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imotaさんの西暦2236年の長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
西暦2236年
ブランド
Chloro
得点
80
参照数
1393

一言コメント

来年の話をすると鬼が笑うらしいが、221年後の話をしてヒメ先輩に笑われるのなら本望でありむしろ切ってくださいっ! …隣のマスコの視線が冷たいけど、テレパシーがあろうと人間の本質はそう簡単に変わらなくて、きっと未来の僕たちも同じように青春して懊悩しているはずさ!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作について語る前に、現状がver0.99であることを伝えておこう。
本ストーリーは完結しているが、いくつかのCG塗り抜けやアナザーエンド未実装な状態というわけだ。
しかし、現状でも本作の熱いパトスは十分に伝わると思う。

あと前作『西暦2236年の秘書』は、本作を補完する物語である。
しかし、携帯アプリのマスコさんかわいい!かわいい!な作品なので、未読でも本作は分かると思う。
読んでおくと人工知能への理解と、マスコさんへの愛が深まるからおすすめはしますが。

さて、「わたしをフカンするノベルゲーム」と銘打たれた本作だが、
私にとっては「ヒメ先輩が魅力的すぎてメインヒロインが誰か自信なくなってきたよ助けてマスコえもん!」だった。
うむ、実にひどい要約だ。

本作の鍵となる物語は、ヒメ先輩と出会う前、見た目そっくりな二人の少女と出会う、厨ニ時代。
この頃の主人公ヨツバくんの自己弁護っぷりはとても痛々しく、実に思春期らしい。
痛々しさにブーストをかけるべく、高性能な押しかけ友人男子を配置するのも、実にいやらしい采配だ。

本来は、ヒロインであるハル・シオンとの交流に同調して、ときめきメモリアルすべきなのだが、
自尊心を守ろうとして自爆するヨツバくんに老婆心が湧き上がり、同じく心配するマスコも不憫な扱いで二度泣ける。
不自由なハルの為にネットならぬ水路を引いたら、即水路中毒になって相手にされぬ主人公って……ううっ
まあヨツバも役得というにはアレなことをしてたから、おあいこですね!(マスコの笑顔

それに比べると、枯れ気味の駄目人間と化したヨツバが、ヒメ先輩のはた迷惑な実験に振り回される姿には、むしろ安心する。
才色兼備で、人工知能嫌いとか我が強いのに嫌味でなく、笑った顔も困った顔も性的オーラが半端なく(当社比二倍)、
時々思わせぶりな台詞を発してはすぐにクククと笑いを漏らし、ハサミをジョキジョキと振り回してはヒヤリとさせる。
ハサミはどうやらトレードマークらしく、妄想の水着姿ですら常備していて吹いた。だがそれがいい。

ヒロインでないからこそ、輝くキャラクターなのは違いない。
マスコとは別の意味で導き手であり、ヒロインへの道を阻害する誘惑キャラであり、適度な距離感を楽しむトリックスター。
世界観の広さに比べて、登場人物は多くないからこそ、彼女の多面性はより活きてくる。

マスコは、名前の通りマスコットとして、そして最後まで決して裏切らない家族として存在する。
初期型ゆえにポンコツキャラと化してくるが、同時に情も通じてきて、自分すら信用できない本作では本当に救いだ。
だからこそ、デジタル的な非情さを見せる別れのシーンは胸にきた。

「人工知能が極まったから人間らしく見えるだけで、しょせん機械は機械」なのは事実であるが、
彼女の行動原理が「ユーザーであるヨツバのため」なのも事実で、そのためには耳に痛いことを言うこともできる。
本作を成長物語として見るならば、主人公をサポートし続けた彼女こそがヒロインなのかもしれない。

ハル・シオンについては、設定の根幹に関わるがゆえにキャラを掘り下げる時間が足りなかった。
当時のヨツバがもう少しうまく立ち回れれば、また違った感想を抱いたかもしれないが、彼らはお互いに未熟だった。
最後は成熟した二人が再会できたわけだが、冷静に考えると姉妹丼ルートに見えて余韻が台無しだ!

うむ、初っ端からキャラ語りになってしまった。
しかし、物語や舞台設定を語ると途端にネタバレになってしまうから仕方ない。

ネタバレ一歩手前で語るならば、テレパシー設定については超便利なネット回線という受け止め方でも問題なく、
世界の謎を追いたい方、「平行宇宙」「セカイ系」と聞いて胸がときめく方にこそ、おすすめしたい。
ただし、能動的に謎を追う主人公ではないので、その点はご注意を。

注意といえば、一箇所だけ選択肢で詰まるかもしれない。
直前の文章とその後の展開をよく見れば分かるとは思うが、お節介すると「二進数」「二択」「PHASE」がヒントです。
その次の「鍵」は、四桁だからすぐに分かると思います。



さて、ここからは完全ネタバレタイム。
とはいえ、一体どこから話せばよいのやら。

シライシくんがロボットなのは薄々分かったが、ハルとシオンが出会ってドッペルゲンガーの如く消えたのは驚いた。
ハルのその後を知り、「ああ、ここは幻の大地なのか」と理解したが、SFらしい裏付け方が面白い。
18!通りの莫大な宇宙から特定して、別宇宙からメールを送るという壮大な実験。しかし、その動機は愛だという。
愛に応えて跳躍するには、無自覚に隠した「もう一人の自分」と向き合うしかない。外的宇宙と内的宇宙がここで繋がる。

他人の顔色ばかり伺っていた主人公が、ようやく自分のために生きることを選択する。
感動的だな、だが台無しだ。跳躍先がヒメ先輩との情事直後でフルチンのまま別れ話とか、妙にリアルでいやん!
まあこのヒメ先輩立ち絵でも当然抜きましたがね。

結局、僕はヒメ先輩が好きなのだ。
ヒメ先輩と一緒にメールの謎を追い、アーカイヴの存在を求め、通行車輌を巻き込む、その過程が楽しかった。
自らが主役でないと知る先輩が、水流に飛び込む前に「手を離さないでね」と言った時、心が躍った。
だからこそ、アーカイヴで自意識が希薄になり他者を求める先輩を、罵倒して遠ざけた主人公にはがっかりした。
再会したヒメ先輩の家に泊まったときには期待してたムッツリスケベのくせに!

だからこそ、その後の「もう一つの選択肢」には、先輩的に期待をしている。
報われなくても、それはそれで良い。僕のエロアーカイヴには、既に先輩フォルダが出来上がっているのだから。
ヒメ先輩のおかげで、この心理宇宙に意味ができた。僕にはそれで十分なのだ。

何だか話がまとまってしまったが、主人公の半分程度は見栄っ張りなので、もう少し続ける。

「人当たりのいい役を演じるハル」「本当は口下手で屁理屈屋なシオン」と分かれたように、
「周りの期待に応えようと盲目的にピアノを弾くヨツバ」「現実に絶望して思い出ごと封印したヨツバ」と分かれた自我。
それらが再統合することで、現実を受け入れて、前に進むための活力となる。

「心的要素」が世界の成り立ちの根幹の一つになっている宇宙、その複雑な設定も、彼らの成長を語るための舞台装置だ。
他作品のネタバレで申し訳ないが、『Way'' 剣の巫女』における勇者にくぼーの冒険を思い出した。
「大人向け児童文学」の謳い文句通り、ほのめかしたファンタジーのエキスを振りまき、あちらもまた美味だった。

ただ、三人目のハル・シオン視点はもっと終盤まで伏せた方が、謎解き的には面白かった気もする。
この突飛な宇宙観を理解させるには、C.S氏の著作なり、そのものずばりが必要だったのは分かるが、勿体なくもある。
まあネタバレをくらって死んだ魚の目状態なヒメ先輩がかわいいから、まあいいや!

あ、目といえばシャットダウン直前のぐるぐる目マスコもかわいいよね。
魔物娘スキーとしては、伸縮自在にぐにぐにと変形するスマホ娘に文字通り未来を感じました。
そんなスライムマスコとリアルエッチできるアプリが導入されるのを信じて、23世紀を待つことにします。