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merunoniaさんのベオグラードメトロの子供たちの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
ベオグラードメトロの子供たち
ブランド
Summertime
得点
85
参照数
151

一言コメント

超能力×バトル要素も踏まえつつ、14歳の少年時代をメトロという廃棄された鉄道を舞台にした作品。それは、summertimeさんの作品らしい溺れるようなテキスト、BGMとドット絵、システムの一体感を味わえるものでした。少年時代の不安定な心情、登場人物たちの壊れそうなどこか狂っていそうな、だけどどこか綺麗で歪。そしてその後の心境の変化。それが味わえる作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

久々にsummertimeさんの作品をプレイしました。
相変わらずこのサークルの作品でしか表現できないような演出が味わうことができて楽しかった。
良い意味で90年代を味わうようなドット絵&アニメーション。
どこかサイケデリックな、もしくは陰鬱な、電子ドラッグのようなBGM。
良き古臭さを感じつつ、物語の真相を覗いていくようなUI、ドキュメント要素。
そして何といっても、主人公のシズキの14歳の不安定なような心情描写、シズキとマリヤの関係性等、
どこか狂っているようで綺麗な、溺れるような、麻薬に痺れるようなテキスト。
そのどれもが味わうことが出来たのが何よりも楽しかったです。

正直全部理解しきれてるとは思わないです。
ただ感想として好きな部分を残していきたいと思いつつ。

今作の場合は、主人公であるシズキが出版社(?)の人物との手紙のやり取りを見ながら本編の出来事を覗いていくようなシステムでした。
前半は、シズキの視点を通して、ベオグラードメトロを舞台にした超能力を持った少年少女たちの事件を見ていきながら、当時の時代背景や事件を体感していくお話。
そこではシズキの14歳だからこそ、自分の居場所はメトロ(=そこにいた魅力的なデジャン)にしかなかったのだと、同時にデジャンとシズキの関係性、またネデルカ、そしてマリヤとの出会い等を描いていくお話でした。



〇デジャンとシズキ
デジャンの衝撃といえばやはりイェレナとのバトルでしたが……。
実は母親であることが発覚した後の能力暴走、その後のイェレナの引きちぎれた姿がまさに衝撃的でした。
そんな彼ですが、私の中ではシズキとデジャンの関係性は私の中で一番印象的です。
何度も本編で明かされたように、デジャンはシズキにとって憧れの魅力ある存在でした。
それはシズキがメトロに足げなく通った理由でもあるほどに。
だからこそ、女装姿のシズキにデジャンが告白してきたとき、その姿に失望したシズキとのやり取りが一番記憶に残っています。
シズキ「なぜわからない?なぜおまえは都合のいいことしか見たがらない?だから間違えるんだ。俺は警告した。なのにお前は聞かなかった」
それはシズキとしてデジャンに憧れていたからこそ。むしろ恋心まであったのではないかとも思います。
言いすぎでしょうか。

またデジャンとシズキがトラック強盗の際に別れるときに、シズキがデジャンに抱擁して泣き出すシーンだったり、14歳の少年らしい姿が垣間見えるシーンもけっこう好きだったり。

そして最後のデジャンエンドの1シーン
──────────────────
デジャンに認められたかった。彼は十分俺を認めていると言うだろう。
しかし、それでは足りなかった。
もっと俺が感じているような憧れと羨望の一端だけでも感じさせてやりたい……。
(中略)
彼は21歳にして、何かを悟った顔をしている。それなのに、まだ青年らしい棘が見え隠れする。
それらを俺に打ち明けることはないだろう。
俺はデジャンにとって良き友人となり生活を共有する人間ではなくなった。
乾いた嫉妬のような感情をこの土地に覚える。
──────────────────

最初の時からデジャンに憧れていたシズキは、ある意味でお互い孤独と共存できるような関係になった。
なってしまった。
一緒にあのメトロという場所での二人の関係ではなくなったことへの郷愁か、少年から環境が変わってしまったようなこの終わり方が、EP1からの積み重ねがあってのお話で、私の中ではかなり好きでした。

〇ネデルカとシズキ
ネデルカさんは登場人物の中で一番好きでした。
幸せにならなさそうなところ()とか。
そんなネデルカとのエンドが、一番彼女が幸せそうでしたね。
例えシズキの心にはマリヤで埋まっており、不安定なシズキがネデルカを『壊してしまった』としても
ネデルカは『シズキならいいよ』と言う辺りがもう彼女の最大の魅力だと思います。
こういう所まで好きです。堕ちていく。

〇マリヤとシズキ
この二人の関係の描かれ方、特にEP8辺りからがもうsummertimeさんの本骨頂とも言えるテキストだったと思います。マリヤがシズキを人なみに終わらせようと背中を刺したと同時に、シズキがマリヤを刺して殺してしまう展開。それまでのマリヤさんの日記までがセットで彼女の想いの内面と、なぜ『影』という能力を発現させたのか。
正直全部理解しきれないので、文章に上手く消化できない部分ではありますが、それでもマリヤはシズキのことを好きになってしまい、そして同時にシズキがマリヤ以外を選んでしまうことへの強い懸念があり、そして最後列車のやり取りへと繋がっていくと思うと、様々な想いがあります。
ここら辺は色んな考察サイトをめぐります……。

〇line5
今作の結末は、選ぶマルチエンド形式でした
それは執筆された物語を覗いていく中で、最後の結末が決まっていないため候補の結末を見ていく終わり方。
その中で、ネデルカ、デジャンエンドを見ていく中でline1からの現実とフィクションが曖昧になっていくような没入感がとても好きでした。電車の飛び込みは助かったのか……妹との結末は……。
その中でも印象的なのは、line5でしょうか。
最初から完全にフィクションであることが言われ、またchapter selectの画面でも、他の結末が線路で繋がっているのに対し、line5だけは線路から完全に離れている辺りがとても思わせて来るような演出です。
そして描かれるのは『ハッピーエンド』
一見してみれば幸せな終わり方なのに、今作の舞台ではありえない海、そして何よりも最後の『マリヤ』の姿。
それらが、『これはフィクションだよ』と強く想わせて来るように皮肉に思えてしまうのは考えすぎでしょうか。

しかし、シズキがフィクションであろうとも『この終わり方を作りたかった』と思うようになったことこそが、この物語の結末だとも思います。
ただ事実だけを執筆するのではなくて、作中の手紙のように
──────────────────
長いあいだ、僕は自分のことしか考えていなかったし、それは悪いこととは思いません。
ただ面白かったのは、この原稿を書いている最中に
誰かを幸せにしたいという気持ちが初めて芽生えたということで、
つまり「僕によって」誰かに幸せがもたらされればいいな、と思ったことでした。

結局エゴですね
(中略)
でも僕以外のことに目を向けられるようになったのは本当です。
それでは。

敬具
──────────────────
と。
ミロがシズキに言っていた「君はこの場を借りて、君の過去を清算しようとしているんだな」
という部分もあるのかもしれません。
ただこれらが本当の事なのか……までは分かりませんが。見当違いかもしれません。

しかしこれが本当なら、この作品でのシズキは14歳の、そして19歳の出来事を通して、
ベオグラードメトロという場所の出来事を通して
少年の心から、大人に心情が変わっていく一つのお話だったのかなと思います。


〇総評
summertimeさんの作品好きだ―――――ー!と再認識する作品でした。
正直全部理解できないです!妹って何!影って何!マリヤの心の真相は!
でもそれ以上に、summertimeさんの作品じゃなきゃ味わえないようなこの読了感、トリップ感
それらが味わえて満足です!楽しかった!
こういった尖ったような特徴的な作品を作られるのはとても大変だと思います。敬服です。
作者さんの知識量もすごい。TIPSがどれもセンスがあってすっごい読んでて楽しいし。
アニメーションから演出からの工夫もすごい。
それらが最初から最後まで味わえる作品でした。
ぜひ次回作も楽しみです。

ありがとうございました。