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merunoniaさんの冬のポラリスの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
冬のポラリス
ブランド
ステージ☆なな
得点
80
参照数
111

一言コメント

『不死者と記憶』をテーマに、二つの対照的な物語を描きながらも、夢へ向かう明るさと、前へ進むがゆえの寂寥感、それぞれの答え描き切ったのがとても魅力的な作品でした。面白かったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『冬のポラリス』
今作は、2つの物語《WinterPolaris》編と《Sweeper Swimmer》編を絡めながら、不死者のお話を描いた作品でした。

一見関係がなさそうな二つの物語によって描かれる、『不死者が生きる』姿の切なさと前を向く明るさの対照的なお話は、共通した部分、対比した部分がそれぞれ描かれ、最後に『不死者だからこそ未来に進む』事につながるようなお話がとても面白かったです。

以下ネタバレ込みで
〇不死者と記憶について(設定を整理)
〇Sweeper Swimmer編
〇WinterPolaris編
〇Sweeper Swimmer編と、WinterPolaris編とを読み比べて、共通して。
〇まとめ
で分けて備忘録がてらの感想を書いていきます。


〇不死者と記憶について(設定を整理)
まず感想を残す前に、二つの物語に共通する『不死者』の設定について整理。(明かされてなかったり、曖昧に理解している部分もありますが)
今作における主な不死者は、ツバキ(ロリ)、男主人公(ヒエロニムス)、エレナ、マリーの4人。(それら以外にも存在)
不死者はその名の通り死ぬ事は基本ないが、頭をつぶされればくっつけようとしない限りおそらく死亡。
それ以外は例え体がちぎれても死ぬことはないが、体が欠損した場合は、元に戻らない。指等がちぎれたらくっつける必要がある。

また最も重要なのが、死んだ場合生きていた時の『記憶を失う』。
それは生きている時間が長ければ長いほど、全てを失うことが多い。
ただし、同時に生きている前の前世の記憶を思い出すことができると思われる。
(例えばAとして生きて、死んでBとして生きてまた死んで、Cとなった場合、CはBの記憶を失うが、Aの記憶を思い出す)

WinterPolaris編では、こうした記憶が無くなることを防ぐために、『星の間』と呼んだ場所を定め、星座と座標をメモすることで位置を記録し、そこに自分の人生についてを壁、床一面に文字を書き連ねること、かつ『保険』として不死者同士が互いに覚えておくことで、片方が忘れてももう片方が星の間に連れていくことで記憶を思い出すことができるようにしたのが、そもそもの始まりでした。
また、世界観の背景だと人類はなぜか原因不明の奇病(?)により次々となぜか消えてしまい、人類は寿命を持たないもの(不死者)以外はもうほとんど生き残っていない世界です。

また、Sweeper Swimmer編は、WinterPolaris編の人類が完全に滅び切った後のお話でした。

以上の設定を踏まえ
以下、備忘録にそれぞれの感想


〇Sweeper Swimmer編
WinterPolaris編に比べるとまず明るい海の背景、南国を感じさせる舞台、明るいテンションのマリーとエレナの二人の女性主人公の勢いに驚きました。
(すでに世界が滅び切っていて、すでにいた人たちは全員不死者だと思うと今思えばなかなかな世界観ですが)
BGMもとても明るい物で、WinterPolaris編の暗めの背景に比べるととても眩しい物でした。
そのような明るいお話のSweeper Swimmer編は、海に放流されて流れ着いたマリーとエレナが出会い、ガラス瓶の中に入った手紙を手掛かりに冒険に出るお話でした。
こうした冒険を経て、マリーやエレナは自分自身が実は記憶を失くした不死者であり、そして不死者であるがゆえに『夢を見ることが出来ない』想いが明かされていきます。

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「わたしは……夢が見たいのだろう」
わたしたち不死者には、無限の時間がある。
彼女(かつて出会ったツバキ)のように保険を用意していた(=記憶の保持)のなら、記憶を失くしたって、引き継ぎ、同じ時間を進める。
無限の時間さえあれば、大抵のことは何だって叶う。
願いを、願い続けてさえいれば、大抵は叶う。
だから、わたしたちは、夢を見なくなった。
夢が夢と呼べるに、値しなくなったから。
どうせ、だとか、きっと、なんて言葉が、
夢というもを、とても陳腐なものに思わせたから。
(中略)
手を伸ばせば届くと分かる実感は、世界を、とても小さく思わせた
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またWinterPolaris編と同様に、記憶を失うこと、失われた時間があることへの寂寥感も募らせていきます。
──────────────────
「わたしの名前は……マリアステッラ」
もう失くしたくはないと……自分の名前を深く心に刻んだ。
名前を手に入れると、今度は、自分の失くした記憶もまた、取り戻したいと願うようになった。
そんな思いもまた……いつ忘れてしまうのだろうか。
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不死者であるがゆえに、出来ないことがほとんどなくて、でも同時に記憶が無くなるからまた空っぽになってしまう虚しさ。
しかし、その虚無に対しての答えを出したのが、マリーとエレナの出会い、そして冒険に出るたびに埋まっていく漂流物とガラス瓶の中身と一緒に語られます。

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一緒に進み、沢山の物を詰め込んできた世界は、太陽に照らされ、輝いていた。
そう、きっと空っぽになったって、また新しいものを詰め込んでいけたのなら。
世界また、綺麗に太陽の日を浴びて、輝くんでしょう。
現実を抜け出して始まった旅は、彼女の言ったとおり、夢へと繋がっているんでしょう。
──────────────────
「失われたものも、多いかも知れないけれど」
「けれど、おかげでわたしは、貴女と出会えたの」
「新しいわたしを、貴女と、見つけられたの」
空っぽのガラス瓶は、空っぽだからこそ、新しい世界を詰め込めるのかも知れない。
……夢とは、そういうものなのかも知れない。
たとえ壊れても、失っても、ふと誰かと繋がり、そして、別の未来へと進んでいく。
(中略)
人の夢は、繋がっているんじゃないだろうか。
私もまた、マリーと同じ夢を、見るようになっているのだから。
「今はまだ、ガラス瓶の中身は、少ないけれど」
「わたし、この瓶詰めの世界が、好きよ」
──────────────────


不死者で無限の時間を生きると同時に、いつか記憶を失って空っぽになってしまう虚無と怖さ。けれど、その空っぽで新しい自分だったからこそ、こうしてエレナとマリーが出会い、また二人で新しい冒険をして、新しい思い出と時間を過ごすことができることがこのお話では描かれました。
こう思わせてくれる明るい透き通ったお話が本当に素敵で綺麗なんですよね。
過去に囚われるだけでなくて、現実と未来が瓶詰されていく世界。
それは大海原に冒険に出るように。様々なまた漂流物を見つけていくように。

例え不死者で、永遠の時間と同時に記憶を失ったとしても、何度でも冒険に出ることで、新しい夢に出会うことが出来るのだと、そう明るい未来に歩き出すことが出来ると思わせてくれる爽やかなお話でした。
だからこそ、二人は新しい冒険にいつまでも一緒にいられるのですね。

なぜWinterPolaris編のエレナ(=コンスタンス)が過去にこだわらない生き方をして、そしてまた記憶を失って最後に出会ったのか、がとてもある意味よくわかるお話だったとも思います。

〇WinterPolaris編
こちらはツバキとヒエロニムス(男主人公)の二人を舞台にした物語。
とても壮大なとてつもなく長い時間をかけた純愛の物語だったと思います。
最初は日本で暮らす主人公(記憶を失った不死者)の視点から始まり、奇病によって消えていく人類がある意味某〇ロナウイルスを彷彿させるものでした。
その後のばったばったと人がいなくなる展開があまりにも急展開すぎて、人類滅亡を描くお話か??と思っていましたが、まさかここまで過去にさかのぼって不死者としての二人の関係が描かれ、そして最後にこのような純愛が描かれていたとは……思いもしませんでした。

簡単に展開を記録すると、
ツバキとヒエロニムスは、はるか昔に日本で初めて出会った。
その後ヒエロニムスはツバキと一度別れたが、不死者の保険(=記憶保持)という目的でツバキと再会し、星の間(記憶を保持するための建物)を残しながら二人は共に旅をする。
その後、ヒエロニムスはとある不死者である領主と出会い、『もう疲れた。自分を殺してほしい(首を落としてほしい)』とお願いされ、依頼通り殺す。
それによりその土地から逃げることになるが、ヒエロニムスは死んでしまい記憶を失う。その記憶を失ったヒエロニムスを保険の役割通りツバキが星の間に連れて行こうとするが失敗してしまい、ツバキ自身も殺されてしまい記憶を失う。
記憶を失ったツバキは魔女として人々を遠ざける(皆殺しにする)存在になってしまい、またヒエロニムスは聖人として生きていたまた死んだあと、ツバキと出会っていた頃の記憶を思い出す。
ヒエロニムスはツバキの事を覚えている状態でツバキと再会し、魔女であるツバキを殺すことで、また二人はお互いに再会し、旅を再開しました。
その後は改めてヒエロニムスとツバキはお互いに保険という役割同士で旅をすることになるけれど、一緒に過ごすことで二人とも互いに隠しながらも『愛してる』という思いを抱くようになる。
こうした想いを抱くがゆえに、最後にヒエロニムスがツバキに対して出した答えが、『過去を捨て人らしく生きて欲しい』という物でした。
ヒエロニムスの保険として自分と一緒だと『過去にしがみつくばかり今を生きることができない』と。
過去の記録を残さず、保険としての役割を押し付け合う関係ではなく、人らしく『今』を生きて欲しいからこそ、別れることでした。

──────────────────
俺と共に生きる限り、お前も俺も『今』を生きていない。
もし俺達に、不死を与えた者が存在し……
そして、何かの意図を俺達に託していたとしても……
幼く、細い、その小さな肩に、支えられるものではない。
「今日のお前は、今日作られる……そう教えられていただろ」
(中略)
……数百年生きて、一つだけ学んだことがある。
時は……万能ではない。
……その短い一生の間……
悩み続け、間違いを重ね、それでも懸命に生きるのが人ならば……
せめてこいつには、人らしく生きて欲しかった。
その小さな肩に支えきれない、重荷を下して欲しかった……。
──────────────────
──────────────────
ツバキ「わたしは、死ぬのが怖かったわけじゃない……」
辛い過去を引きずることでも、この先の長い生を、たった一人で生きることでもない。
本当に怖れたのは、あの人のことを……忘れること。
ツバキ「今この気持ちを……失うのが怖かったのだ……」
──────────────────

過去に囚われるのではなく、前を向いて生きて欲しいからこそ別れた二人。
その後東京で全ての記憶を忘れたヒエロニムスと再会するツバキ。
その後東京まで一緒に旅をし、さらに北を目指し、かつての星の間を目指す。
それは、最後のヒエロニムスにしか読めなかった文字を読んでもらうため。
彼の本当の気持ちを知るためでした。
その旅の間に、ツバキはヒエロニムスを海に落として殺そうともします。
それはかつての彼の記憶を思い出してほしいとも思うがための行動でした。
けれど最後には助けます。それはヒエロニムスがかつて自分を想って生きて欲しいと願った行動とは反していたから。
最後に、ロシアのナホトカの星の間で、彼にしか読めない字による本当の想いを知ることになる。
『愛してる』の文字。

長くなってしまいましたが、以上がWinterPolaris編のお話でした。
愛していると同時に、自分と一緒にいると記憶を失うことから逃げられず、前に進むことが出来ない。だからこそ、一緒にいると人らしく生きることが出来ないのだと。とても悲しいお話でした。
けれど、それでも一人で生きるしかないのだと。
ツバキは、もう一度ヒエロニムスを殺すことで、かつての彼を取り戻すことができるかもしれない。それでもその選択をしなかったのは、ヒエロニムスの今を生きて欲しい想いを理解していたからで。そう思うと、彼女の一途な想いと葛藤と、それでも生きるしかない彼女の姿がとても切ないです。


〇Sweeper Swimmer編と、WinterPolaris編とを読み比べて、共通して。
不死者をテーマにしながらも改めて二つのお話はとても対照的であったと思います。

Sweeper Swimmer編では、不死者である記憶を失うことを悲観せず、むしろそれが新しい出会いに繋がるのだと。同時に失われた時間は決して無駄ではなくてそれさえも繋がり、次の夢を見ることが出来るきっかけにもなるのだと描いてくれました。
だからこの新しい出会いに夢を抱き冒険をし続けることが出来る、二人一緒にいられる明るい冒険が素敵でした。

WinterPolaris編では、不死者であるがゆえに過去の記憶を失うことを恐れ、囚われてしまい、前を向いて未来に進むことが出来ないと。今を生きることができない。だからこそ、数百年一緒であった二人は、新しい今を未来を生きるために別れようと選んだ切ないお話なのがこのお話でした。

一見見ればとても対照的ですが、どちらにも共通していたのが『未来に進む』ことだったと思います。
不死者と記憶を失う事をテーマにしながらも、どのように彼彼女達は、未来に向かって生きるのか。記憶を失うこと自体を新しい出会いに必要であると見出すか。
記憶を失うことに囚われるからこそ、別れて今を生きるのか。
それらをそれぞれの物語を軸にしながら、二つの答えを出したお話がとても魅力的で面白かったです。


〇最後の冬のポラリス エピローグについて
こうした二つの物語が繋がったのがエピローグでした。
Sweeper Swimmer編の二人がガラス瓶の手紙を集めながら、ツバキと再会する最後。
そこで明かされるのは、ツバキに未練があるがゆえに何度も何度もガラス瓶に手紙を詰め流したという事実。
その中でそれらのツバキの字とは違う文字のガラス瓶と手紙。
それはヒエロニムスの手紙でした。彼自身もツバキと同様に未練、後悔の想いからガラス瓶に手紙を流していたという事実。
そこに添えられた『ツバキだけが知っている四文字』。愛してるの文字。
ツバキ「あ、相変わらず、下手な字ね……」
二人ともお互いに別れながらも、未練、後悔しながらも生きている似た者同士であったことが描かれる最後でした。

エレナとマリーの二人の夢を抱いた冒険が、ツバキとヒエロニムスの想いを繋げた物語。
かつてエレナとマリーが海にガラス瓶の手紙を流し、『きっと誰かの夢が、叶いますように』と願ったように、ツバキとヒエロニムスが海に流した夢、想いが、二人の冒険によって新しい出会いによって繋がったと思うと、とてもロマンと切なさが綯交ぜになった素敵、とても素敵なお話だったなと思います。

〇まとめ
私にとっては、ねこねこソフトの作品自体に触ったことがあまりなくて、とても新鮮だったと思います。
好みで言えばSweeper Swimmer編の前を向く明るい物語ではあります。
ただ何よりも面白かった魅力が、全く対照的な『不死者と失われる記憶』というテーマを扱いながらも、二つのお話のそれぞれ芯となる答えを描きながらそれらを繋げる最後のエピローグの寂寥感につなげたのが何よりも素敵だったなと。
最後まで読んだからこそわかるこの世界観の壮大さ、想いの切なさと爽やかさが同時に楽しむことが出来たのが面白かったです。

とても面白かったです。
ありがとうございました。