およそ7年も発売できなかった作品。序盤はシリーズ1引き込まれたものの…結局シュタインズ・ゲートという山の、その頂を垣間見ることすら叶わなかった。また、あくまでゲームシステムの面白さよりも読み物としての読みやすさを求められるノベルゲーとしてはかなりダメな部類に入る。
作品への好感度 D(S・A〜E)※面白くなる余地はあった
他人へのおすすめ度 E(S・A〜E)※シュタゲのプレイはほぼ必須
前置き
この感想には、科学ADVシリーズについてのネタバレが含まれます。
ほぼ一本道な作品のため、良いと思った点とどちらとも言えない点、悪いと思った点について記載、その後総評という流れで書いております。
■良いと思った点
・演出(マンガトリガー等)
漫画演出(マンガトリガー)といい、一枚絵の量といい、常に画面が賑やかで楽しかったです。特に二重スリット実験の時のマンガトリガーが良かったと思います。
・OP
シリーズ通してオープニングはかなりクオリティが高いですが、本作はその中でもかなりカッコよさに特化した感じのオープニングです。OPまでの導入シナリオといい、否応なしにこれからのシナリオ展開に期待させられます。
△どちらとも言えない点
・絵
絵柄は他のシリーズ作品と比べてリアル調になっており、好みの分かれる画風だと思います。
そちらはいいのですが、立ち絵・マンガトリガー・一枚絵でだいぶキャラクターから受ける印象が違うのがなんとも…大きな作画崩壊は無かったのですが。
・過去作ネタ
牧瀬紅莉栖(アマデウス状態だけど声付きで出演)や世界線などといったものから、フラウやギガロマニアックスネタまで大小様々ありました。9割強はシュタゲ関連。オカンネタもあるらしいですが、未プレイなのでわからず。
“紅莉栖”が実際に出てきた時だけは嬉しかったものの、結局シュタゲ頼りでしかこの科学ADVの世界は展開できないんだなという気持ちにさせられました。
・キャラクター
数だけはたくさん出てきましたが、結局何も明かされず、触れられないキャラがほとんどです。謎人物であったジュノとケント、1番の仲間であるクロスや、アスマのことを気にかけていたユアンですらほぼ何も語られずじまいなのだから、シナリオのボリューム不足がそのままキャラの薄さに繋がってしまっている感じです。物語と絡み合ってキャラクターの良さを認識することはできず、設定資料をそのまま提供されている感覚に近いです。
1番長々とやっていたアスマの心情についても、終末手前の2ヶ月のやり直しで有耶無耶にされてそのまま放置されてしまいました。彼の慟哭は良かっただけに、あっさりした締め方に驚愕。
・全体的なシナリオ
まず、何をおいてもとにかくボリューム不足。FDであるロボノDaSHより体感では短い、一本道構造。ヒロインを攻略する形式でないのなら一本道でも良いとは思ったのですが、その一本道シナリオも厚みが足りず面白く感じませんでした。
シナリオを何度も変更したからか、世界層世界層と言いつつ世界線ベースの話が続き、主人公の能力がシュタゲの岡部みたいなこともあってか結局これシュタゲじゃん…みたいな気持ちになりました。
シナリオの全体的なことを総括すると「とにかく味を薄めたシュタゲ」でした。グランドエンドもあっけないもので、紅莉栖と岡部のあのエンディングの焼き直し感が満載。謎も謎のまま放置されたものがいくつかあり、続編や完全版前提な作品を7年も制作していたことに落胆しました。
ただ、今までの作品よりも序盤の掴みは良く、不快感を覚えるような展開(キツめのセクハラや下ネタ)はかなり抑え気味だったため、そこは評価できます。
□悪いと思った点
・6章
とても短い閑話休題的な6章。ポロン達がサイバーフォースドールのライブ演出に携わる話ですが、演出を作るシーンもダイジェストならば、せっかく用意した新曲を使ったライブシーンもほんの数クリック分しかないため、このわずかなシーンのために新曲を作った意味も含めて6章の必要性が理解できませんでした(曲自体はグランドエンド後に少し流されましたが)。
・11章ラスト
ライフゲームをしないと最後の展開まで見られません。今までのトリガーでの分岐方法から予測できるものから逸脱しており、クリアした今でも「どうしてそうしなければいけなかったのか」がよくわかりません。
・「ノベルゲー」として遊びにくい、読み心地が悪い
ノベルゲームに、実際に私たちが触る部分(セーブロードなど)を遊びとして組み込んだメタ要素を含む作品だということはわかります。ただ、そのせいでノベルゲーとしては色々とプレイしづらいと感じました。
セーブ・ロード機能は、ゲーム(主人公・ポロン)側がセーブした所も私たちがセーブする部分も共用であり、私たちは1番からセーブできずにズレたところからセーブを始めるしかありません。
分岐方法として選択肢の代わりに存在する「ハッキングトリガー」は、選択できるタイミングもゲームを読み進めているだけではよくわかりませんし、少し読み進めてしまうとすぐに主人公が諦めてしまい、分岐できなくなってしまいます。それに加え、不要な時に間違ってトリガーを出すと主人公にいきなり怒鳴られたり呆れられたりするため、プレイしていてムッとすることが多かったです。
また、かなりの箇所(マンガトリガー展開時や文字がない映像的な演出が使われるシーン、一枚絵表示中や他者視点の時など)でバックログが読み込めず、一部は後から見返せるものの完全にリセットされて全く見返せないシーンも多々あります。バックログの機能を作中のガジェットである「BMI」の機能として定義したからこその不便さだと思いますが…コレが1番ひどいと思いました。
これだけ世界観設定を盾に機能面を悪くした挙句、セーブロードが大切な設定の一つとなっている作品で何故か存在するオートセーブ機能。オートセーブが存在しないとさらに不便になると思ったから付けた機能なのでしょうが、設定面と機能面のどちらも捨てきれていない、もしくは両立できていない姿勢によって、作品のチグハグ感が増してしまったと思います。
さらにSwitchという媒体にも関わらず、文字送りすらタッチ操作に対応していません。科学ADVで私がSwitchでプレイしたものは、移植も含めてどれもタッチ操作非対応なのですが、近未来を舞台にしたハッカーがメインの作品で、タッチ操作も効かずにぽちぽちボタン押すだけというのもなんだか没入感を削いでいる気がします。
正直、演出そのものは目を見張る部分が多かっただけに、読み心地・遊び心地はかなり悪かったです。
総評
ノベルゲーとしてはかなり悪い操作性や分岐方法、それらの苦痛を跳ね飛ばすことのできない薄いシナリオ・キャラクター。結局は世界層についても含めて他作品にまたがって存在している謎もあまり解明されず、薄いメタ要素・シュタゲネタに依存してしまった本作にあまりいい評価は出せないと言うのが私の素直な感想です。
個人的にな感想になりますが本作は「第二のシュタインズ・ゲートになれる可能性はあったのに、シュタインズ・ゲートという山の麓でずっこけたまま登頂すること自体を諦めてしまった作品」になります。
本作は7年もファンを待たせていることもあり、この作品と比較して短期間で世に出てきた過去の良作(シュタゲ・カオチャ)とどうしても比較されてしまいます。作品同士の出来不出来を比較するのは本来ならばよくありませんが、制作側が本作を「シュタインズ・ゲート2」などと評しており、シュタゲの続編ではないカオスチャイルドでも「この作品はシュタインズ・ゲートを越えたのか?」という挑戦的なCMをしていたこともあり、もはや同シリーズ内で比較されることは避けられないと思います。もちろん延期したからといってシナリオの出来を保証するものではないとは理解していますが、それにしたってこれは酷い。
前作ロボノダッシュも個人的には受け入れづらかったので、制作体制やシナリオライターが変わらない限り、次回作についてはさらに期待しない方がいいかな?となっています。とりあえず発売できて良かったとは思いますが、今後に不安が残ります。