陰惨を謳うには、あまりにもエンタメ性が高すぎました。大半はいい方向に働いていましたが、そこは徹底的に落としておけ!とつっこみたくなるシーンも無きにしも非ずで、もっと悪意を持ってプレイヤーのことを傷つけて欲しかったです。演出についてはゲームという媒体だからこそ表現できたポイントが多々あり、そこは大大大評価。
公式ツイッターを追っていたこともあり、本作に対する製作陣の気合は十分理解した上で遊びました。
複数ライターで整合性を取るのは不可能なレベルで序盤からガシガシ仕込まれた小ネタの扱いについては、とてもよかったかと。
フルプライス作品として自信がある!みたいな発言も見た覚えがあるのですが、フルプライス作品としてってのを強調するなら、樺音との恋愛についてはもっと書き込んで欲しかったです。単純にテキスト量マシマシでやって欲しかったです。
先行で公開されていた、本編未収録のweb体験版三種もプレイ済みです。
にわかとしえがここでヒロイン扱いされていたのは、本編のポジションがサブ止まりだったからなんですね…。
世界のルールとして、本編ではギフトの立場だったしえ、みそか、ややも先輩が奪う立場に立ったのは完全なifだからなんでしょうかね。
ややも先輩に至っては髪という、本編には全く関係のないものをブンどられていたのが気になります。一体ここは誰のログワールドであり、彼女達も本編の彼女達と同一の存在であるのかどうか。
行為の最中にも相変わらずな壊れた腕時計を身に付けていたこともあり、主人公だけは本編の主人公と同一の存在だと思うのですが。
本編のシナリオについて。
一本道である本編のシナリオは、樺音をいじめたギフト&主人格のヒロインと主人公が関わるお話→樺音の遺体を弄んだ箇所を肉体欠損として「生まれながら」持っているという設定となった主人格のヒロインが主人公と心も肉体も結ばれるお話の順番で進んでいきます。
ややも先輩やみそかといったNPCも時折混ざりますが、ややも先輩が作中でも語っていた通り、立ち位置としての彼女等はモブに近いでしょう。
主人公の記憶が曖昧なこともあり、本来の賑やかし要因はもっと数がいたのかもしれません。
ただ主人公と雫流の目的として、攻撃対象であるヒロインが例の五人と決まっている以上、その必要性というのは特別無さそうですけれど。
この物語は樺音を殺した者と、彼女の尊厳を穢した者への復讐がメインのお話です。
復讐を行うのは樺音の恋人である主人公と、樺音の実母である雫流です。
主人公の復讐相手は、樺音の命を奪ったギフトの保持者である主人公自身です。
存在を抹消したくとも医学上の限界で、脳のブラックボックス内に残ってしまうギフトを少しでも傷つけるため、主人公はログワールドへ潜り込みます。
雫流の復讐相手は、樺音の命を奪ったギフトの保持者である主人公、樺音をいじめたギフトの主人格である少女達です。
主人公の復讐に手を貸す立場である雫流は、己のエゴのみで主人格である少女達を件に巻き込み、彼女達に大きな精神的ダメージを与えます。
この世界ではギフトにも人権があり、ギフトの起こした犯罪はギフトが罪を償うことで帳消し扱いになる=主人格へのお咎めは特に無しというルールが成り立っているらしいのですが、それでどうにかなるはずもないジレンマを雫流も発散させたかったとのことで。
実際雫流の復讐は、綺麗に果たされます。
身をもって味わうこととなる肉体欠損体験により、主人格であるヒロイン達はめそめそしっぱなしでした。
山羊さんにもとっても怖い目に合わされました。この山羊さんアバターの中身は雫流ですよね。
主人公含め自ら手にかけてくるところ、雫流も思うがままにやりたい放題していて、これぞ正に復讐!とスカッとしました。
その痛みを主人公も求めていたとは言え、樺音のアバターが庇いにきたのはせつなかったです。
樺音のアバター、もとい屍は屍でなおなおと御伽に嫌がらせをしていましたね。
仕返しとは言え、コミカルな結果を生み出していたのが微笑ましい限りでした。屍ちゃんぷりちー。
主人公がログワールド内でヒロインと恋仲になる度、「あの子はやめたほうがいい」「あの子嫌い」とマジレスなんだか焼きもちなんだかしてる屍もかわいかったです。ぷりちー。
主人公には何度も「恨んでいないよ」と伝えている屍ですが、そういう意味では自分をいじめた少女達への対応にしても、凄く人間が出来ていましたね。
アバターとはいえ屍は意思のある存在です。特別制御されているようにも見えませんでしたので、雫流のように暴走せず、主人公の復讐を見守っていた屍の姿はただただ健気でした。
樺音の死は幸福な最期だと、屍は語っています。
ギフト達からいじめられていた樺音ですが、その経験でギフトの恐ろしさを体感し、主人公の持つギフトを除いてやりたいと命を賭けた行動に出ます。樺音は全く後悔していません。主人公のための献身に満足しています。
ただ。例えばいじめの延長で、望まぬ妊娠で体も心も弄ばれたと言うお約束な悲惨があれば、樺音の感情はもっと負へと動いたかもしれません。
でもそれをやってしまって、樺音が絶望したり、主人公の復讐対象がずれては、この美しい終末は成り立たないんですよね。
樺音が絶望した場合の、樺音にとっての復讐対象は誰になるか。自身をいじめていたギフト?その主人格の少女?自分をこんな目に合わせるきっかけとなった主人公?
その場合の主人公の復讐対象は誰になるか。樺音を殺した自身のギフト、その保持者の自身は元から含むとして、さらに付随されるとしたら。樺音をいじめていたギフト?その主人格の少女?
そもそも樺音がいじめられていたことに関して、主人公はあまりにも無力でした。クラスメートの目を盗んでこっそり小さな恋を育むのもいいですが、樺音をいじめから救うという根本に対して主人公はアクションを起こすことができませんでした。
モテモテ王国の真ん中に立っている主人公がいると余計に拗れるというのもあるでしょうが、主人公が蚊帳の外にいる間に樺音はギフト達が主人格の少女達の身体を奪っている事実を知り、そのことで実母を盾に脅されたりと、完全な袋小路に追い詰められることになります。
彼女が自分の命の使い道を考えるきっかけも、この決定的な脅しがなければ訪れませんでしたでしょうし、そう考えると樺音の命を直接奪った主人公のギフト、樺音が命を失うきっかけとなった主人格の主人公と、とんでもないギフトを内包している主人公の存在そのものが樺音にとって害悪の域になってしまい、彼が樺音のことで真摯であればあるほど、彼が樺音の死と向き合えば向き合うほど、絶望感は重くなります。中々に面白いバランスです。
そんな主人公が、樺音を弄んだギフトやその主人格の少女達とログワールド内で恋仲になるのも面白いですよね。
次。ギフトと主人格の関係について。
主人格の望んだパートナーとして、ギフトは生み出されています。
主人格の持つ醜い欲を広げたかのように歪んだ人格形成をしているギフトは、主人格とは乖離した存在として、この世界で「生きて」います。
ギフトが罪を犯しても主人格に責任能力がないとするこの世界のルールについては、精神疾患の上位互換とも呼べるギフトという病の果ての有様がよく表れているかと。
人権を与えられているギフトに死刑が通用しないのは面白いです。ギフトの完全な死亡=主人格の死亡ですものね。
こうして改めて見ると雫流の覚えた憤りというのも、よく分かり。
ギフトと主人格の少女の関係に置いて、一番興味深かったのが天美とフーカです。
一人ぼっちのフーカは、従属する相手を求めていました。
そんなフーカと共にあるという存在して、天美は生まれています。
ログワールド内で主人公は、天美が家柄の良いお金持ちのお嬢様だと勘違いをしていましたが、実際家柄の良いお金持ちのお嬢様でも何でもないことが「ギフト」という立場の時点で証明されている上で、天美自身も主人公の憶測にある自身の像についてきっぱりと、ハンバーガー屋さんにて拒否をしていました。
ログワールド外の現実世界での天美も天真爛漫に樺音を甚振っていましたが、現実世界での天美については他のギフト達に比べて、何を考えているかよく分からないという印象が強かったです。
天美、あざみ子、小鳥の三人は、主人公への執着を主として樺音をいじめる立場にあるギフト達です。
あざみ子でしたら独白で、つつじ子のためという名目含め自分も主人公へ惹かれているという描写があります。
小鳥でしたら独白で、まころを出し抜いて主人公を手に入れたいと赤裸々な欲を語っています。では、天美は…?
主人公に惚れている描写はあります。主人公は渡さないと、思想自体もかなり攻撃的です。フーカの肉体を乗っ取って主人格になると断言したりもしていますし、天美もハングリー精神はかなり強く持っています。幼少のフーカの目の前で熱く繰り広げられたバトルが影響でも与えているのでしょうかね。
ギフトとしての天美が主人公に対しどれだけ入れ込んでいるのか、その根拠については天美自身の独白がありました。
この恋心が精神障害か純粋なものか自分じゃよく分からない。確かめようがない。以上。
テオドール・ベクトルの影響下にあるのを理解した上で冷静に流されているの、面白いですよね。
そんな天美が「真実だって誓うよ」って手紙をログワールド内で主人公に渡しているのも、面白いです。
皮肉なのか。本心なのか。
あなたを想うこの気持ち、真実だって誓うよ。
この言葉は、樺音が誠意ある恋心として主人公へ贈った言葉です。
自身の死を持って主人公のギフトを取り除きたいと願った樺音が、教会の前で、主人公に告げた印象的な告白です。
主人公に記憶を取り戻させるためのキーとして、天美は使われたのでしょうか。
だったら屍に言わせれば?と思いつつも、記憶を失った主人公へこの言葉を伝えるのに、その時主人公が恋をしている相手ではない屍が発するのでは、言葉だけ上滑りするかもしれません。
あくまで恋をした相手である少女からでないと意味のない言葉なのであれば、ポジションとしてこの天美が抜擢された意味は分かります。
全然関係ありませんが樺音の遺体の肉体欠損箇所として、頭がない遺体なのに目玉を奪われていることを認識された上でログワールドが形成されているのは、一緒に取り込んだ主人各のヒロイン達の持つギフトの記憶が関係しているからだとしたら、たまごが先かにわとりが先かみたいな意味で仕組みについてちょっと気になってしまいまして。彼女達がログワールドに送られたのは、主人公の後って雫流が発言しているんですよ。
天美の語る食べ残しが、みんなで樺音の頭部食べたけど先にくり出していた目玉は食べなかったという意味で、教会の地べたとかに目玉が転がっていたから欠損箇所として周知になっていたとかなら、簡単に解決する小さな気になりですけれど。
次。サービスシーンについて。
ライターさんの過去作である駄作でも印象的だった淫語の連発は、本作でもあますところなく発揮されています。
前戯無しの即挿入、ギフトや主人格の少女達と交わる時は淫語連発されるという謎の縛りがあったの面白かったです。
逆に樺音に関しては、一切淫語を使わず、ただただしょげていたので、この対比は素晴らしかったです。
うららのギフトが性器作ってきちゃったのはしこたま笑いました。
あれはログワールド内のネタで消化して欲しかったです…シリアスないじめシーンには全くもって似つかわしくなかったという印象です…。
ログワールド内でうららが描いた絵本、そのあとのびっくり要素があまりにもド鬱だったので、樺音のいじめシーンには相当の覚悟と期待を持って挑みました。
結果、全然でした。
もっとクリックするのがつらくなるくらいの、欲しかったです。
遺体を弄ぶシーンは最高でした。主人公に罪を着せるという名目が、ガチで名目でしかなく、欲望のままに好き放題するギフト達の狂気がとても見応えありました。
最後。とにかくよかった点について。
ログワールド内と現実世界の時の立ち絵の緩急。
口パク瞬きに目まぐるしく動く表情と、いきなり全力でキてびっくりしました。
これはゲームでないと表現できない要素です。素晴らしかったです。