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merunoniaさんの102年後のヒトたちの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
102年後のヒトたち
ブランド
幻創映画館
得点
85
参照数
306

一言コメント

『アナタの隣が私の居場所です』近未来を舞台にしながら、『不老不死・人工の人間・ロボット』等の要素をバランスよく絡めながら、彼彼女たちの幸せな姿を見届ける、切なくも家族愛に溢れるお話でした。何よりも登場人物達への描写が丁寧で愛着が湧くからこその最後の結末が、何よりも好きでした。本当に面白かった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『アナタの隣が私の居場所です』


近未来を舞台にしたお話。
そこでは『不老不死・人工の人間(メイツ)・ロボット(マシナ)』が共存する地下世界のお話であり、こうした世界の中で、家族のような暖かさと、『生きる幸せ』を教えてくれるような切なくもあり優しいお話でした。
とても面白かったです。

あらすじ
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少し先の未来。人工的に造られたヒトが人間を支える存在となっていた。
新しい職場で彼に任された仕事は、そんな人工の少女を育成すること。
しかし、いずれ商品として売られる彼女たちに愛情を注いでしまう。
ヒトがヒトを造ることに疑問を感じた時、社会を揺るがす大事件へ巻き込まれていく……。
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※以下ネタバレの備忘録感想です※




以下好きな所をネタバレありで、好きな所を
①キャラへの愛着
②『不老不死・人工の人間・ロボット』の3要素
③幸せな生き方の描かれ方
に分けて書きます。


①キャラへの愛着
まずこの作品の何が好きかって、キャラへの描写がすっごい丁寧なんですよね。
主なヒロインは、造られた人工の人間であり商品(メイツ)のユーとマウの二人なんですけど、すっごい可愛い。
ユーは主人公に最初から『ご主人様!』って懐く姿や、マウの猫のような懐く可愛さが所々全開。
特に序盤~中盤は、あらすじにあるように主人公が愛情を注いでしまう描写があるんですけど、まるで家族のように仲良くなっていく様子はとても微笑ましいです。
初めての美味しい食べ物、初めての自然、初めてのプール等々。何もかもが初めてなユーとマウの二人の興味津々な姿と、同じ家族のように愛情をかけて教える主人公の姿が本当にほっこりしてニコニコしちゃうんですよね。
こうした姿があるからこそ、ユーやマウの言葉の、主人公の事が本当に大好きなんだなぁっていう言葉にすごい嬉しくなっちゃうのもあったり。

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ユー「確かに、次のご主人様は解りませんけど…。
今のご主人様は最高のヒトです。
たとえ短い間でも、最後まで一緒に居たいんです。
そう思わせてくれるヒトなんです」
マウ「うん。マウも同じ。
お兄ちゃんがいる場所が、マウの居場所だよ」
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いずれ商品として出荷しなければならないのが分かっているのに愛情を注いじゃう主人公と。
いずれ他のご主人様の元に行かなければならないと分かっていても、それでも今のご主人様が好きだと言ってくれる二人。
この関係が切ない未来を予感させても、それでもずっと見ていたいなって思わせてくれる丁寧な描写のおかげで、最後の結末への感情移入もすごいしやすいのがとても良かったです。

②『不老不死・人工の人間・ロボット』の3要素
さらに面白かったなぁっていうのが、『不老不死・人工の人間・ロボット』の3要素をバランスよく絡めたお話でした。
それぞれの近未来であり得そうな要素をメリットデメリットを描きながら、絡めて描かれるお話がとても練り込まれてて面白かったです。
いかにそれらを分けて、備忘録に感想。

②-1『不老不死』
不老不死要素の登場人物は、主人公である『令人』と研究者である『リディ』の二人でした。
NAと呼ばれる研究により、不老不死を実現させた社会。しかし不老不死に全員がなれるわけではなく、体質的に可能とされるヒトしか不老不死になれない技術でした。
そのため、令人の恋人である小夜は不老不死になることができず、恋人と一緒に歩むことができず別れたのが、この物語の始まり。主人公はその別れに心の整理ができず、一緒にいるロボットのサヤも小夜と似た姿でした。

不老不死のメリットは言わずもがな永遠に生きられることですが、作中では永く生きること=幸せではないことが描かれていたのが印象的です。
恋人を失った主人公の、何のために生きるのか目的を失ってしまった姿。
リディの、ルメール人である差別、迫害を受けながら、かつ多くのマシナを愛情をもって育てては商品として出荷する日々に精神が消耗してました。
これらを踏まえ、特に最後の桜並木、主人公とお婆ちゃん(恐らく小夜)の会話が印象的です。
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小夜「あの日も、こうして桜の下で…お別れをしました。
もう今から60年も昔の話です。
ですが今なら…これで良かったと思えます。
与えられた命のまま、自然と人生を終えてゆく…。
それが、本来のヒトの姿です」
(中略)
「無理して寿命を延ばしても、良い事ばかりじゃない。
それだけ苦しみも悲しみも多くなるんだって…。
たぶんヒトって、これが完成形なんだと思います。
(中略)
つまり…これで十分ってことなんだと思います」
(中略)
小夜「ヒトは…便利になりすぎたのかもしれません。
死があるからこそ、懸命に生きようと思えるのです。」
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長く生きることが幸せなのではなくて、目的をもって幸せに生きられるかどうか。
長く生きるのはそれだけ悲しみや苦しみを永遠に背負うことでもあって、寿命があるのは、終わりがあるからこそそれまで幸せに生きようとするからなんだと教えてくれるお話として、不老不死の要素のお話としてとても印象的でした。
特にこれらの要素が、最後の海辺のあの言葉に繋がるのが何よりも綺麗でした。(後述)

②-2『人工の人間(メイツ)』
この物語のメインでもある、人が人を商品として造られたものがメイツでした。
それは家族、恋人、性処理用にも成り代わる代替であり、ペットと同じ値段で購入できる存在でした。
メリットとしては、作中でも描かれていた通り、愛着が湧く同じヒトのように家族のような存在でした。マウやユーの姿はとても可愛らしくて、恋人を失った令人も彼女達と家族のようになっていく姿は、すでに述べたように微笑ましいものでした。
ただし、あくまで『商品』という部分がデメリット。その象徴として描かれていたのが、同じメイツであるライでした。
同じように商品として出荷されたライは、主人公に愛されるどころか、『使用人を慰めるための道具』として《まわされる》役目でした。さらには、使えなくなると、非合法な賭け事、メイツ同士を争わせる闘技場で殺し合いをさせられる始末。
こうした凄惨な過去を持つライは、同じ『ヒトを憎むメイツを産ませるわけにはいかない』と、メイツ生産施設の破壊を目的としてテロ活動を行うメイツでした。
また、リディは研究者でありメイツを造り出すのが目的ですが、ひたすら性処理用メイツを造り出しますが、全員が無事に造り出せるわけではなく途中で亡くなってしまうメイツも沢山いる。さらに生まれることができても、無事に良いご主人様に仕えることができるのも分からない。人が自然の摂理に反するような行為とリディの自分の気持ちを令人に泣きながら『間違ってると言って欲しい』と願う姿は、メイツの歪な在り方が描かれていました。

こうした人工の人間、メイツを描いたお話として印象的なのが以下シーンでした。
ライのリディへの最後の台詞です。
──────────────────
「アタシだって生きてる。
嬉しければ笑って、悲しければ泣く。
メシだって食うし、便所にも行く。セックスだって上手いもんさ。
心臓は1秒ごとに動いてる。リディ、お前と何が違うんだ
あまりに同じだから戸惑ってるんだろう。
ヒトそのものだから!
でもな、その不気味さがメイツってヤツなんだ。
命を造るってのはそういうことなんだ!」
──────────────────

そしてその後に明かす大統領の台詞も印象的です。

──────────────────
「いつの時代も主役はヒト。
マシナもメイツも、ヒトのために存在する。
その前提が覆れば、ヒトは生きていけないわ。
認めて見つめるしかないのよ、今ある世界を。
あなた達は生み出す側にいるのだから」
──────────────────

ライの言葉、メイツもヒトと全く同じ姿であるからこそ、この不気味な構図を断ち切らなければならないと、破壊を願い。
大統領の、今ある世界を生きるしかない。そのためにはメイツはもうなくてはならない存在である以上、作り続けなければならないと説く。
この矛盾したような世界の在り方を描いたのが、『人工の人間』というメイツのお話として印象的です。
そしてこれらのお話があったからこそ、最後の結末の主人公たちの言葉がすごい綺麗なんですよね。これらは後述で書きます。

②-3『ロボット(マシナ)』
今作のロボットと言えば、主人公の傍に仕える恋人と似た姿の『サヤ』や、アイドルロボットI,LLでした。
ロボットが登場する作品は数多くありますので、メリットを挙げるのもあれですが、今作でもたくさん描かれていました。
例え壊れても部品を変えれば元通り。心臓部分も機械を変えればまた復活することができる。必要な知識もインストールさえしてしまえば取得可能。
ご主人様の傍で何でもできる万能さが、サヤさんをはじめ沢山描かれていました。

ただデメリット部分も多く描かれていました。
ロボットに仕事を取られた失業者の姿。
廃棄にもお金がかかるとして、ご主人様に捨てられたロボット(リディの過去)
その中でも特にショックだったのが、はやり最後の感染症が地下に侵入してきた後の扱われ方。
政府による非常事態により、管轄にあるロボットの全てがご主人様の元を離れて危険区域のヒト達を殺しにかかるのがものすごく衝撃的でした。
作中で明るく元気な姿を見せてくれたアイドルロボットのI,LLが銃で研究者を皆殺しにして自爆する姿がもう皮肉が効いていて衝撃。
また何よりも令人の傍でずっと仕えていたサヤが、主人公達を皆殺しにしてこようとする最後はもう見ていて本当に辛かった。エレベーターを開こうとしてくるCGなんてもうホラゲーですよ。

──────────────────
サヤ「貴方は私の主人でした。
見ず知らずの大多数より、貴方にこそ生きてほしい。
その貴方が大切に思うユー様と共に。
私は貴方のマシナで良かったと思います。
もし感情があれば、これを幸せと呼ぶのでしょう」

サヤ「貴方の マシナで 本当に よかった です」
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ヒトに全て従うように作られたのがロボットの宿命であって、例えずっと仕えた主人公であったとしても、生きてほしいとしても、最上級の命令には背くことができない。その残酷さを描いたのが今作のロボットの描かれ方であったと思います。

またもう一つ印象的なのが、サヤと対立したユーの言葉です。
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ユー「でも、これが感情です。
同じく造られたヒトでも、あなた達には無い感情です。
ヒトと同じココロを持っています。
普通の教育がないわたしには、単純なココロしか持てません。
でも、だからこそ想いは強いんです。
それしか知らないから」
──────────────────
今作って、すごいロボットのマシナと、人工の人間であるメイツの対比がえぐいほどよく描かれているんですよね。
例えば、今作のHシーンはあくまでヒトとメイツでしか描かれなくて、絶対にロボットを対象とした描写なく。
またあくまで、心を持つのはヒトである人間とメイツであり、ロボットは人に作られた以上、感情を持つことが出来ないと。
だからこそ、ヒトとして生きる姿、メイツの姿がヒトらしく美しくて。
(もちろんそれでもヒトとして見た令人とサヤの関係性もとても深く考えさせられましたが)
これらをしっかりとぶれずに、人工の人間・ロボットの対比を描き切ったのもとても印象的でした。あまりこれらを二つ対比して描くお話は見ることがないので、こうした意味でも大変面白かったです。

以上、『不老不死・人工の人間(メイツ)・ロボット(マシナ)』の3つの要素の印象的な部分の感想を書きました。
これらの3つの要素を絡めながらのお話はそれぞれ大変面白かったです。
それぞれのお話はよく題材にされますが、これらを全て絡めた上でお話を展開するのがすごいバランスが良くて飽きないんですよね。
もちろんそれらに登場人物達への愛着が湧くからこそ、お話に夢中になれたなと思いました。

また、だからこそ、最後の結末。地上に出て、最後に愛するユーとマウ、そして主人公の3人で海辺で横たわる姿が、もう何よりも切ないと同時に感動的でした。


③幸せな生き方の描かれ方
『続く世界と生きるヒトたち』
最後の展開は、地下に侵入してきたウイルス(かつて地上のヒトを滅ぼしかけた致死率90%)によって、危険区域にいるヒトを全員マシナによって皆殺しにされてしまう凄惨な展開でした。
主人公達もマシナのサヤに殺されかけてしまう中、なんとか脱出をし主人公・ユー・マウの三人で安全区域に脱出。しかし、ユーとマウの深すぎる傷が体内で感染症を引き起こしてしまい、薬で痛みをごまかす事しか出来ない状況。

こうした中で、主人公の令人の決断は、愛するユーとマウの二人とともに、かつての地上世界の、かつて行きたいと言っていた最後の目的地、海へと向かうことでした。そこで、美しい自然とともに、遊ぶ姿が、浜辺に倒れ込む3人の姿が、切ないと同時に眩しくて、すごい綺麗で胸が締め付けられるほどでした。

以下、最後のシーンを備忘録に引用します。
──────────────────
こんな経験をしたメイツはいないだろうから。
いや…今はもうメイツですらなかった。
ユーもマウも、ヒトだ。僕と同じで…。
ここには3人のヒトがいる。
何の区別もなく。同じ生き物だ。
ユー「でも、どこでも同じなんだと思います。
たとえ、世界の果てでも。
あなたと一緒に居る場所…。
それが、わたし達の居場所なんです」
令人「ああ…僕もだよ」
みんな、ここにいる。僕たちは、ここにいる。
(中略)
マウ「ねえ……お兄ちゃん」
ユー「わたし達は」

『わたしたちは しあわせでした』
──────────────────

いや……もう……本当に……泣くというか、もうすごい胸が締め付けられる。
3人の関係性が、家族のような繋がりがすごい好きだったから、この最後に嬉しさと切なさがすごい来るんですよね……。
最後のEDでしんみりした後に、おしまいの後に、この最後の浜辺の文字を見た時の、「終わってしまったんだな」っていう見届けられた満足感と寂寥感がものすごいほどいっぱいになりました。

改めてこの最後の終わり方が好きだと今でも感じます。
102年後という近未来で、そこは寿命という概念がなくなって、ヒトとマシナとメイツが一緒に暮らす世界で。
永遠に生きることができてしまうからこそ、生きる意味が分かり辛くなる世界で、令人がメイツであるユーとマウに出会って、『自分の本当の生きる』幸せを見つけ出すお話だと思いました。
ユーやマウの『ヒトと変わらない』はずのメイツと触れ合う中で、家族のような愛情を感じる中で、『同じヒト』として、3人がともに一緒に居たいと想う姿。
3人で終える人生に満足する3人の姿が、何よりも幸せそうで、切ないはずなのにとても綺麗で。
作中で多くの近未来でのヒトの業のような凄惨なお話、矛盾めいた未来、それでも続いていく世界の無情さを、様々な方向で描かれました。
だからこそ、この最後の『本当の幸せは愛するヒト(ユーとマウ)と一緒に居ることだ』という答えを見せてくれた幸せな最後が、本当にしんみりして大好きでした。


④まとめ
色々備忘録に書きましたが、とにかく面白かったーーーーーーーー!!!!!!!
に尽きます。
これでもかっていうくらいに『不老不死・人工の人間・ロボット』という要素を掛け合わすのに、登場人物達に愛着まで湧いて、物語に没入できるこのバランスさが本当にすごい面白かったです。
何よりもR-18という要素があるからこそ、またキャラたちへの描かれ方や愛着が更に湧いたり、主人公の愛情を注いではいけないのに注いでしまう葛藤にも繋がるのがまた良かった。
ここまでバランス、設定で作品を作り出すのはとても難しいと思うので、だからこそこれだけ面白い作品なんだと思います。
また声、特にユーとマウはすごい合ってて、そこがさらにキャラへの愛着に繋がるのもすごい良かったです。

自分自身が、こうした近未来を舞台にしたアンドロイドだったりの作品が好きなのもありますが、久しぶりにはまりました。
自分にとって幻創映画館様の作品は初めてでしたが、一発でファンになってしまいました。また別の作品も読んでみたいと思います。

以上感想でした。
ありがとうございました。