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j7jhonさんの流れ落ちる調べに乗せての長文感想

ユーザー
j7jhon
ゲーム
流れ落ちる調べに乗せて
ブランド
影法師
得点
90
参照数
34

一言コメント

時代劇+異能物

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

後作と同じく起伏のつけ方が見事。
設定も凝っていて破綻もなく、それでいて途中が意味不明になることもない。
読み進めていて所々疑問に感じた点は、概ね解答が用意されているのも好印象だった。
輝一は途中でフェードアウトしたんじゃないかと心配したが、そんなことはなかった。

テンプレなギャルゲーに倦んでいたのもあって、基本的には楽しめたが、(特に後作と比べて)気になった点もそれなりにある。
全体通しての流れは平板というか、章立てされていて、主人公もそれぞれ設定されているものの、どれも同じような読後感に。
物語の細部やテーマは違うもののその見せ方が同じであること、同じ出来事を別視点で見せられていることによるのかもしれない。
前者はわかりやすい。序盤で登場人物の交流を描き、問題が発生し、敵が登場し、殺陣を経て、一応の解決を見るという形が細部を変えて何度も繰り返される。
後者も明らかだと思う。「あの場面でこの人物の心の動きはそうだったのか」という驚きはあれど、それはあくまでも細部での話。

物語上の目的は序盤で明らかにされ、中だるみもしないのに、読み終わるころには疲労感もあった。
物語の起伏が多すぎるのだと思う。一章一幕で一山、二幕で一山、……というだけで、単純計算でも16個の山がある。
それに加えて終章や零章もあるわけで、一気に読むとこちらのスタミナが切れる。
のんびり読み進めるスタイルが良いかもしれない。

悪役のキャラクターが若干立っていないように思った。
蘇芳は頭一つ抜けて重要な人物だったが、竹林と夜行は似たり寄ったりに思えてしまった。
物語上の役割も同じだし。

チャンバラのシーンが「やったか?」を繰り返すので、終章にたどり着くころには食傷気味だった。
その終章では、チャンバラシーンも回想シーンもあっさり目なので、スタミナが尽きる前にテンポよく読めた。

システム的な話をすると、テキスト周りは最低限は整っている。
商業には及ばないものの、不便を感じることはなかった。

演出においては、一枚絵やフェイスウィンドウの使い方が見事だった。
同人で割り当てられるリソースが少ない中、あれだけの演出効果を出せているのは驚き。
シナリオのどこでどのような演出が必要なのか、よく練られていると思った。

こうしてみると本作でも光る部分は確かにあって、多少の粗もあるけれども、
後作でさらにブラッシュアップしたのだと、すごく感心した。