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meroronさんの西暦2236年の長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
西暦2236年
ブランド
Chloro
得点
90
参照数
2144

一言コメント

ただひたすらに、主人公<自身>の心を解剖する。人によっては劇薬としか成りえない心情描写をVer1.00で入れてきましたね。OP曲・映像のクオリティもさることながら、多彩な演出と知識を用いた本作は自分の心を鷲掴みにしてきた。音カットは厳禁。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

解釈することに飢えている人たちへおすすめしたいエロゲー(※エロあります)。

何系なのか、どれくらいの長さなのか、というのも本作ではネタバレになりそうな気がするのでとりあえずOP映像を見て気に入れば買ってみればいいんじゃないかなって思います。
ただ、本作ではどうしても先へ進めない……となる可能性の部分が一箇所ありました。
しかしそこで終わり、というわけではないので自分で意味を理解して攻略したほうが感動は大きいでしょう。

それでも、どうしても先へ進めないという人に向けて下にその攻略を書こうと思います。
(完全なネタバレです)

















~PHASE13 のループ現象~
端的に言ってしまえばこの選択肢は 『今』 を指定するためのものです。
例えば、下の選択肢を4回選ぶと15という数字がでてタイトル画面に戻り、上の選択肢を4回選ぶと0という数字が出て一番最初のPHASEに戻ってしまいます。
そう、上の選択肢が0で、下の選択肢が1を示す2進数の選択肢だったのです。
(0は"0000"、15は"1111")
つまり、次のPHASEに進むための4桁の数字を2進数で入力すれば良いのです。
作中に2進数の話はあり、時間の流れに関する話もあったので気づくヒントはありましたが……不覚ながら一度自分はここで躓きました。

そもそも本作がver0.99であることと、ライターさんがエヴァ好きという情報があることから 『もしかするとこのループで終わりな可能性もあるのか……?』 と思ってしまいました……w
あとは、購入したパッケージが微妙に違うという情報もあったため、ディスクの内容が違う可能性も考えてしまいました。
冷静に考えたらそんなことないんですけれども某商業エロゲのせいかそういったメタ的な仕掛けを施すところがあってもおかしくないなという疑心が。


それでは気を取り取り直して内容の感想を↓







MYTH、CROSS✝CHANNEL、J.Q.V……ここらへんが好きな人はハマる可能性が高い……かもしれない。
とにかくいろいろな要素が入り交じっているんですよね。
SF、学問、ロボット倫理、想定科学、フェチズム、深層心理etc.....

表面的な、おおまかなことは理解できた気もするが詳細までは理解できていない。
けれども今まで自分がプレイした、いわゆるセカイ系の中でも、2236は読みやすく分かりやすく台詞が好きだった。
それだけではなく絵も演出も、自分の心を囚えてやまない。

ヒメ先輩の妖艶な微笑み、ハル・シオンの儚さを感じさせながらもいじらしい笑顔。
情報は少ないがこの「ヨウ」という絵師さんは特定の人を強烈に惹きつけるものを持っていると思った。
※後々聞いたところ、一部CGとキャラクターデザインがヨウさんで、他は「あおむし」さんともう一方が担当しているらしい?


演出も驚かされるばかりだった。 上の攻略で書いた選択肢もさることながら、拡大し続ける抽象画とかスピード感をあげるための漫画演出とか。
ここまで幅広い表現を見て、とてもワクワクした。
結構ゾクッとするシーンもあったりでハラハラもあり、先へ読み進めたいと思わせる引きのうまさも見事。

シナリオの方は……主人公は確かに器が小さいやつだけど心当たりあるような心情描写もあったりとして結構読ませるシナリオだなと思います。
最終局面のとあるシーンなんかは完全にエヴァのオマージュを思わせましたが、個人的にはエヴァよりも入り込めた。
ロボットで悩むシンジくんよりも、ピアノのことで悩むヨツバくんの方が身近に感じられたからなのかもしれない。
「興味ない」 のところとか全く持ってそのとおりだと思うし、人の心をよく描写できているなと思いました。

心理宇宙という設定も没頭する後押しになっているのかもしれません。
とはいえ、本作はいろいろな設定が混じっていて自分は解釈しきれていません。
けれども、「この世界は思いのほかいい加減だったらしい」という台詞が自分に一番あってる締め方なのかなと思いました。
本当の世界がどれなのかは定かではない、ヨツバは最終的に別のアスペクトの宇宙にいったのかもしれないし、あの世界が心理宇宙というものに過ぎなかったのかもしれないし、ただの夢オチだったのかもしれない。

複雑な構成をなしていながらも自分のようなエンターテイメント重視人間に対して「いい加減」という回答も用意してくれたのですっきりとした読後感で終わることができた。(意図していたのかは分からないが)

細かい解釈は他のエロゲーマーさんたちにお任せ……。



~追記 Ver1.00を終えて~
追加されるのはヒメ先輩のエンドだけかとおもったが、なんだこれは。

3つ目のエンドの印象が強すぎて最初は言葉が出なかった。
最初の、ハル・シオンとのハッピーエンドをぶち壊しにするかのような、最低の結末。

けれども、自分はこの結末を受け入れるしかないように思えた。
とても感情的な文章が並ぶ。痛い痛いと悲鳴を上げる文章がノベルゲームの枠を引き裂かんばかりに暴れている。

とてもSF的な用語が飛び交い、抽象的な演出が次々と出てくるが……最終的にぶつけてきたものは心だった。

なんで好きなの?
なんで苦しいの?
なんで付き合ったの?
なんでハルを選んだの?

考えたくない、考えなくてもいい理由を、原因を、心を、執拗に問いただす。
それは考えなければ幸せなままで、けれども考えなくては真実に辿り付かない。

恋に恋した少年少女が迎える悲惨な末路は変えようがない。
恋愛と好きは違う。 恋愛をしたらいけない。 それは知ってはいけない毒りんご。

果たしてこれを完全に否定できることができようか。
好きなのは自分が好きなその子であって、自分を見てくれるあの子でしかない。

彼女を本当に見ていたのかという問いが、あまりにも重すぎる。




~さらに追記 他のプレイ者と話していて~

ーハル・シオンのキャラクター構成ー

なんだかんだでプレイ者がじわじわと増えてきている2236ですが(エロスケでは全然ですけど……)、その人らに『好きなキャラクターは?』『好きなヒロインは?』と聞くと驚くほどに、ハル・シオンが好きだという人がいません。

かくいう自分も、見た目や第一印象のとっつきやすさで好感を持つものの、最終的には彼女のことが全く好きになれない。
これって恋愛作品としてはあるまじきことだし、人によっては地雷レベルの事態でしょう。

けれどもハルの魅力って、霧散するんです。
もっと魅力があった方が最後の切なさが増すのではないか、
もっと彼女のことを描写して彼女のことを理解しようとすれば愛おしさが増すのではないか、
という話も聞きました。確かに、と。

けれども自分は、この2236にとってハルシオンの魅力なさこそ必要なのではないかと思う理由がありました。
それは、それまで共感できないにしてもヨツバくんの最後の選択が理解できるようになるからです。

あの選択は、ハルシオンに対して愛情を持っていては駄目なのです。
あの時点で、彼女に対して諦めを持っていなければ駄目のです。

なにをしてもうまくいかない。
相性は最悪だ。
どう転んでも破滅する。

そしてなにより、彼女 に 愛情 を 持てない。
こんなヒロイン、選び たくない。
最初の気持ちは、恋に 恋した だけだった。


これが恣意的か、偶然なのかは分かりません。
けれども、自分はあの瞬間だけは、完全にヨツバくんとひとつになれたし彼の選択が間違ったものではないとも強く思った。
ハル・シオンをあえて深く描かなかったからこそ、ヨツバくんと同じぐらいの彼女しか見てこなかったからこその、シンクロなのである。