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merunoniaさんのフリックドロップの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
フリックドロップ
ブランド
.17
得点
90
参照数
74

一言コメント

『ロボットは人間と共存できるのか』SFならではの世界観による、A視点・B視点から物語が展開される叙述的な面白さと同時に、SFで問われやすいテーマを、「フランケンシュタインコンプレックス」等多くの観点から検証しながら、提示される作者の答えが良かったです。何よりも、多くのテーマ一つ一つに対して真摯に答えを出していく作者の熱量に敬服します。まるで読み手である自分自身にも問いかけられ、考えさせられるようなお話は、読み進めるのは体力がいりますが、読み終えた今、作者の一つの答えは、私の中でまた一つの考え方に影響を与えてくれるくらいには面白かったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

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それは、人とロボットの物語。
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『ロボットは人間と共存できるのか』
『限りなく人間に近いロボットは、人間と同じ存在だと言えるのか』

今作では、上記の問いに対して様々な観点から問いかけられます。
代表的なものを挙げると

〇人間の根底にある心理的ジレンマである《フランケンシュタインコンプレックス》による恐怖。
人間の良き隣人であるために、より効率のよい存在であるために、AIを発展させもはや人間との違いがわからないほどの存在になったロボット。
こうした誕生した彼らは、人間によって作り出されたのにも関わらず、「やがて人間たちに反抗し人間を逆に支配するようになるのではないか?」と恐れるジレンマ。

〇ロボットの存在意義
ロボットが作り出された理由とは何か?
それは、人間が生きる上で必要な労働の手助けをするため。
家具、道具の延長線上に存在するもの。
ではそのロボットである物(者)に心は必要なのか?過剰な能力は必要なのか。

その他にも、フレーム問題と心の問題、最後のストッパー措置。
ロボットの自由とは何か。ロボットと人間は愛することができるのか。
子を成せないロボットと結ばれて人間の種を残せない未来に希望あるのか。
社会的に許されるのか。
人間とロボットの生きる時間が違うことに対しての問題について。等々。

こうして様々な問題を提起する中で
『ロボットと人間は共存することができるのか』について
【ロボットと人間は互いに手を取り合って共存することができる】
【ロボットは人間にとって将来的に凶器となりうる、すれ違う、共存することはできない】
とぶつかり合いながら話が進むわけなんですが、
どちら一方が悪と言うわけではなくて、どちらも納得できる部分があるんですよね。
そこがまた面白い。

よく他作品で上記の問題については触れられることがあるのは今までよく経験しました。
ただ、今作の凄いところはその作者の熱量。
それら全部を一つ一つ丁寧に問題提起しながら、
関係性を浮き彫りにして解説しながら、過去までの論点を整理しながら
じゃああなたはどう考える?と考えさせられる面白さがあるんですよね。
ただ一つだけじゃなくて、多角的に見方を考えさせられる面白さ。
それが故にどうしても冗長性は否めませんが、それだけに出される最後の結論は
この圧倒的熱意さがあってこそだと思います。



実際じゃあロボットと人間は共存できるのか?
と考えた場合、本当にどちらの考え方もわかるんですよね。
ロボットを潜在的に恐れる怖さのキョウもわかる。
便利になりすぎたロボット達が将来ずっと安全でいられるのかという保証なんて何もない。
だから、安全であるというロボットには『絶対に人を殺さない』という枷が必要なのは、
『ロボットは人を殺さない保証がない』という裏返しでもあって。

けれどそれは人間も同じであって。
けれどそれは同時に心を持ったもはや人間と違いがないとしか見えない存在である彼らにも生きる自由があっていいのだと、同時に手を取り合える未来があればいいなって。
それは作中の様々な日常シーンで思います。
これはロボットを『どのような見方』をするのか という話なのだと思います。
同時に彼らの日常を見ていて、あぁどうか手を取り合って未来に繋がっていけばいいなと
素直に思わせてくれる終わり方でした。

作中で繰り広げられた一つ一つの問答は、読み手である私自身にも考えさせる内容でとても面白かったです。こうした題材って考えるだけでもう楽しんですよね。

問答を終結した内容でもある、最後のシーン。
ヒューマノイドであるハルトの言葉と
人間であるアマネの言葉を
手を取り合った象徴でもある二人の言葉を備忘録として残します。

※重大なネタバレを含みます。未プレイ者はご注意ください。






〇ハルトの共振の言葉
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いきなりごめんなさい。
僕の名前は、ハルトといいます。
ライラック構想で創り出された、みなさんと同じHタイプです。
僕は今、フリックの上にいます。
フリックの力をちょっとだけ借りて、みなさんに話しかけています。
少しだけ、僕に時間を下さい。お話、したいんです。
───僕のおとうさんは、人間です。
───僕のおかあさんは、ロボットです。
僕は、人間とロボットから生まれました。
でも、僕が生まれた時、人間とロボットはいがみ合っていました。
今だってそうです。
僕もこれまで──たくさん、たくさん見てきました。
ロボットは複雑です。
Hタイプは人間ではないし。Iタイプは道具ではない。
こわいかもしれない。
僕を憎んで、壊そうとする人もいました。

どちらが正しいか、という話をしたいんじゃありません。
そういうので答えを出してはいけない気がするんです。
皆、それぞれに自分の答えや考えを持っていて。
それがぶつかり合う。そんなものを、みてきました。
でも─────もう止めませんか?
人間に今、僕の言葉は届いていないと思うけど。喧嘩はもう、止めませんか?
前みたいに、仲直りできませんか?
僕は、できると思います。
人間はとてもやさしいんです。
『こころ』の意味を教えてくれました。
それに人間は……人間はとてもうつくしいんです。
『なみだ』を、流すことができるんです。
──人間はとてもよわいんだと思います。だから、僕たちをこわがるのもわかります。

でも、信じて下さい。人間も、ロボットも。
信じあえるはずです。支えあえるはずです。
僕は──信じています。
ハルカが教えてくれたことを。
ガイアが見せてくれたことを。
リナリアが伝えてくれたことを。
アマネが──つなげてくれたものを。

ごめんなさい……上手くまとまりません。
人間とロボットはどうあるべきなのか。彼らはどうしたいのか。
僕らはどうすべきなのか。
僕の『こたえ』は、正直、『わかりません』。
僕があれこれ言っても──たぶん世界は変わらないと思う。
神様も何も教えてくれません。
だから、変えるのはやっぱり、人間とロボットなんだと思います。
一緒に考えませんか?手を取り合っていきませんか?
考えや言葉を。形にして。
それで相手を傷つけるんじゃなくて、一緒に答えを出していきませんか?
僕はできると思います。今はひょっとすると、奇跡みたいな事かも知れないけど。
僕は、その奇跡の中で生まれたから。

最後に一つ──話しておきたいことと言えば。
僕には、好きな人がいます。
僕もアマネといっしょにいたい。
だからこの世界には。人間とロボットが、手をつなげるようになってほしいと。
それだけを──今はそれだけを望みます。
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〇アマネ 入学式 登壇スピーチ
────────────────────────────────────────
──わたしは、ずっと一人ぼっちでした。
生まれてから、おじいちゃんと二人で暮らしていました。外に出たことも無くて、ずっと本やコンピュータとにらめっこ。それが何年も何年も続きました。何でわたしがここにいるんだろう、ってずっと思っていました。
生活に不自由はありませんでした。大抵のものはジェシエスの中にあったからです。わたしはいろんなものを与えられて、その生活にある程度満足していたんだと思います。けれど、何か足りなかった。

それは、つながりでした。かぞくも、しんせきも、ともだちも……わたしは、そういった人とのつながりが欲しかった。
でも、ある事件をきっかけに、わたしはたくさんのつながりを持てました。
いつもいじわるばかりするけど、根っこは優しいお姉ちゃんみたいな人。
いつも陽気で馬鹿ばかりするけど、わたしよりもずっとずっと強い心を持っているIタイプのロボット。
それに、たくさんの苦労しながら、わたしたちをずっと支え続けてきてくれたヒューマノイド。
まだまだたーくさん、つながっています。
おかあさんも、できました。

大切なひともいます。

……今、わたしたちの世界はいろいろ大変です。
人間とロボットはこの先どうなっていくか、わたしにはまだわかりません。
……けれど、こういったつながりが大切なんじゃないかなって思うんです。
だから、みなさんと仲良くしたいです。よろしくおねがいしますっ!

(拍手後)
ありがとう──ありがとうっ。センキューみんな!愛してるぜっ!
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素直に面白かったです。
ありがとうございました。