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meroronさんのカガミハラ/ジャスティスの長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
カガミハラ/ジャスティス
ブランド
フラガリア
得点
89
参照数
2271

一言コメント

プレイ時間はおよそ40時間以上にもわたる超大作。ここまで長いシナリオ必要だったのかよ!!! と思わなくもないが、決して退屈ではないシナリオ構成となっており、長編相応のキャラ描写に富んだ群像劇に仕上がっている。 最初は「ヒーロー(笑)」と思うかもしれないが、この作品は本当にキャラクターが良い。 最後には立ち絵のあるみんなだけではなく、立ち絵ない人も好きになっちゃうじゃないのこんなの。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


まず、大前提としてですが僕がここまでこの作品を絶賛するのはイラストのむじさんの力がものすごく大きいと思います。
めちゃくちゃ好きな絵柄でして、ビジュアルから入るフィルターが良い方向に大分働いています。

だから、キャラクターがすぐ好きになれる。
メインヒロインの八月一日宮遥なんかは一目見ただけで惹かれたし、あの超序盤の清楚系にはまんまとやられました。
それくらい氏の絵は僕に多大なる影響を与えてくれました。本当にありがとう!!!




さて、それでは内容の感想でも書こうと思うが何分長すぎるので一つ一つエピソード順に書いていこう。


●第1部

最初はついていけないことだらけです。
なんか人間離れした強さのヒーローが出て来るわ、飛び級ある学校だわ、学生運動盛んな高校だわ、しまいにはジャスティスバスターってなんなん?
このままうすら寒いコメディ調で進むのかな……と思いきや、木ノ下会長の登場でそれは一変。

今後何度も書きますけどこの作品は木ノ下会長の人徳あって初めて面白さが成立すると心底思います。
彼の台詞は、ひとつひとつ賢さが見える。
ロリコンを自称している変態キャラのようなキャラ付けをしていますが、正直そんな面より彼の理知的な言動の数々に惹かれます。

賢くて策士。けれども真正面から向き合う真摯さも持ち合わせている。
彼の活躍は第2部での方が多いですが、1部の時点で大分カッコイイ男だと思いました。

肝心の展開はというと、第3者の介入という構造は早い段階で見え見えなので大きな緊張感はなかったかもしれない。
死亡したのは周大翔というこの時はまだ過去の人だけで、身近さはなかったから。

ただ、冒頭でも書いた通りそんな細かいことは抜きにして僕が序章から惹きこまれてしまったのはやっぱり八月一日宮遥ちゃんの存在なんですよ。
もーーーーね、まんまとあの清楚系に騙されました。
最初はあの見た目といい子っぷりにキュンときたんだけど、そのあとの関西弁喋り出してからの残念っぷり!!!! 最高かーーーー!!!
なにより、あの姿を村上にしか見せてないっていうシチュエーション(実際は違うのだが)に萌えざるをえないじゃないっすか……。



●第1部 2

なぜかいきなりループが始まっており「???」となるのだが、まぁそういったものだと受け入れるしかない……一本道とは……。
と、不安から始まるスタートだが本作の構成で一番巧いのは「前章で一番謎だった部分を次章ですぐ種明かしする」ことに尽きるだろう。

ものすごく長すぎて飽きてしまうんじゃないかと思うぐらい長すぎるのだが、それこそ超大作「カガミハラ/ジャスティス」が飽きずに読める最大の理由ではないかと思う。

前章とは変わって、第5寮の関係性が深く描写されている。
ただの友達であると思われた彼女たちが、実は深い所で繋がっており怖い所もあるが目的のために団結している姿はなんか羨ましい。

やっぱりこの章で最も盛り上がるのは常葉が遥を助けに来るシーンでしょうね。

そして村上もただものではない雰囲気を出し始め、遥と会長を無事鉢合わせる有能っぷりはかっこよい……。



●第2部 Side Kotoha

さて、何を隠そう僕は1部の次点ではまだカガミハラを面白いとは思うものの、めっちゃハマるまではいってませんでした。
それが覆されることになったのがこのSide Kotoha。
恐ろしい。何が恐ろしいって、ループするサスペンスものかと思ってたのにラブコメなんです!!!ラブコメ!!!

そして、このラブコメのなんと秀逸なことか!!! 木ノ下会長が魅力的なもんで、どんどん受け入れられる! ふたりの女子に惚れられるのが頷ける!!!
あんだけ他人の恋愛には興味津々な常葉が自分のことになるとこの戸惑いっぷりよ……。木ノ下会長もなんの悪気もなく堂々とかっこいいこと言うもんだから僕までときめいてしまうじゃないか……。
このふたりが惹かれる過程、距離を縮める成り行き……どれも好き……駄目……このラブコメ好きすぎるしもうラブコメでいいじゃん……。

けれども会長にはもう一人いる。堅物と思わせながら実はユニークな面が多々ある旭風紀委員長だ。
この人も良い人なんだよなぁ……。自分の感情押し殺して、会長に尽くす忠犬っぷりを発揮し、常葉に並ぶ武闘派。
押し殺すのに慣れすぎて最初は常葉に譲ってしまうけど、抑えきれない想いを抱えて生徒会室で迫ってしまう旭さん乙女すぎんよ……。

でもそこで迂闊にOKださずにちゃんと断る木ノ下会長! 君は偉い!!! 無自覚な天然タラシだけどそういうところしっかりしてるのは本当にカッコイイよ。

既に「あれ、この作品のジャンルなんだっけ?」と思うものの、「もうこのままずっとこの路線でいいよ」と思ってしまうほどに3者の恋愛模様にドキドキさせられた。

だからだよ。だから急に常葉が無実の罪で連行されそうな展開になったときは 「は!?!?!?」 とブチギレましたね。
旭さん好きだけど、それでもむず痒すぎる恋愛をする常葉と木ノ下会長の組み合わせ大好きだからこの展開にはつい中指立てそうになっちゃったね。

なんかもうこの時点で僕は作品に取り込まれすぎちゃってたね。完全に手遅れだった。
みんなから非難される常葉可哀想すぎて、それを庇って奔走する木ノ下会長にまた惚れ直しちゃうワケだ。

もう分かってるんですよ。「頼む……頼むから助かってくれ……!!!!」と祈りながらクリックするノベルゲーマーはもう冷静な判断ができない。
ちょっと無理矢理な展開でも、ああやって村上や遥が助けにくる展開来ちゃうとカタルシス感じて「よっしゃあああああああああ!!!!!」ってガッツポーズしたくなるワケだ。

冷静な感想書けないのでそろそろ終わりにしますが、このSide Kotohaは前半のラブコメが面白いからこそ、後半の絶望感が際立っている。
完全にしてやられた気持ちです。1部とは比べ物にならないくらいキャラに入れ込んでたし、その分絶望と緊迫感が凄かった。

そして解決したと思いきや、なにやら常葉が不穏な動きをして……え、お前待てよ……そのファンタジー全開の女だれよ、どういうこt(ry



●第2部 Side Akane

謎を残したまま過去編が始まるSide Akane。
Side Akaneといいつつも、実質の主人公とヒロインは大翔と椿だったのではなかろうか。

それまで過去の人であまり気にしなかった周大翔。
最初はちょっといけ好かない優男のようだったけど……僕はここのライターさんと相性がいいのかいつの間にか彼のこともだんだん好きになってしまうのです。

このSideは大きな謎の一つである、周大翔がいたころの物語が描かれていきます。

僕も最初は木ノ下会長で 「政治など知らん」 の精神だったのですが、
この当時の情勢を知ってくるとだんたんとそうも言ってられなかったんだな……という気持ちにさせられます。

周の運動の動機は「徴兵が嫌だから」です。
我が身可愛さですが、僕はその自分本位な動機が好きです。自分本位だからこそ、彼に共感できるものがある。

身の振り方も凄く賢くて、やっぱ普段はのほほんとしておいていざってときにやる男はねぇ、かっこいいんですよ。

加えて、彼らの学生運動は暴力的ではなく、まるで青春のように横断幕作ったりしてみんなでいろいろやったりして……青春だなぁ……。
進学校ならではの空気ってのもどことなく感じられたりして、僕も高校生で彼と同じ学校だったら彼の熱に当てられて賛同していたかもしれない。

そうやって周大翔のカリスマ性も感じられるあたり、キャラ描写がほんと上手いなぁと。

彼らが学友会の活動をしているのを見るのだけでも楽しくて、青春の物語としても成立してい……たんですけど!?
脅迫状が来て、それは一変する。

これ普通にゾクっとしました。 こんな急に来られたら誰でもビビりますし、周が思い詰めてしまうのも無理はない。
脅迫状って、出されたら終わりであることが良く分かります。出すだけで、凶器です。

そしておとなしく学友会を畳もうとする周。それに反対する遥。黒幕に届かない真意。
なにもかもが上手くいかなくて、でも立てこもりでみんな一致団結し始めて上手くいくと思いきや………。

唐 突 な 葬 式

ウワアアアアアアアアアアアア分かってたのにこんな辛いなんてええええええええええ!!!

極めつけはその後の椿の表情と行動ですよ。
あの年で未亡人状態って辛すぎるやん。でも、でもね……ごめんね、僕は君のような境遇の子、大好きなんだ……。

なんとしてでも黒幕を探そうとする椿を応援したいけど、それを止めようとする木ノ下会長も応援したい……。
このどちらも応援したくなるような構図にまんまとハマってしまった僕はもうておくr(ry



●第2部 Side Noa

またループですか……と思うのだが流石に「違和感」は確信に変わる。
これって前章のキャラがどんどんいなくなるのか……と。

Side Kotohaが好きだった自分は、常葉と会長のあのイチャらぶがなきものにされたのがショックでしょうがなかった。

そんな今回の話の中核は、黒幕の正体とその動機です。

もっと大きな陰謀にまつわる物語かと思いきや、意外と規模の小さい話でした。
正直なところ恩師の先生が殺されたのはたしかにショックだろうけどそれで子供を痛めつけるのは違うでしょうと思うし、
ちょっとシロサキさんに感情移入はしにくいかな……という感想です。

しかし、そんなミクロな世界で終わるかと思いきや、「あれ、でもSide Kotohaで常葉が誘拐されるのはなんか違くね……?」と思った矢先に、上野駅のテロが発生する。
不謹慎ながら、この作者のレールに乗っかってしまっていた自分に気付いた時は痺れました。

完全に掌で踊らされてんじゃねぇか自分!

そしてこうも思うのです。「あ、これもう他人事じゃない」と。
ああいったテロって、起こそうと思えば起こせてしまうし、身近に潜む恐怖に違いないです。
東京オリンピックが控えることもあって、決してのんきに見ていられる絵空事ではないなと思いました。

「上野駅」と「新宿駅」

自分が良く使う二つの駅が、混乱させられている描写見るとゾっとします。
シロサキを捕まえただけでは終わりじゃない。
この物語は、ミクロな世界で終わらない。

そうして僕は、半ば強制的に遥たちと一緒にこの問題に対してどうすればいいのかを考えさせられてしまうのだ。



●第2部 Side Haruka

最も絶望的なエピソードの始まりです。
村上と遥は一体なにをしていたのか。

突然ですが、僕は陰謀論が大好きです。
妄想化学シリーズやシンクライアント、幻想魔境奇譚や悪の教科書などなど……陰謀論が関わる作品でいつもワクワクしてきた人間です。

そんな自分がこんな話出されて、好きにならないわけないでしょう。

いや、結果的には村上たちの勘違いで終わったのですが陰謀論的な錯覚をさせられてまた作者のレールの上に僕は(ry



●第3部

全体的に大人がカッコイイ最終エピソード。
服部さんと斎藤さんは立ち絵つけるべきだったと思うんだ心底……めっちゃキャラ立ってるじゃん……。

何より、ビルが破壊された後の緊迫感のある展開がたまらないよね。
あそこからの服部さんと斎藤さんの頼もしさったらありゃしない。
やっぱ仕事できる男ってのはカッコイイもんよ。この作品カッコイイ男多すぎじゃない?

前半はとにかく読んでいて面白かった。常にハラハラしながらもそれを打開してゆくキャラクターたちの動きに痺れた。

後半に関しては、総括でまとめて書きます。

ただ、実はちょっと不満あったりして、君らそんだけ署名集められるならシガツさん助けてあげろよ!w



●総括

この物語が何を言いたかったのか。
現実は甘くない? そうだと思う。 話し合いだけで解決する? 解決しないかもしれない。
枢軸国が素直に応じるか? 応じないかもしれない。 
本当に戦争を金に換えようとする連中がいないと思うか? いるかもしれない。

けれども、僕はこの作品が伝えたいのは、大事だと伝えているのはそういうことじゃないと思う。

あんなに苦労して5百万という署名を集めても、行われるのはたった2時間という時間。
「世界を平和にして」「戦争を無くして」
そんな荒唐無稽な願いではなく、「話し合い」というシンプルな、たった一度の話し合いに使われる願い。

僕はこの決して現実離れしていないようなことに「願い」が用いられることがとても尊いと思う。

きっとそれ以上のことを求めようとすると署名の数は5百万じゃ足りないだろうし、支払う代償は10分じゃ済まない。
話し合いは一度だけで、今後同じようなことがきっと起きるかもしれない。

そうなんだよ! そんなことは分かってるんだよ!
だから、その時はまた署名を集めて、彼らは決死の思いで戦わなくちゃいけないんだと思う。
きっとこれは繰り返される運動なんだと思うし、世界平和が実現した結末とも思わない。

でも無駄ではないのだ。彼らの行動は、間違いなくその「一度」の戦争を回避させたのだから。
その時の悲劇は、その時の人たちが回避しようと頑張るしかない。それはいつの時代だって同じこと。

僕は、この作品が最も伝えたかったのはそこだと思う。
たった一回。そのために一部の人間が死ぬ思いをしながら署名を集める。
ずっと続かない願い。けれどもその一回を勝ち取るために彼らは戦った。

救えるのは日本とアラックだけ。いいじゃない。周も言ってたけど、我が身可愛さだもん。
自分たちに危険が迫って人は初めて動くし、自分に関係があるからこそどうにかしようとする。
それを何度も何度も繰り返して、絶え間なく動き続ける人類こそが、本当の平和を掴めるんじゃないだろうか。

一瞬であろうとその安息を掴み取ろうとする彼らが、僕は眩しく思うし尊くてしょうがない。
綺麗ごとだけでは片づけられないかもしれないけど、少なくともこれを読んだ僕は胸打たれたよ。

僕は活動家にならないし、今は政治を調べるなんていう時間もないけど、彼らのような人間に出合ったら協力したい。
八月一日宮遥たちには確かに黄金の精神が宿っていたんだと、そう思う。