純愛版になって追加された部分は、作品全体に非常によい影響を与えている。
この作品は、大きく二つに分かれてしまっている。
一つは、(はぁと)の部分。
もう一つが、純愛版の部分だ。
そして、この作品を評価できる部分は、純愛版に偏っている問題があることを、最初に指摘しておく。
問題なのは、純愛版では「野球」を背骨にして組み立てられていることに対して、(はぁと)では兄弟愛しか取り扱っていない。
このために、どうしても(はぁと)の内容が軽く、純愛版の内容が重く感じる。
また、それに関連しているが、(はぁと)部分では、達也と優香以外は全て脇役になってしまっている。
このために、純愛版で、唐突に虎牙が主役の一人に登場してくる為、違和感が発生してしまう。
このちぐはぐな部分を解消するべきだった。
仮に自分が作るとすれば、(はぁと)はプロット程度に止めて、純愛版での「野球」を中心としたシナリオに組み替えるだろう。
達也・和也・虎牙が本気で野球に打ち込んでいた時代から分岐させ、「野球馬鹿のそれぞれの人生」を書き上げる方が、よっぽど良かったと思う。
達也はバッターとして、和也はピッチャーとして、虎牙はコーチとして、それぞれの人生を歩むことを前提に組み上げるべきだった。
その中で、3人と優香を組み合わせていけば、非常に素晴らしいシナリオになったはずだ。
よって、80点にとどまる一番の理由は、「制作するときに、(はぁと)を捨てられなかった」事につきる。
が、80点は、決して低い点数ではない。
確かに、(はぁと)と純愛版の差が目立つが、特に純愛版で追加された要素は、非常に充実しており、また十分すぎる出来となっている。
「野球」という背骨を、誰もがみんな、純粋で真剣に見ていることが、よく伝わってくる。
「人生にとって僅かな時間でしかない」時では描ききれない、「もっとずっと長い野球人生」を描ききっていることは、高く評価したい。
10年後、20年後があるからこそ、今現在が光り輝くのだと言うことを、十分に感じさせてくれた事に、感謝もしたいほどだ。
この作品は、総じて名作ではない。
やはり背骨のない(はぁと)部分は、致命的欠陥を残している。
が、それでも、純愛版で加筆された部分の為にやっても、後悔はしないだろう。
この純愛版のクオリティで次回作が作られんことを願うばかりだ。