ErogameScape -エロゲー批評空間-

merunoniaさんの夢現Re:Masterの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
夢現Re:Master
ブランド
工画堂スタジオ
得点
80
参照数
227

一言コメント

ゲーム製作会社のお話として興味があって買いましたが、お話の結末は予想外でした。ただ、最後の終わり方は綺麗でとても良かった。ゲーム業界ならではの闇だったりを語られながらも、やはり製作物として情熱が感じられたさき√が一番面白かったです。何気にBADも凄惨ながら綺麗で、予想外の良さがありました。長文感想は各ルート感想。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

長文感想は
・各ルートの感想
・総評
・女性だけという世界の設定について
の3つ


〇共通√
共通√では、新人社員のあいちゃんが、初めて社会人としてゲーム会社に勤めるところから始まりました。
読み進めると、ゲーム会社ならでは(?)なのか尖ったキャラがぞろぞろ。メイドからぷちザウルスシナリオライターに、軍人原画家、大型犬に敏腕社長に個性ぞろい。
こうした中で翻弄されながら、ゲーム会社の闇に触れながらも経験を積んでいく様子は製作物としての面白さが詰まっていました。

特にこの中でも面白かったのが、『デバック』と『外注』のお話。
中身は割愛しますが、ゲーム業界ならではの闇具合に苦笑いしてしまいました。
これをゲームを作っているライター自身が書いているのはどんな気持ちだったのか……。
特に外注の大手原画家がSNS他社案件の応援絵をアップしている所からの自社の焦燥感のお話は、ツイッターでリアルで聞いたこともあったので(以下略

とブラックジョークな意味合いの面白さですが、その他個性的な彼女たちとの触れ合いのお話も面白かったです。海だー!だったり、旅館だー!だったり共通√ならでは面白かったです。



〇さき√
私が期待していた方向のお話で一番面白かった√。

さき『そもそも前提がまちがってる!ゲーム開発の現場で、シナリオライターにまともな人間がいるはずがないっ!!』

彼女の√は、締め切りの『修羅場の追体験』。
まさにこの言葉に尽きます。
そして同時に、こころの『ディレクター奮闘記』
でもありました。まさに製作物真骨頂のお話。

さき√をまとめると、
シナリオライターであるさきのライターとしての、自分を納得させられる良い物を作り上げる、作り手としての境地と。
ディレクターであり、ゲーム製作の進行管理をまとめ上げようとするこころちゃんの立場。
この二人が幾度となく衝突を繰り返して
そしてぎりぎりのぎりぎりまでの限界ラインを攻めて攻めてせめて、マスターアップまでたどり着く。

いやぁ読んでて、すごいこっちも体力を持っていかれるのなんの。
一体どこまで修羅場になるんだろうっていう気持ちが私自身も繰り返される。
でも製作物で、お互いに良いものを作りたい!!って情熱があるから面白いんですよね。
彼女の√が一番すきな√です。

でも、彼女の√を今見返すととても不思議でもあります。

まず大前提として、『締め切りを守らせる』姿勢であるこころちゃんの立場は正しいんですよね。それは、さき自身が作中でも認めています。
でも、それでもこころちゃんのディレクターの在り方を指摘する、さきの言葉がとても正当性があるように感じてしまう。ここが一番今でも不思議です。

例えば、頭ごなしの否定、『仕様』にこだわらりすぎて自分の仕事ぶりを守ろうとする在り方。自分の好みを貫きとおすがゆえに、相手の否定をしてしまう間違った在り方。
どの指摘も『関わり方、経験の差からくる指摘』として正しくて。
でも上記内容の『方向性』は、さき自身も言っていたように、あくまで『こころちゃんが正しい』んですよね。
クオリティを保持しようとする姿勢、自分の妥協ラインを守り続ける在り方。
これらの姿勢は、『締め切りを守らせようとする方向性』としてとても正しい。

でも自分の立場を棚に上げたさきさんの指摘、こころちゃんへの指摘事項は、どれも正論に感じてしまう。
俯瞰してみれば、あくまで締め切りを守らせるこころちゃんの立場が優勢だと思うのに、それなのにディレクターの在り方として指摘するさきさんが正しいと感じてしまう。
だから今でも、勢いに呑まれるような不思議な√だと感じています。

ただ同時に、さき自身の『ライターは人間的に崩壊してなければならない!それほどに、自分を殺してでも良いものを作り上げなければならないのだ!!!』
と狂気とまで言える情熱具合は、まさに職人ならではでした。

この√の魅力の真骨頂は、上記で述べた
『進行管理せねばならないディレクター』と『自分を殺してでもギリギリまで締め切りをせめるライター』のぶつかり合いだと、改めて感じます。

よくあるのは、作り手として、どうしても認められるものが作られないというテーマはありがちですが。今作の場合そこに『締め切りとディレクター』が入り、二つの要素のせめぎ合いがとても面白かったです。
そして最後に作品を作り上げた瞬間は、もうお疲れ様の言葉しかありませんでした。

『シナリオライターやら原画家なんかは人間的にさほど出来ていなくてもやっていけるけど──
ディレクターは人間的に、そこそこ出来ていないとやっていけないことを意識しないとね。しんどいだろうけど』
(さきからこころちゃんへの言葉)

この物語を書いたライターとディレクターはどのような気持ちだったか興味深いです。
同時に、ライターを経験したことがある人がこの物語を読んだらどのような気持ちでもあるか興味深い……。経験したことない自分だからまだ楽しめるのかもしれないとも思います。



〇なな√
彼女の√は、とにかく読んでてとても疲れました。
自己嫌悪と劣等感に苛まされる彼女の視点のお話はとてもつらかった。
共通では明るい彼女の、自分をだまし続けていた少女の物語。
さらに、勘違いやすれ違いでさらに悪化していく様子。
結果的に誤解がとけてハッピーエンドなものの辛かったです。

ただ、その先にあるBADENDはある意味とても綺麗でした。
むしろBADENDこそ輝く√だと感じてしまいました。

もっときゃっきゃうふふだったり、声優だからこそのお話が見たかったなぁ。



〇マリー√
軍人にイケメン的立ち位置にキャラの中で一番好きでした。

彼女のお話は予想外に大きくてびっくり。
ただ、過去のお話の語られ方が唐突だったりで、またその後にとんとん拍子で解決していくので、正直可もなく不可もなく終わったなぁっていう感想です。
マリーさんの過去を知っても、マリーさん自身の心情描写があまりなかったので、こう考えるのではなく、眺めて終わってしまった感じですね。

ただ、ばななちゃん同様、BADENDの狂気さはグッド。
このお話もBADがとても綺麗でした。



〇こころちゃん√
TRUE√。
こころちゃんのあの冷たい態度だったりの謎が明かされるわけですが、
ニエ=あい、こころ=魔女に『こんなん予想できるか~~~~~』っていう感想。
でも、最後の終わり方がとても綺麗で面白かったです。

ニエと魔女というゲームを上手く絡めながらも、最後は綺麗だったと思います。
何より一番大好きなのは『タイトル画面の演出』ですね。
こころ√は、他3人の√が終わったら解禁されるわけですが、3人終えた時点で、タイトル画面が変わるわけなんですよ。
それが、『こころとあいの二人が泉の場所にいる』っていうタイトル画面で綺麗だなぐらいだったんですが。
これ、こころちゃん√をやると意味合いが全部つながっていくんですよね。

全部√を終えた後、面白かったなーって思ってタイトル画面に戻ると、『ニエと魔女の二人が泉の場所にいる』タイトル画面に代わってるんですよね。
ここで、ニエと魔女の二人の正体とがもう
いやもうやられた~~~~~~!って気分になりました。

また好きなシーンの一つは、さきさんのTRUE√リマスターのプロット。
1週間で作り上げるという制約の中、みさきの『二人は実は姉妹でした~~~』からどう作り上げるのか、素直に面白かったです。
ってかあんな状況からのリマスターの無茶振り……正気か?と読み手の自分も思いながら読んでたのが印象的。
でもまさに『夢現リマスター』でしたね。

そして最後のグッドアフターでは、まさかの全員集合。
なんでもありな感じですが、でも笑顔で終われるハッピーエンドでとても良かったです。
『やっぱりゲームはハッピーエンドが一番!』
まさしくその通りな終わり方でした。


〇総評
工画堂スタジオの作品は初めてでしたが、面白かったです。
製作物のお話として期待して買ったのですが、良くも悪くも予想を外してくれた面白さがありました。
特にあの綺麗な絵に反してシリアスシーンは結構ヘビーだったり、何気にBADシーンはどれも精神的にえぐいのが一番意外……。
製作物の設定に反して、ファンタジー要素だったりが入っているのもさらに意外でしたが、結果的にとても面白かったです。
上記でも述べましたが、ライターさんがどのような気持ちでこのお話を書いたのか少し気になったり……。
FD要素もあるようなので、そちらも買ってみようと思います。
ありがとうございました。


〇女性だけの世界、という設定について(追記)
もう一つ私の中で新鮮だったのが、この女性だけしかいないという設定。
登場人物で男性が出てこないってのは百合作品であるあるなんですが、工画堂スタジオ?ならではなのか、今作品では、本当に『男性』という概念が存在しないんですよね。
結婚も女性同士、妊娠もどちらも、夫婦ではなくて婦婦。
ここまで振り切れてる設定が私の中でとても新鮮でした(作中では特にこの設定に触れないところも)
ただ、この作品自体に、女の子同士の恋愛による楽しさってのはあまりなかったんですよね。百合作品にそこまで多く嗜んでいるわけではありませんが、女性同士のドキドキ感、見守りたい尊さだったりがあまりなかった。
もちろん、キャラの可愛さ、その二人が恋愛関係になることでの面白さはあるのですが、この面白さは百合とは違う。
女性同士で男性はいらないというのも百合の一つの在り方かもしれませんが、男性という概念までもが消えてしまったら、それはまた異世界のような違和感があるのかもしれない。男性がいてほしいわけじゃない。でも男性という概念があるからこそ、女性同士に尊さが生まれるものなんだなと、認識したのが私の中での一つの発見でもありました。