良質な女装ゲーかつセルビアで起こる、無能力者の立場から語られる能力者事件の物語。作者の読みやすいテキストはそのまま、動く絵もUIも過去作とは一線を画すくらい良い出来だった。ティラノ製にしては比較的バグも少ない。
共通
VS第9あたりまでは少し分かりにくい展開もありましたが、それ以降は楽しく読むことができました。
同ブランド作品特有の主人公の心情をコレでもかというくらい掘り下げまくるテイストが復活したのもあって面白かったです。ノリノリで始めた女装で結果的に精神がめちゃくちゃにされていたのもすごく良かったです。ここまで女装という行為に着目した作品だったとは思わず、予想もしていなかったところから横っ面を殴られた気分。
他のメンツに関しては、個人的には描写の良さが目立ったのはネデルカ、単純に好きなのはデジャンでした。
ネデルカは作品中で一番出番の長い女キャラですが、物語冒頭いきなり彼女が主人公に泥棒を見咎められるところから始まった時は、大丈夫か?と素直に思ってしまいました。その後も彼女の心情の変化や考え方、暮らしぶりからやはり大丈夫か?とはなってしまいましたが、普通の作品では見られないようなキャラだったと思います。
デジャンは褐色男子というノベルゲームであまり見ないタイプでまず惹かれ、彼を取り巻く数奇な運命に目が離せませんでした。なんなら、今作の共感枠は主人公より彼の方だったような気もします。彼の煌めきに、主人公も誘蛾灯にむらがる蛾のように惹かれてしまった理由もよくわかります。
LINE 2
ネデルカED。ネデルカのメスっぽさが好きです。
LINE 3
デジャンED。デジャンの魅力は最後まで衰えることが無かったのが正直なところ驚きでした。
LINE 1、4
もはや何がフィクションで何がノンフィクションなのかわからなくなりました。シズキとは?ジーマとは?だんだん雲行きが怪しくなってきました。
LINE 5
唯一完全フィクションと明言されているED。書き手の意識変化に触れているのは面白かったし、デジャン君が一番メインっぽい扱いを受けていたところは満足だったのですが…
マリヤが生きているので、これは少なくともマリヤを殺す前に書かれたのでしょうか。マリヤを殺したところまでフィクションだと考え始めると、この作品自体が何だったの?となりそうなので…
その他
・tips等ドキュメント
今作はメインシナリオ以外にもそれを彩るコンテンツが多く、それらを読むのが楽しかったです。
総評
とても楽しめました。主に女装関連。女装要素に関してはこの作品を越えて私の好みにハマるノベルゲーム作品はまず無いでしょう。また絵、音楽、UIも前作からさらに磨きがかかり、バグも少なくゲームとして正統進化していて良かったです。
この作品自体が面白かったことは確かですが、ここまで同ブランドの作品をプレイしてきて思ったこととしては、やはりこのブランドの作品構造自体、私自身あまり受け付けないのではないかということです。
煙にまき、真実をぼかし、虚構で飾ること自体が悪いと非難したいわけではありません。ありませんが、面白かっただけに結局どう噛み砕けば私はこの作品をきちんと消化できるのだろう?と常に悶々としてしまいます。悶々とさせるのがこの手法を取っている目的の一つだろうだけに、正しく術中にハマってしまっている感はありますが。
なんだかんだ書きましたが、楽しかったことに変わりはありません。次回作も楽しみに待っています。