生まれて、生きて、死ぬ。そのキャッチコピーにたがわず、確かに多くの人生が描かれた作品でした。しかし、歴史に詳しくないユーザーへの配慮が過ぎたかという印象があります。
幕末、スチームパンク、歴史改変と実に色々な要素を詰め込んだ本作ですが、プレイしてみると、なにも難しいことはなく、その幾分小説的なテキストもあいまって、すんなりと落ち着いて進めることができる作品、といった印象を受けました。本作のシナリオライターである嵩夜あや先生も、読ませるテキストということに関しては意識なさったのではないでしょうか。
また、気になっている人も多い(かもしれない)、歴史的な前知識が必要かという点に関しては、知っているに越したことはないが、必要ではない、ということになるのでしょう。自分はこの作品をプレイするにあたって大内美予子『沖田総司』司馬遼太郎『竜馬がゆく』『新撰組血風録』を読んだ程度ですが、その知識はせいぜい、多少役に立ったというところにとどまるのではないでしょうか。
確かに、背景がわかっていれば理解できる事柄はあります。ありますが、必要なことは文中で説明が入りますし、本作では別にその様々な事件の歴史的意義を問いたいわけでもありません。幕末は知らないけど気になる、というかたは、プレイしてみることをオススメします。
では、この作品はどのような作品になっているのでしょう。この作品のシナリオの中の要素として重要なものは、「幕末という時代」「歴史改変」の2つが挙げられるでしょう。以下、この2つを軸にお話していきたいと思います
「幕末という時代」
幕末期は、多くの英傑がその才能をきらめかせ、無念のうちに死んでいった時代であると思います。そうした幕末という時代には、必然、この作品でも取り扱われた新撰組、坂本龍馬、佐久間修理のような人間たちの数多くの人生と、彼らが生きていればあったかもしれない可能性が、歴史のIfとして潜むことになります。そのような歴史のIfというものをエロゲーで取り扱うことは、マルチエンディング形式のとれる数少ない媒体として、非常に理にかなっているのではないでしょうか。
そうして生まれた作品が、幕末における英雄たちの群像劇としての「機関幕末異聞ラストキャバリエ」なのでしょう。しかしながら、特に幕末が好きな方に言えることであると思いますが、キャラクターの思考、行動の方向性という点では史実の元ネタとなった人物と大きく外してはいないものの、そこにはこの作品なりの味付けが介在している、ということはお伝えしておく必要があるでしょう。
「歴史改変」
さて、史実では、皆さんご存知の通り、薩長主導での倒幕、尊皇攘夷運動によって幕府は倒れ、その過程で、坂本龍馬、佐久間修理は暗殺、近藤勇は処刑され、土方歳三は戦死、沖田総司は途中で戦線を離脱し病没することとなりました。
その彼らが、もし生きていれば? というのが、本作のシナリオ、3ルート中龍真、修理の2ルートでの話になります。残り1ルートについても、後に触れたいと思いますが、今は置いておきます。
この2つのルートは、非常に爽快感のあるルートであったと思います。敵対勢力の考えを読み、ここぞというところで適切な手を打てる坂本龍真、佐久間修理にはさすがの一言ですが、その2人の進む方向性というのが、まさにこの2人ならそうするだろうと納得のいくものであったのも非常によかったと思います。個人的には、特に修理ルートでその色が強かったように思います。
個人的には一番面白かったと思う龍真ルートですが、このルートでよかったのはヒロインたちが多く活躍するところだと思います。このルートでよかったのはヒロインたちが多く活躍するところだと思います。そうして力を合わせて物事を為す、そうした達成感、爽快感のあるルートだったと思います。
逆に、修理ルートでは修理の活躍は目立つのですが、彼女の性能は知略方向に傾きがあるため、他のヒロインはあまり目立たずに終わってしまうようなところがありました。が、彼女のルートは彼女のルートで活躍する面子が他では見られないものなので、楽しめたことには間違いありません。
次に、さきほど置いておいた残り1ルート、近藤伊佐/土方歳ルートの話。
このルートでは、ほとんど歴史改変がなされません。
しかし、このルートをこうした話に仕上げた、その決断は英断であったと思います。歴史改変がされたストーリーがあれば、歴史がそのまま進むルートが映える。そのまま進むルートがあれば、改変されるルートが映える。そういう話があってこそ、この作品では不思議な統一感が生まれている、そう感じるルートでもありました。
そして、他の作品であれば誰とも結ばれず、BADエンドとして扱われるだろう考ENDが、非常によかったです。BADエンドではありましたが、他のルート以上に穏やかな終わりかたで、余韻が残り、衝撃を受ける終わりかたでありました。自分はこのENDを最後にやったのですが、予期しなかった感動がありました。他の作品ではただのBADエンドだからと放置することなく、是非見て欲しいエンドであると思います。
というわけで、まとめに入ります。この機関幕末異聞ラストキャバリエというゲームは、ルートごとにスポットされる人物の変わる、群像劇的な面のあるゲームでした。歴史改変モノではあるけれど、あまり改変しないルートもあったというところは、個人的に非常に好み。また、BGMもよく、総じてクオリティの高いゲームであったと感じました。
が、最後に一つだけ、個人的なわがままを言わせてもらうとするならば、もう一歩だけ、歴史の流れというものを楽しめるように、もう少し踏み込んだ時代背景への説明、考察があれば、更に面白くなったのではないかな、と思います。