『爛れた鬱グロ青春サスペンス奇譚』 エロゲーでしか描けないものがある。鬱を感じるほどのグロテスクな闇、テーマ性。子供には見せられない、真に大人のための作品。なお、「沙耶の唄」をも超える鬱グロ表現があるので、心臓の弱い方はくれぐれもご注意ください。
――あいつを殺してやりたい、と思ったこと、ありますか?
こんなにも爛れた“今時の”世界で。
それでも“ピュアな”ものって、あるのかな?――
原画の天原氏は黒髪美少女を描かせたら天下一品ですね!
「紅殻町博物誌」でもそうですが、色っぽい艶があります。
昨今隆盛を極める萌え絵にも食傷気味という向きにとっては貴重な画風と言えましょう。
シナリオの睦月氏は個人的ナンバーワン妹ゲー「ぼーん・ふりーくす!」で知られ、
遊び人風の主人公をどう描くのかに注目でしたが、意外に主人公は純情な性格でまずは一安心でした。
主人公のルックスで敬遠している方は、その点は心配せずともよろしいでしょう。
特筆すべきは、文章の読みやすさ。
『縦書きでもすらすらと読めてしまう。』
フォントも適切で読みやすい。
この点、「霞外籠逗留記」などのレイル作品が“活字愛好家向け”であり敷居が高いのに比べ、より多くの人に受け入れられるだろうと思います。
猥雑ないしは凄惨な情景を描いている時であっても、誠実さを感じさせる文章です。
個人的には、睦月氏にはハートフルな作品の方が似合いそうな気がいたします。
願わくは、「ぼーん・ふりーくす!」をも超える至高の妹ゲーをぜひ目指していただきたいッ!(爆)
私の知る限り、セルほどのイカしたお兄ちゃんは他に類を見ませんからね。
(いやでも、ここまで社会の闇と正面から向き合える作家も稀でしょうから、そちらも捨てがたいとは思いますが……)
ちなみに、同人サークルの禁飼育さんの作品が好きな方には、ぜひともお勧めできます。
というよりも、まさか商業作品でこのようなテーマの作品があったということ自体が、途轍もない奇貨でありましょう。
改めて、ライアーソフト、おそるべし……!
※以下、ネタバレを含みます。
※必ずプレイしてから読んでください。
※以下、ネタバレを含みます。
※必ずプレイしてから読んでください。
ラノベ探偵に爆笑。
折角のスリリングな展開が台無しです。でも、そこが面白い。
殺人事件の合間にもギャグを入れることを忘れないサービス精神には流石というほかありませんね。
(おそらく読者の極度の緊張を和らげるための心遣いの意味があるのでしょう。流石です。)
――世界は、闇に満ちている。
いじめ、暴力、失業、買春、レイプ、自殺、殺人、戦争……。
この社会に巣食う闇の標的とされ餌食になった時、
餌食とされた人は否応なく深い闇を抱え込まされる。
幸運にも幸せな人生を歩んでいる人々、
世界は希望に満ちていると信じて疑わない人々にとっては、考えたくもないことだろう。
――臭い物には蓋をしろ――。
見たくない闇を徹底的に隅へと掃き固め、残った綺麗な部分だけを見て安心しようとする。
まるで、初めから闇などなかったことであるかのようにして。
そうしてこの社会は成り立っている。
人間なんて傲慢でいいんだと諦めきっている人、
他者を平気で踏み潰す人々は一生、見向きもしないだろう。
社会の闇の餌食となった人が、どれほどの絶望と理不尽とを味わい、どれほどの闇を抱え込まされるのかを。
一生、癒えることのない傷痕を抱えて――。
……戦場で、極度の緊張状態を体験した兵士たちは帰国してもすぐには日常生活へ溶け込めなくなる、という話があります。
まして、それまで普通の生活を送っていた少年が、突然、殺し合いの渦中に放り込まれたら、精神がおかしくなっても当然でしょう。
一般にも浸透してきていますが、医学用語で言う所の……PTSD。
それは……大災害でも起こり得ることだと思います。
(やはり、今、この作品と出会えたことは偶然じゃなかったですね。)
さて、今夏には、睦月たたら氏の新作「オイランルージュ」が予定されているようで、非常に楽しみにしています。
製作陣に敬意を表したい。