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madmadnightさんのギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~の長文感想

ユーザー
madmadnight
ゲーム
ギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~
ブランド
WHITESOFT
得点
73
参照数
427

一言コメント

ギャング部全員での論戦が素晴らしい。後半は難解で理解が及ばない部分も結構ありました......

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

賛否両論激しいギャングスタ・アルカディア。CGや文章量などのコスパを考えると確かに糞ですし、原画の崩れも酷いですし、散々公式で煽っておいてコレは半ば詐欺に近いですwそんなこの作品でも光る所はありまして、それが論戦システムです。エロゲにおいてヒロイン全員が互いの心の内を曝け出して裸で殴りあうことってなかなか無いと思います。ヒロインvs主人公、ヒロインvsヒロイン、1人のヒロインが暴走してそれを皆が止める、みたいな状況がほとんど。全員がフラットな状態での意見のぶつけ合いというのなかなか無いです。今作品はシナリオに組み込んできました。それを可能にしたのがこの論戦システムで、コミュニティを追求していくこのゲームに相応しいギミックだったと感じました。議論を通してキャラクターの人格がガンガン掘り下げられていくのは読んでてい気持ちが良かったです。
でも個人的にピークだったのは論戦までで、後半は徐々に哲学的な話になってきて正直取っ付きづらかったです。もはやキャラクターの口を通して論文を読まされているかのような感覚。

もう一つ評価すべきはBGMですね。このブランドは猫撫もそうですが、ピアノやバイオリンが利いたクラシカルな曲が多く、一曲一曲気合が入っています。今作のBGMも軽快でノリの良いものが多く、特にキャラクターのイメージBGMなどは、どれもクラシカルな良曲ばかりです。サウンドトラックはリパブリカの時にイベントで並んでまで入手しましたねw「Villains time」は今までプレイしてきたエロゲの中でも5指に入るくらいの良BGM。



最後に主人公たちが選択した「人格のない社会」というのを理解できた範囲で書きます。
「──かくて災厄を生きる」で主人公が思う『シャールカ先輩はは~と感じ”させる”女の子だ』これは自らの主体性が相手の中に存在するということを言いたいのだと思います。選択することを辞めた人類は自分の行動を決定するのに他人、もっと言えば世界からの介入を必要とするのでしょう。お互いがお互いの意思決定に介入する相補的な世界。恐らくこれは、1人では何も出来ない代わりに、とても広がりのある平和な世界なんじゃないかと。これをディストピアと捉えるかアルカディアと捉えるかは住む世界によって別れると思います。願わくば作品内のキャラクター達にとってのアルカディアであってほしいです。


追記
本作の世界観を面白いと感じた人は、ぜひ伊藤計劃先生の「ハーモニー」を読んでみてください。他人に優しすぎる微温的な社会。そして人類の恒久的な繁栄のために人格を捨てるという選択など、本作に通じる所のある小説です。