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merunoniaさんのANONYMOUS;CODEの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
ANONYMOUS;CODE
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
85
参照数
259

一言コメント

科学ADVならではの、「世界の謎や陰謀論」から世界の謎が明かされていく楽しさや、まさしく『ハッキング』ならではのゲームシステムによる、ゲームとプレイヤーの一体感が楽しかったです。盛り上がりの展開や登場人物たちの掘り下げが薄いのが気になるものの、ボリュームは簡潔にまとまっており、2日ほどでクリアできる手軽さもグッドでした。面白かったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※前半ネタバレなし、後半ネタバレあり感想です

科学アドベンチャーシリーズといえば、シュタインズ・ゲート等が代表作としてありますが、その続編として発売された『ANONYMOUS;CODE』

科学ADVと言えば、世の中にある都市伝説や不可思議な現象、陰謀論等を交えながら、もしかしたらあり得るかもしれない物語が描かれていくのが特徴ですが、今作も面白かったです。

世界はデジタルというシミュレーション仮説
2038年問題
cicada3301の暗号
ファティマ第3の予言、終末論……等々。

明かされる設定が設定なだけに、後半はかなり突拍子もない方向にはいきますが、前半部分の都市伝説が都市伝説を結びつくような楽しさ、後半の世界の真相を明らかにしていきながら、自分が望む最良の未来を目指す物語として、今作も健在で楽しかったです。

また何よりも、今作のゲームシステム、『ハッキングトリガー』による、プレイヤー側と作品への一体感が何よりも楽しかったです。
ハッカーが主役となる物語と同時に、プレイヤー側も『セーブ&ロード』を駆使して世界への介入をする物語。
主人公ポロンの観測者として、彼らと一緒に物語の結末を見届ける一体感が好きだったなぁと。
こういうメタ系すごい好きなので、自分のツボにはまったのもよかったです。

ゲームの長さとしては短いです。多分2日もあれば終わります。
ボリュームという意味では短いとは思いますが、長々とだらだらするよりは、簡潔にまとまってTRUEエンドがあるので、良かったです。
ただどうしてもシュタゲ等と比べると、登場人物たちの厚み等は薄いかなあとは思います。一本道で各キャラの掘り下げがないため、心情移入が薄いです。
また、後半に急展開&流れもどうしても乗れず展開を眺めるだけのような形になる部分もあるのが惜しい。
ゲームシステムと、1つの『あり得るかもしれない世界』の結末として楽しめたので、買って良かったと思います。


以下ネタバレありで備忘録

〇ゲームシステム
一番楽しかったのがこの『セーブ&ロード』で介入していくというメタシステム。
前情報もなくプレイしたので、最初の【how's it going to end?】部分からの、「メタ介入できる系か!」とメタ系大好きな自分はすごいワクワクしました。

前半のcicada3301クエストをこなしていく部分も、通常では回避できないBADENDの結末を、プレイヤーが【ロード】で介入していきながら主人公を導いていくシステムがすごい楽しかった。
また、クエスト2つ目の51%攻撃を阻止するお話では、BADENDの結末を回避するために「どの時点で世界にハッキングすればいいのか」、偽の分岐等に踊らされながらも、試行錯誤して、最後に解決できた時には、すごい気持ち良かったり。
最後のチャプター10は何度も詰まりましたけど、自分がセーブデータを作成することでポロンにロードさせるギミックに気づいたときは思わず声がでました。
別ゲーの話ですが、自転車創業のゲームのような、ノベル&パズルゲーのようなものが好きな自分には、このシステムがけっこうハマりました。

『あんたに観測してもらえてよかった』(ポロン)

最後も、自分が読み手側ではなくて、一人の『アノニマス(名無し)君』として、『観測者』として世界介入をすることで、アポロと接触し世界を構築する物語として、とても面白かったです。

〇シナリオ
前半部分のクエストをこなしていく部分が一番好きです。
ハッカーが主人公ならではの、飛行機墜落阻止、51%攻撃阻止から『セーブ&ロード』を駆使しながらも、時間制限の中主人公のハッキングによりどのように解決するのか。ワクワクしながら読み進めることができて良かったなぁと。

また、科学ADVならではの数々の事象や陰謀論が結びついていく展開も良かったです。
今では身近な存在となったデジタル社会の象徴でもあるVtuberやVR世界をはじめ、SNSや掲示板等が登場しながらも、もし世界がこのまま発展していくとどうなるのかが描かれていく前半。

後半には、『世界はデジタルである』というシミュレーション仮説を根本にしながら語られる
2038年問題と終末論とファティマ第3の予言。
聖母マリアの存在と観測者の存在。
参加型宇宙論、遅延選択実験、スリット実験、親殺しのパラドックスにテセウスの船、等々……。
世界がデジタル社会であるがゆえに、数々の都市伝説や陰謀論が結びついていき、最後の結末を迎える楽しさは科学ADVならではで健在でした。

ただし後半からが駆け足&急展開。
詰め込みすぎな分展開が突拍子に思えてしまう部分もありました。
流れが変わったな?と思ったのは、『サクラメント』が登場した発火現象おじさん。超常現象のバトルが始まって、ジャンルどうした???ってなりました。
その後でも、特にアスマ君が覚醒してからのめちゃくちゃっぷりがすごい。
シミュレーション仮説が根本にあるからこそなんでもできてしまうのは分かりますが、東京とバチカンがつながる展開とかもうすごすぎて笑いました。
作中の展開も、どうしても乗り切れずに、ただ物語が展開していくのを眺めるだけというか、盛り上がりに欠ける分は正直ありました。


ただ最後の展開は結構好きです。
世界がシミュレーションであるからこそ、世界に負担をかけてリセットすればいい。
自分たちが世界シミュレーターを作っているように、多層で自分たちの上に観測者がいて、さらに上に観測者がいて。だからこそ2038年問題によるエラーで終末を迎えるのならば、問題解決した世界に同期すればいい。
モモを救いたい、しかし世界のシミュレーターのデータである自分たちで解決できないのなら、観測者であるアノニマス君(名無し)に記憶のロードを任せればいい。
だからこそ、最後に今まで観測者でしかなかった自分にポロンが接触してくる展開は胸熱。
SNSの発展やVR世界が身近になってきた今だからこその結末が見れて楽しかったのは買って良かったなと思います。

〇登場人物
逆に惜しかったのは登場人物たちへの掘り下げが薄くて、感情移入できなかったことでした。
登場人物たちは、すごい個性豊かで面白いです。
特にお気に入りはノンノちゃん。すごい可愛い。
途中には、アマデウスクリス(シュタゲゼロ)も登場したりした時は、マジか!
ってなりました。

ただ、それぞれの登場人物たちの役回りが薄い……。
作中では、ポロンの父親との回想部分とハッカーとしての思い、他にはオズの元宇宙飛行士と自分の「デジタルの自分」に対する忌避感と自分自身で自分の存在を決めること等が語られたりするのですが、展開ばかりが先に行ってしまい、どうしても薄く感じてしまいました。
展開をただ眺めるだけといいますか。
特に、相棒のクロウと主人公のコンビ感すごい好きなのに、クロウのこと結局何一つわからない……。

また、ポロンさんの葛藤部分が正直そこまで響かなかったなぁと。
セーブ&ロードができない理由に、頻発しすぎるとフラッシュバックが起きてしまうこと、特に終盤のアスマの母親を救い出すシーンは、「また何度繰り返してもどうせ失敗してしまう葛藤」があったりしたんですが、心が折れた描写があっさり感もあって、そこまで心に響かなかったり。
ここら辺、つい比較しがちですが、シュタゲの岡部だったりとかすごい上手だったんですよね……。

ただ後半部分でもすごい好きなシーンはあるんですよね。
例えばTRUE√でポロンが語ったモモと、モモが語ったポロンへの対比。

ポロン側から。
TRUE√で、モモがポロンに「あなたなら世界を救ってくれる」というセリフ。
ノーマル√を目指したときの本編では、ポロンと苦労を共にしたモモは「世界を一緒に救おう」と言ってくれたのに、TRUE√では、まるで当たり前のように『救世主』のごとく世界を救うため、モモが「あなたと一緒なら世界を救ってくれると思います」という言葉に寂寥感を覚える部分。
かつてモモが自分を励ましてくれたからこそ、今の自分がいるのにそれをモモは覚えていない、あの頃のモモは自分の中しかいないという寂寥感。
(結局記憶は消えるのですが……)

次はモモ側。
逆に、TRUE√の最後にモモがポロンと初めて会う場面。
アマデウスによって記憶を保持しているモモは、かつてポロンと作った二人だけの『詩』。でもポロンは世界のリセットによりその詩を知らなくて。
『私と、私だけが知っている大切な人の、2人で、一緒に作った詩です……』

世界は無事望み通りの世界を迎えたけれど、その救ったポロン自身はモモのことを知らなくて、でもモモに未来があるのはポロンのおかげ。

この世界はシミュレーションの一つかもしれない。
この物語に何があったのか、それを知るのはモモと『観測者である自分』しかわからない。この寂寥感と、でもハッピーエンド迎えるような満足感のある最後が、このゲームの根幹である『デジタル世界』にリンクしてすごい好きなんですよね……。

だからこそ、他にも、アスマ君と母親の関係だったり、チームのみんなだったり掘り下げがあればすごい魅力的だと思う登場人物たちが多いのに……
また『デジタル世界』がゆえに、オズの『自分は一人の人間として本当に存在しているのか?所詮データでしかないのではないか?』だったり、素材は豊富なのにすごい勿体ないと感じます。

ただし、簡潔にまとまっている良さにもつながっている部分があるので難しいところだと思いつつ……、もう少し彼らの日常や関係性を見たかったと思います。

総評
惜しいところも上げたりはしましたが、買って良かったなぁと思うくらいには楽しめました。
自分が科学ADVに求めているところが、『もし世界への謎がつながっていき陰謀論が本当だったとしたら……?』という仮説を楽しむ部分なので、そこが見れたのが良かったですし、ゲームシステムが自分の好みと合致したのも良かったです。

どうしても今作の内容だとシュタゲと比較されがちなんですよね……公式でも名前を出すくらいですし。
シュタゲと題材は同じくらい好きなんですが、やはり岡部をはじめ登場人物たちの深堀りの差じゃないかなぁ……。

でもまた科学ADVの続編が出るとなったら買いたいと思うくらいの内容でした。
ありがとうございました。