィリオチームに何らかの成長要因が発生した、またはレースマシンが
より性能が良くなった、とか、パーツを上位品に交換した事で出力や性能が向上した、とか・・により、参加者の
格差の縮小が起きて、実力が接近していく流れにも説得力が出るのだけど。
(でも、ここで挙げたような、成長や弱体化というイベント自体が一切ないのだよね。終始、勝負においては
格を無視した結果を出すし。どう考えても、基本スペックが違いすぎて勝負にならないのだが。)

★不自然さの原因は★
「膨大な諸々の、主人公側と他クラウンとの間にあるクラウンとしての力の差を埋める、縮める描写を
 きちんとやっていない、遊び手に示さない為」に尽きる。

実力向上や機体の性能向上、進化などの描写が無いに等しい。
フィリオだって技を覚えることはあるが、相手だってフィリオの習得した技に負けない必殺技持ちだから
成長要素がそれだけでは、もともとの差はとても縮まらない。
だからこれだけでは不十分。
それから、フィリオが努力するとしてもだ、してもその分他のクラウンだって同じくらいには努力するはずだ。
クラウン間にあるあからさまな格差をなんとかして乗り越える、埋めるような描写展開が話の進行上あるかというと・・
技の習得だけ、+αの部分がなかったね。一切なかった。それだけでは到底不十分なのに。
終始、必死に応急処置的な、間に合わせのレースマシン修理をしていたり、時にはフォックスバットが錯乱して
使い物にならなかったレースだってあるのに。


●作品評 中段
レースパートはキャノンボールという魅力あふれる設定の土台である。
だけどこの以下の理由によってレースパートは邪魔ですらある。

本選レースパートは現在の実力は数値化されず、フィリオのライバルとフィリオの実力差が不明瞭のままで、
本編でも成長が促される部分が無いのに「プレイヤーの介入により時点ごとの実力格差の設定が歪められる上、
「フィリオの命に関わるようなシナリオが発生しているとはいえない」からだ。
文章で見せた方がずっと良いのではと思うほど、題材の本質を無視している。
これは命を賭けた競争だ!だけど、だけど!主人公も対戦クラウンも死なない。マドロスは謀殺だとして、他にはな。

付け加えるなら。
順位がストーリー上の重要な結末に影響しない。ビリでも、1位でも。
命懸けを謳っているレースなのに、すごく嘘っぽいんだ。
勝利、敗北による結果があるからレースといえ、勝ち負けによる分岐はクラウン同士の関係や会話において、
微妙な変化を生むはずである。
それにも拘らず、フィリオチームが優勝するという結末はそれまでの順位に関わらずどのルートでも同じなので、
ゲームでプレイヤーが介在するパートが競争としての役に立っていない。

◆作品評 の文章内に「加速、加速、戦闘でダメージを酷く受け~」の段で書いた

「どんなレース展開でも」優勝してしまう。」
極論だが、インチキについてなぜそう考えるかについては主観などではなく実証可能である。
インチキと評する理由を記すが、下の不思議な処理がそれ。

11レース目のレースでペースダウン(減速)しか選択せずにレースを進めた。しかし11レース終盤最後
強制的にトップ集団入りした上なぜか2位の位置に強制的に配置されてパティとのバトルに突入。

https://gyazo.com/b801f3ef0c3b7d8f97a0cb6016527944
(この画像のシーンは11レース最終地点、ここまでペースダウン「減速」以外を選択していない。
 つまり、「フィリオがレースで最下位になるための意図的な実験プレイ」)

本選の全ての場合でペースダウンをしても最後の急展開のシナリオ進行後、2位保証って、一体なんなのか?
設定上の力関係もレースの成績もレース運びも無視する酷いご都合主義。

キャノンボールは命がけのレースだ!、だの何だのと格好いい主張であったはずだ。
それを序盤にプレイヤーに見せて、物語に引き込んでおきながら。11レース目で全部ペースダウンしたとしても、
フィリオを無理やり最低でも2位に持ってくる順位の処理には空いた口がふさがらない。
(ここでバトルに勝つか勝たないかで11レースに関しては1位、2位に分かれるが、最低でも2位の順位は
保証される。)

11レースを取り上げたが、他のレースでもただ上位に入りたいだけならペースアップ(加速)を繰り返し、
爆発クラッシュによるゲームオーバーを回避する為に1回ピットインを行い、1~2度挑まれるバトルを
ステイシスフィールドで退ければ楽に上位入り可能。
レースは命がけだと聞いていたがちょろ過ぎ。順位なんて結末に無影響、無関係なんだよね。


さてはて、実力格差の不自然な無視といんちきレース、または簡易上位プレイが可能である事。
それからもっと驚いたのは12レースの「生き残った連中でレースを再開」という展開はそれでもいいのだが
それまでのレースコースでコマンド入力するレースパートではなくて文章でレース展開が進み、
フィリオが優勝者になってしまう都合の良い展開。これは名目だけでも操作をして順位を争った
今までのレースも含めてキャノンボールという催しさえも寒い茶番へ変えてしまっている。
それまでの経緯、順位を無視して、最後の最後は(レースパートによるプレイヤーの干渉の余地も排して)
何が何でもフィリオが勝つのでは猛レースではなくインチキ出来レースと非難されても仕方がない。
実力差を埋める展開などに加え、時々であれば実力以上のものを見せる演出もありで
協力者がいたりして問題を乗り越えていく。というなら筋が通るが、これでは実力関係なくてライターの贔屓。

シナリオライターの筆力で最後に無理やり勝たせており(上までに書いた経緯から実力ではないとしておく)、
作劇の都合、いい話で締めたいので勝ってめでたしめでたしとしたいという都合や意図は理解してあげたいが
フィリオが実力をつけて勝てるだけの力を手に入れる描写が行われないのでガバガバ。

作中で、パティやらアナスタシアは「設定上の実力」で勝とうと必死にレースをしているのに、
レース初参加で実力未知のフィリオが勝利=「ライターによるいわば神の采配でフィリオが勝つ」ので
私は彼女らが可哀想だと思ったね。本当に。

クラウン(レース参加者)として歴戦のチャンプのブッチ、ミスリルの大魔女メルクリウス、
ラウンドの騎士ギャラハッド、魔王バルトアンデルス、他にも実力ぞろいのクラウン達の面々に対し、
やる気と根性以外でフィリオが何か1つでも「キャノンボールのレーサーとして」どこか勝っている部分が
あるのだろうか?

歴戦のチャンプのブッチ、ミスリルの大魔女メルクリウス、ラウンドの騎士ギャラハッド、魔王バルトアンデルスと
いった面々はレース経験も豊富だろうし、戦闘経験も豊富でマシンも強力だろう。
組織、勢力がバックにあるか独力でも戦える存在(魔王)という設定。 基本的に強者の設定を持っている。
そのほかにもパティ、アナスタシア、スティーブン、レジーナなど一癖ある巧者をどう抑えたんだろうね?

強敵を見ると、フィリオ以外のほぼ誰もが優れたメカニックチームを有しているか、または搭乗者とパートナー自身が
高いメンテナンス力を持っている、という描写が見受けられた。
毎試合後に機体整備も抜かりないだろう。レース経験も豊富だろうし、必殺技もあるし、パートナーだって優秀。
省みてフィリオってマシンメンテナンスにも四苦八苦しているようなチームだ。
そこだけ抜き出しても壊れかけの応急処置状態のマシンで戦うチームが、おそらくはまともに毎試合後に
整備されているであろうマシンを操縦する、経験豊かな相手クラウンチームに勝つのが全く不思議(異常)で
実力と結果が不相応だよ。
客観的に、基本設定上の差を意識すれば確かに中位に食い込めるかもしれないが優勝できるかは怪しいよ。

ここがきっちり書けていればフィリオの勝利について上記で「神の采配」なんて書かないし、膝を叩くように
合点がいくのだが。
まさか、ほかのクラウンはフィリオにわざと負けてくれたの・・?ってそんなわけ無いし。

ものすごい実力者をプレイヤーの対抗として用意するなどクラウンの格差を設定として用意してプレイヤーに
示したなら、その差を物語が完結するまでの間にどうにかするのが、シナリオライターの筆力、腕の見せ所じゃない?
私はそう思うのだが。

さてさて、こいつにゃ今のフィリオじゃちょっと勝てないだろうが……。
しかし「運も実力」、「勝負事は時の運」、「まぐれ」・・など不利な状況にはいろいろ使い古された
「僅かな勝機に賭ける」ような見せ場を迎えてしまった。
さてこの局面でこのシナリオライターはどうフィリオを勝たせて見せるのか?という部分の魅せ方が
ライターの華ではないか?

しかし、そんな場面を迎えるまでのシナリオのどこかにも、フィリオの挽回を可能にするような理由付けの描写は
何もないのはどうなのかと思うのだが。

おかげで、展開の熱い云々以前のお話で、熱いと評価されるでシナリオ場面あろう「フォクシイを助けに行く」シーン、
崩壊後のシーンで「ラウンドの騎士との戦ったり」「メルクリウスを抑え先へ進む部分」などにおいてはフィリオの力が
ゲーム開始時に最下層レベルだったという最初の設定は何処にいったのか?その実力差は縮まったのか?
フォックスバット不在よ、パートナーのサポートがないけれど相手にはパートナーがいて、サポートの有る無しという
重大な格差、ハンディキャップが発生してるけど、どうするのよ? という部分はこの場面に到達するまでに
一切補正されないまま無視され、「格差が埋まらないのになんでうまく話が進むんだろう?」と違和感ばかり残るんだ。

キャノンボールレースの規約に捉われなくてもよい、レースルールの都合で武器性能、実力、生殺与奪まで。
一切合財を抑える必要が無い暴力むき出しの暗闘のシーンを迎え、ここではその場にいる誰もがマシンの出力や
技の使用についても全力で、という状況だから最下層のクラウンのフィリオなどボコボコにされて、機体ごと破壊され、
宇宙の藻屑にされてしまっても当然の状況なのに、である。
しかも、この場面の状況下ではフォクシィ不在なので不在のハンデを負っていて、それなのに
実力がまず及ばない敵を超えるのは不自然だ。

展開が熱いんだ、などと言われる方を感想で見たが、不自然だとは思わないか?
ガワ(外見の世界設定やキャラ付け)だけきれいで面白そうと思わせても中身きちんと書いてくれないと駄目だ。
世界設定やキャラ設定ばかり凝ってないできちんと「成長」「勝負に命を賭けるクラウン」を書いてほしい。
でなければ、あなた(ライター)の都合で劇中で殺されたマドロスが浮かばれないってモノではないか。
雑で丁寧さを欠くので。キャラゲーは勢いがあればいいとかそういう問題じゃない。
きちんとフィリオが操縦者として成長した、乗り物が強くなった、強い武器を得たなどが無いとおかしいよ。

「細かい部分はどうでもいいの、勢いあるからいいシナリオ!」という人は気にしないのだろうが。
説明不足(漢字四文字、ひらがな7文字)という熟語では到底すまない抜け落ちがある。
説明不足、なんてそんな……、不自然な部分を探せば、そんな言葉で済ませられる安易な程度、分量ではないよ。

★レースパートの感想
「負けられないレース本選のはずなのに、レースに負けても(Hシーンが見れないだけで)一切ストーリー上で
ペナルティも無し」では競争とは呼べないし、レースとして破綻している。レースゲームなのに。

これのどこがレースなの? (これ、競争でしょ?)

本選のレースの順位次第で物語の展開にはっきりと大きな変化あるならまだしも、レースの順位が物語に
影響を及ぼさないのに、11回レースもこのパートをプレイヤーに強制する構造が理解不能。

このゲームの世界観の建前としては、キャノンボールレースは危険と隣りあわせで命懸けであり、本選は特に
「一か八か」という危うさを孕んでいる、という事になっている。
その本選レースパートの操作がゲームのプレイ時間中の半分以上を占める。
その中で、危険な出来事を象徴するのがクラウン同士のバトルであるはず。
だけれども、バトルに負けてもリタイア(敗北してゲームオーバー)にならない。ストーリー進行でのペナルティもない。
だったらバトルモードは何の為にあるんだろう?  機体をぶつけ、技を繰り出して戦う意義がまるで感じられない。

レースパートはイベント選択以外でプレイヤーが介入できる限られたパートであり、ゲームの花形、顔の部分だが、
どのようにレース運びをしても必ず11.12レースでフィリオが勝つ=優勝という展開となるため、全く意味がない。
だから、プレイヤーがレースに介在している意味がない。高位順位を得る意味もない。
本選のレース順位次第で優勝ができるのかどうか、物語の結末が変わるのなら、プレイヤーも注意深くなり、
より思考してこのレースに臨むけど、結局何をしようと結果が変わらないならプレイヤーに操作させる必要が
あるのか?
いっそ本選のレースパートは排除して、文章での描写で物語を見せればいいのではないか。
面倒と捉える人もいるパートを11回繰り返し強制する点について、そこがどうしてもこのゲームに必要で、
外せないのなら構わないが、上で挙げた理由のために意味を失い、形骸化していて、だからこそ意義が問われる。

主題がレースでゲームタイトルにレースと題するのに、どうしてメインテーマをこんなに粗雑に扱うの?
順位によってストーリー展開を変更するくらいのフォローはあるべきじゃない?

◆レースのプレイヤー操作の意義の考察
そこで、レースパートについて邪推すると設定解明の会話を見る為に通信という楽しみ方を用意したい、だから
その為に必要だったのかなと。それ以外に思いつかない。レースパートでの結果は物語の結末に影響しないので。
確かにその裏設定を楽しんでもらう為になら順位を上げ下げしたりという行為にも意味を見出せる。
しかし、そこはシステムやプレイヤーの都合の部分で勝利の為に走るというシナリオ上の主題としては
本筋ではない。 もしもレースパートが通信の為に用意されたというなら枝葉の、設定の知識をちょびっと増やす
という本題のレース、クリアという本筋をはずしての楽しみ方のひとつに過ぎない部分の為に強制的にこのパートを
何度も行わせるという事で本末転倒ではと私は考える。

それに走行中の通信やバトルでしか明かされない裏設定を知る為だけに何度もレースをしないといけないのも不自由で
作品上の設定の多くがレース中の通信会話内で明かされるにしても繰り返し何度もレースするのは嫌になってくる。
また、この場合はレース順位を無視した会話だけの為のレースになってしまい、勝敗無視では本筋から逸れてしまう。
レース中にセーブできないのでゴール⇒ロード⇒レースで通信という作業になってしまう。 
プレイヤーが再レース(通信)したくなければやらないと判断できる部分ではあるのだが、作品を設定まで読み尽くそうと
いう場合ははっきりいってこういうやり方は面倒だ。こういう部分にしかレースパートの意義を見いだせないのが残念。

バトルについても負けても機体が破壊されるとか、最悪で敗北爆死ゲームオーバーなどがあるわけでもなく
バトルで相手を倒したからといって、相手がレースからリタイアさせる事ができるわけでもないので、バトルをするかしないかは
プレイヤーの自由だが、レースパートの勝ち負けに意味はないのでバトル部分も仕掛けてくる部分の対応を強制するのではなく
文章で表現すればいいのではないかと思う。

それから、どういう条件で勝者を決めるんだろう?ラストレースだけ勝てば優勝なのか、それとも
それまでの順位がきちんと考慮された総合での判定という(裏設定上)方式なのか。
プレイしていたレースの結末を見る限りは最後だけ勝てばOKというちょろい仕様だったがこの辺りもはっきりしてほしい。

★作品の要の設定、キャノンボールの魅力を伝え切れていない点。ぞんざいだ。

フィリオの父が参加した18年前にもレースは行われていたのに、フィリオが初参加するまでの
18年間のレースの様子もわからないし、勝者も不明で誰が参加していたのかも不明。
キャノンボールという大宇宙を駆け抜ける壮大なレースは、長い間開催されている偉大な競技という位置付けで、
作品の大半を閉める要素だ。しかし、今回開催以外のレースは熱い展開があったんだろうかと想像させるだけ。
(上記検証によりこの作品内のフィリオの初出場回のレースは茶番という感想)

レースのロマンを想像させたいなら過去のレースの逸話、名場面の記録が残っていて閲覧できる、という形で
フィリオを通してプレイヤーに見せるべきだった。
はるか未来の時代の宇宙なので映像をライブラリー化したデータベースぐらいあるだろう。
たとえフィリオが走るという本筋とは違うエピソードでも、偉大で危険なキャノンボールについて、
理解が深まればストーリーに入り込みやすくなる。

プレイヤーとしては、せっかく記録を調べる施設が登場する場面が登場するシーンが序盤にあるのに
わずかしかその装置の出番がなく、以後は利用される事がない。
フィリオは自分が参加するレースに、過去の結果とはいえ関心を持たないのだろうか?
ただの舞台装置に終始していて勿体無く、残念。
キャノンボールレースは物語の根幹なのに、その歴史や過去の扱いがこの程度でいいのか?

◆シナリオ展開への不満

順位次第で本戦後に敗北や別のエンディングがあればまた印象も違ったと思う。 
それから、事故負傷(程度重症)、事故死など(マドロスのアレはレースのせいじゃないので)もう少し命がけの
危険なレースである側面を見せておくべき。
危険を明示する描写が無いので少し気をつけていればちょろくて安全レースばかりになっている。
命懸けのレースを謳う以上、無敵バリア同然のステイシスフィールドははっきり言って要らない。

順位が何位であろうと、予選以外はその後レース展開に影響せす、最下位でもペナルティ無しの緊張感のない
レースをずっと続けて(レースは茶番と思いながら)それなりにキャラの魅力もわかってきてこれからって時に
物語中でわずかにしか触れられなかったアークが、突如クローズアップされる展開は強引すぎる。
唐突に入るネコミミ族の話でレース主体だった物語をぶった切っていって、遺跡の話やアークの話をねじ込まれる。

読み手としてはいったい何が起きたのか、状況を掴みづらい状況に唖然となる。
(気に入った人は斜め上展開で興奮するんだろうけど。) そのまま話が展開し、最後はそれまでのレース展開は
順位などの総合成績が無視され、(全部最下位で11レース2位でも)でも優勝。

競争というレースの大前提である部分をまるっきり無視した、レースの順位の扱いの粗雑な所。
勝ちへの道筋や整合性の補正の無視。命がけというフレーズの軽薄さ。
(陰謀では死ぬが「レースでは」人死なないし)

シナリオの軸足の急変と話の筋がレースへ物語が復帰する流れの突然さ。
最後は無理やりな勝利と全編でプレイヤーを置き去りにする進行の仕方。私は良いと思えない。
登場人物はキャラクターが立っているのに、ストーリー自体はなかなかなのに、シナリオが不整合で
レースというテーマが生かされていない。

◆総評。
全体が雑。かなり手を入れていけば名作になると思う。
レースパートに必要性を持たせる、最低でもフィリオ(とマシン、チーム)をあと3段階ほど成長させる、などの
要素の追加を必要とするね。

キャラクターの魅力と音楽は抜群、舞台や題材も力が入っていた。
が、配役に設定された力量、登場人物の固有能力とのバランスの悪い作品。
キャラの魅力だけ突出してるので最後まで完走できたが、レースをテーマとしたゲームとしては不合格。
だめな点は挙げた通り。

繰り返しになるが、人間の熱気、人格、人物としての言動はきちんと描かれてるのでそれは全く不満は無い。
どういう奴で、何の為にという部分はね。だから、「こいつら格好いい!」という意見感想は自分も同意するよ。
フォクシィだってツンツンしても、たまに可愛い女になったり、トトも実は過去の素性では○○○○だったり
フィリオもそんなフォクシィを「銀河一の女にしてやるぜ!」等と言ってる事だけはやたら格好いいし、
とキャラの魅力は凄い。
が、ライターがきちんと書くべき部分を描かないと空々しくなる。

フィリオをレースの素人と設定して描くと決めたなら、フィリオチームは力量が最下層という事実を踏まえて
物語が描かれていなければいけない。
レース初心者が数週間で、伝説のF1レーサーだったあのアイルトン・セナのようになれますか?伝説のF1レーサーの
ミハエル・シューマッハのようになれる?無理でしょ。初心者が優勝できるだけの能力を得た?どうやったの?

話の動機(目的)が強調されていても、作中でその目的を果たす為に苦闘するキャラの能力は
当初から及んでいない、と設定されている。
フィリオたちだけが冒険する物語ならば理解できるけど、このゲームにはかなりの人数が主人公とその側を
邪魔する、競争相手になる話であるので、ストーリーの最後まで見ても主題の目標を達成するだけの能力を得る、
など栄光のゴールに到達できるだけの存在に、フィリオたちはどのようにしてなれたか、他のクラウンを制する力を
どのように得たか?の理由付けが付けがなされていないと齟齬がおきてしまう。そして実際齟齬だらけだった。

「命がけのキャノンボールレースにレース未経験&レース用マシンの操縦も出来ない素人のフィリオが出場し、
メインヒロインであるネコミミ型シミュラクラのフォックスバットをキャノンボールレースのチャンピオンの相方という、
文字どおり銀河一の女にするために、何の後ろ盾もなく知識ゼロで初参加にもかかわらず、たった3名チームで
苦難を乗り越え、暗闘が繰広げられる中を生き抜いてキャノンボールレースで見事優勝するという物語?」

簡潔に書くと格好いいストーリーだけどゴールに繋がるレース部分で「成長」がきちんと描かれていない。
命懸けの危険なレースとの事だが、レースじゃ誰も死なないんだけど。
(マドロスが死んだから「命がけ」だと言いたいのか? あれはレースじゃなく謀殺だけど。)
そうじゃないと思うんだけどね。
バトルでもレースでもどんなクラウンでも、関係なくあっけなく、バトルのダメージなり、レースのダメージなりで
爆発して死ぬくらいじゃないと命懸けとはいえないだろう。
レース中、フィリオより前方の先頭集団の他のクラウン同士が戦い合って、片方がマシンを破壊される場面を
フィリオが目撃する、などのシナリオがあればリアリティが生まれるのだけど、そういうのも無いしね。
最弱が底から這い上がって強者となる。最弱は強者になるために死に物狂いで戦う、実力を磨く、その様を見せる。
そうでなければ、最弱だけどやがてチャンピオンになる結果に説得力がないよ。

それから、システム的にはバトル、通信など、せっかく設定、機能として操作可能な部分として備わってるのに
ストーリー進行上、してもしなくてもいい部分となっている。必然ではなく趣味の要素に成り下がってる。

通信やバトルの機能をシナリオの必要性として持たせるなら
「通信を一定回数行わないと体験できない個別ルートや、イベントの用意」、「バトルを一定回数行い勝利」、
「通信複数回&バトル複数回勝利」が条件のイベントの用意などあるとよかったのだけどね。

反対にクリアの為に、このラウンドのレースではこの順位以上でなければベストエンディングに到達しないとか、
この相手にバトルで勝利している必要がある、とか。
物語上の必須の、必要性を感じる行動が「予選通過以外は無い」ので、レースパートが邪魔になっている。
いっそ読むだけのノベルにするとずっとすっきりする。

必要性といえば何遍も書くが本選レースパートがストーリー展開にほとんど影響を与えないなんてどういう事なんだ?

◆総評2
おかしな部分が多い=必要な部分が足りておらず、最低限読めるレベルにどうにかまとめただけとも思える。
勝負、競争が主題のお話なら最低限あるべき必要な部分が、ごっそり抜け落ちている印象を受ける。
ただでさえバグだらけなのでデバッグすらする時間的余裕がなかったのか、それならばシナリオ上の必要上の描写も
する(テキスト用意し場面を作る)が間に合わなかったのだろうか、生煮えだなって印象。
素人が上手くいくように話の筋道を面白く説得力も伴うように構成して文章を書くのは大変だと思うけど、
このゲームのように、肝心場面を「詳しくは想像にお任せします」と言う風な投げ方じゃダメだね。

声優の演技やキャラの魅力で+30点。OPの音楽で+10点、あわせて40点とする。
発売当時にプレイしていたなら10点。バグがたいそう酷かったと聞き及ぶので。
減点する部分があまりに多い。しかしキャラクターの魅力に富んだ「愛すべきガラクタ」という所だろうか。