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minoruさんの図書室のネヴァジスタの長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
図書室のネヴァジスタ
ブランド
TARHS
得点
92
参照数
5623

一言コメント

ミステリー要素が多く、謎かけのやり方が結構きつかったのがのめり込んだ理由の一つです。何と言っても、見せ方の不親切さが非常によく出来ているといいますか。件に対する解答はあるのか、誰が持ってるのか、そもそもそんなもの存在しないのか。それ以前に、件自体が存在するものなのか。しないのか。何から何まで目晦ましな上、あるのかどうかも分からない正解ってのを泳がせるためのブラフもこんがらがっていますので、話題そのものも四方八方に飛んでいきます。この意図的なごちゃごちゃを、よく収束させましたと言いますか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

図書室のネヴァジスタが発売されたのは、昨年の冬コミです。
オフィシャルHPによると、ジャンルは学園サスペンスボーイズアドベンチャーノベルゲームとのこと。
随分と長いですね。

コミケ分布時にヘマしてディスクにデータが入ってなかったよ事件をかましたことが印象強く、正直あまり好意は向けていませんでした。
ただ作品の傾向が好みだったので、絶対買おうとは決めてはいたのですけれど。
ド欝注意報みたいなの出てましたし。おっしゃばっちこーい。
同人ゲーらしい据え置きお値段、イベント価格で2000円ですし。
安いもんです。



テキストは一人称です。
主人公が二人おりまして、基本は彼等の視点が交互に描かれ物語は進みます。
一文が非常に短く、会話がポンポン飛びかったと思ったら次のシーンと結構目まぐるしいのはちょっと忙しいと思いました。

シーンのぶつ切り感を防いだのは、音楽の演出です。
シーンが変わってもBGMが途切れることなく垂れ流しというパターンが多く、情景が繋がって見えました。
引き継がれた音楽のおかげで心象を持ち越すことができ、より継続的に物語を受け入れることができます。
凄く良かったです。

会話メインな日常シーンとは一転、心情描写メインなセンチメンタルなシーンになると、怒涛なペースで文字が流れてくんのも印象的でした。
落とし所を分かっていらっしゃる。
台詞も力があるものばかりで、いやぁ・・・いやぁ・・・心臓、鷲掴みにされた気分になりました。



ではここから、物語や登場人物のことでも少々。
上記の通り、本作の主人公は二人います。

主人公の一人は、舞台となる寮付き男子校にやってきた新任教師でした。
童顔眼鏡で頼り無さそうな彼は、来た早々から不幸の連続に襲われます。

与えれら教員室の席に乗った、石像の片腕。
この学園の七不思議の一つらしく、自分の席にこの片腕を置かれると死ぬ的なお話があるそです。
最悪な嫌がらせです。

さらに周りの教師陣からはコネ入社だと噂立てられ、主人公は強制的に孤立させられます。
散々です。
そんなこと言われても当人である主人公はさっぱりですので、戸惑うばかり。
主人公も利用することになる寮の部屋の部屋の鍵を貰えず、盥回しにされたり。
最悪な嫌がらせです。

何もしていないのに、序盤からこんな様な先生のメンタルが心配になってしまいました。



先生の使う寮は、通称幽霊棟と呼ばれるオンボロな建物でした。
その名の通り、幽霊が出るかもという噂が立っています。
母屋と新棟に分かれているそれは、以前火事になった他の棟の代用として使われているらしいです。

主人公の代わりに利用しているのは、生徒五人のみ。
この五人の生徒は個性派揃いらしく、教師陣からは悪い意味で注目を浴びとります。
何でも主人公が来る前の先生がこの学園を去った理由が、この五人からの嫌がらせだったそうで。
いじめばっかですなこの学園、陰湿ってレベルじゃありません。

主人公の先生は、子供達を信じ、きちんと導いてあげるのが教師の役目だとはりきっております。
それこそが、自分が教師になった理由だと。
この先生にも過去がありうんたらかんたら。


その過去が、何と暴露された本が学園の図書室にありました。
通称ネヴァジスタと呼ばれる、自分のことが物語りのように書かれている本。
石像の片腕と同じく、学園の七不思議の一つです。
これが先生のお話の、始まりでした。




もう一人の主人公は、ルポライターです。
その年の夏、彼の弟が事故死しました。
事件のことでと呼び出された主人公は、彼の弟の通っていた全寮制の学園に向かいます。
そして監禁されます。

彼を監禁したのは、学園に所属する五人の生徒でした。
全員、彼の弟とは友達みたいでした。
しかしそれ以上の情報が、主人公に伝わることはありません。

幽霊棟と呼ばれる人を寄せ付けない寮の中、閉じ込められる主人公。
監禁の目的は何なのか。
五人の動向を探りながら、主人公は脱出を図ることになります。




先生の過去、ルポライター監禁の意図、そして彼の弟の事件。
物語の鍵を握る立場にある、五人の生徒。

この鍵を、中々見せてくれないんです。彼等。
っていうか、本当に鍵を持っているかも分からないという不明慮な感じです。
もの凄い煽られます。
先が気になるお話作りという意味では、大正解でしょう。

しっかり防音にしているため、先生はルポライターの存在には気づきません。
しかしこの、ばれちゃったらどうしよう的な緊張感。たまりません。
先生は先生で強制ぼっちと陰鬱な雰囲気多いですけれど、彼の毎日はそこそこ平和でした。

五人の生徒はやんちゃだったり小生意気だったりと、皆結構可愛いです。
微笑ましいです。
まさか大人を監禁している等と思いも寄らない先生は、小生意気な生徒達と打ち解けたり何だり。



本作のテーマとして、大人と子供温度差だったり何だりってのがあります。
物語の視点は、あくまで大人メインです。
大人から見た子供の側面という表現が多く、思春期の青少年のナイーブさを強調させた作りにはガツンとやられました。

ただ、本作ホモゲーじゃないんですよ。
ジャンルが女性向けなことは確かですが、色としてはボーイズがたくさん出てくるよ系レベルです。
あくまでミステリー部分が強く、主人公と生徒とかいう色恋ってのがまず発生しません。
色々例を上げたいのですけれど、ひどいネタバレになっちゃうので伏せますが。


なので、愛情表現のメイン描写は慈愛です。
その括りです。
色々掻き立てられます。

五人組の中では、私はムードメーカータイプの子が一番好きでした。
先生にも結構懐いているので、ぼっちの心が癒されます。
結構エグい面もあるのですが、それもまた魅力と言いますか。

見てくれが攻撃的で派手な子程繊細だったり、結構キャラ付けは狙ったものが多く面白かったです。
この子本当はどう考えてるんだ? とか気になってきます。
視点が大人だからってのもあるんでしょうけれど。
とにかくこの子等のことが心配で心配で心配で・・・。


主人公二人に対する、態度や懐き方の違いだったりも面白かったです。
二人の性格が、かなり影響していました。

生徒達は、基本捻くれています。
大人なんかどうせ・・・っていう態度を取ってきます。

優眼鏡先生はと言うと、どんな厄介ごとでもひっくるめ、面倒をみてあげたがる性格をしていました。
何でも受け止めてくれる先生の雰囲気に、生徒達は時には流され。時にはうざがり。
彼等はどんどん、先生を身近に感じていくことになります。

一方監禁されているルポライターは、元ヤンというころで結構荒い面が目立ちます。
話し方は最初からかなり距離が近く、何とか生徒達を手なずけようという魂胆が見え見えでした。
弟の友人だったということで、生徒達はライターの話はそこそこ聞いていた模様でした。
そんな、共通の話題を持ち出したり。出されたり。
先生と生徒という立場がないので、気を許しあえた時に彼等の間に流れた空気は、友人同士のようなものでした。



物語のメインシナリオと生徒達の個々のシナリオは、別に用意されています。
ぶっちゃけ知らなくてもいい真実が山ほどありすぎて、この子達のシナリオは全部が全部えげつない物でびっくりしました。
毎日が平和に過ごせるのであれば、暴く必要が無いものを暴いてはいけないの典型が揃い悲しくなってしまいます。

この子達のシナリオの場合は一人称が彼等に移り、「彼等の物語」としてシナリオは進みます。
見届けるしか、できなくなります。
どのシナリオも盛り上がりにかけての勢いが素晴らしく、いやぁ・・・いやぁ・・・心臓、鷲掴みにされた気分になりました。



EDは全部で二十八個あります。
そこそこ多い方だと思います。
一発ドボンも多いのですが、ドボンはドボンで派生したシナリオの出来がこれがまた良いものも多く。
ドボン侮れませんでした。



一番心臓ぐわぁってやられたのは、生徒達の一人、和泉くんって子のシナリオです。

和泉くんは背が小さいです。
顔は可愛いです。
口数は少ないです。
そこそこクールな印象を受けました。

和泉くんはかなりの気分屋で、自分のテンションで自由に動いてしまう部分をよく怒られたりしています。
寮で気に入らないことがあったら、さっさと出てしまって勝手に外泊したりします。
容姿がいいので女友達は、かなり多いそうです。
天使のような見た目の癖に、性生活が爛れた和泉くんに先生呆然。

和泉くんはその場のノリで、ルポライターとも仲良くなりました。
監禁部屋には単独で入っちゃ駄目よって生徒達で決めていたのに、気分屋の和泉くんは約束を余裕で破ります。
和泉くん結構感じ悪いです。悪気はないんですけれど。

そんな和泉くんですが、一人だけ凄く執着している人がいました。
この学園プロテスタントだそうでして、教会が併設されているんですね。
そこの副牧師。彼にだけ、和泉くんは異様な懐き方を見せます。


何故和泉くんが、副牧師にだけ心を開くのか、とか。
和泉くんのお姉ちゃんがとんでもないブラコンでして、和泉くんのお家大丈夫なのか、とか。
物語の途中で、和泉くんが教会の屋根から飛び降りるという自傷行為に走ったのですが、これ何だったのかとか。

和泉くんよく分からな過ぎて、おっかけておっかけておっかけて。
もっと知りたいな、和泉くんのこと。 ← 知らなきゃよかったコンボ。

基本このコンボ。
生徒達のシナリオこのコンボ。
みんなコンボ。でも乗り越えようとする姿に心臓抉れるコンボ。

表に出さないと事実は判明しません、それは勿論です。
それを明らかにさせた上でないと、進めないこともあります。
そりゃあります。しかしきっつい。


和泉くんには、味方がいます。
主人公'sです。
味方として、大人として、どう和泉くんを守ってあげられるか。
どう和泉くんを導いてあげられるか。
感動の最終回が手に汗握り過ぎる展開で、私の中のテンションもピーク。


和泉くん
「僕はプライドが高いんだ」


和泉くんかっこいぃブッヒイイィィィィィ。
豪快と言いますか、大胆と言いますか、和泉くんの決着のつけ方が派手過ぎて思わず和泉くん推しになりかけました。

私はムードメーカー推しです。
いや全キャラ入れていいなら先生がいいです。
この先生たまらん。




とらのあなが特設ページ作ったり、COOL-Bが同人作品紹介でプッシュしたり、影ながらのバックアップがこっそりある図書室のネヴァジスタ。

子供達の真相が解ける、個々のルート。
主人公'Sのことや、事件の全容が見えるメインルート。

一文は短くても量はごっそりあるので、物語の読み応えは充分にあります。
関係や内面もしっかり描いてくれているので、キャラ萌え度も充分。
超おすすめ超おすすめ超おすすめです。







ここからさらなるネタバレ。







好みだったシナリオ↓

和泉>メイン>辻村≧白峰>茅

クリアした順番は、メイン辻村白峰和泉茅でした。
どうにも私はマッキー寄りでして、シナリオもマッキー寄りの和泉や辻村の方がツボりましたと言う。

どのシナリオも面白かったという前提で、私の場合は和泉シナリオでガツンとやられたためか茅の印象が薄くなってしまったという。
嫌いではないです。嫌いではないです。
和泉シナリオが、本当にきつかったんです・・・。

出生の真実を知り、嘔吐し、ぶっ壊れてしまった和泉があんなかっこ良く自分を取り戻すとは思いませんでした。
賢太郎を手懐け、神波と対峙するシーンの盛り上がりに飲まれました。
和泉に飲まれまくりました。

和泉シナリオの場合神波の化けの皮が初っ端で剥がれるので、それも気持ちよかったです。
彼の学生時代のこと等、彼の人間味もよく垣間見れました。


そんな神波の背負う遺恨が表沙汰になる辻村シナリオは、存在感が別格でした。
口が悪く粗暴な彼の、内にあった素直な部分が可愛らしく、見る目も変わります。

白峰のシナリオでは、マッキーの中にある深層心理の核である古川鉄平のことが語られました。
白峰自身の弟に対する自負と正義の味方でありたいという願望もとにかくせつなくて、決して力が強い訳ではない彼の奮闘する様にとても惹かれます。

茅の場合ですと、神波に力を貸していた久保谷の過去等が判明しました。
保たれていた微妙な距離感からの、久保谷が茅に執着を見せるバッドED。たまりません。


こういう形でどの物語にもしっかり側面を持たせ、全てを語り尽くす作りはとても丁寧で好感を持ちます。
ユーザーに想像させるための余韻を残す作りが、嫌いという訳ではありません。
しかしこれだけ整合性を高め、物語の全てを一作で出し切るのって凄く難しいことだと私は思っています。

アナザーでは、靄がかけられていた清史郎のことも説明されました。
中略の嵐などびっくりするくらいコミカルなノリだけで、押し切られた感はあります。
しかし、それでも納得してしまうという。
キャラの力、ここでも大発揮。

ボーナストラックにも、してやられました。
どんだけ詰め込まれてるんですか、この2000円。



根底にある「復讐」との付き合い方ってのも、色々悩んで苦しんでからのポジティブに転する様には、色々考えさせられました。
公式にあるアフター話の出来が凄まじく、特に槙原と神波の話はたまらなかったです。
オチがあったのでアレですが。

子供達の見本になろう、っていう姿勢の貫き方はさすがです。
とにかくテーマがしっかりしているので、ますます作品のことが好きになりました。