ErogameScape -エロゲー批評空間-

houtengagekiさんの蠅声の王 シナリオIIの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
蠅声の王 シナリオII
ブランド
LOST SCRIPT
得点
71
参照数
857

一言コメント

完全に前作ファン向け。前作から主人公、世界観、周囲の人間関係等をすべて引き継いでおり、シナリオ内容も前作と関連する部分が多く、あらゆる意味で前作をプレイした人間じゃないと楽しめないつくり。まあその分前作をやったプレイヤーならばFD的な意味でも嬉しい内容に仕上がっていまして、かなり楽しめました。ただ、前作のキャラを大事にしすぎて新規のキャラ達の印象が薄くなってしまっている面があり、やや中途半端な印象を受けますし、ゲームブックとしての作り込みが明らかに甘くなってるのも気になりました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 シナリオ全体については、新しい敵との戦いが展開されつつも、
前作で登場したキャラクターたちの過去や背景の掘り下げが重点的になされていますね。
ある意味ファンディスクと言ってもいい内容。
キヨタ&コサチとクリストフェルの出会いエピソードなんかは特に、
前作でクリス側に思い入れがあれば楽しく読めるんじゃないでしょうか。

 主人公であるエスについても、前作では詳しく描写されなかった所属組織である
スプークハウスについて細かい描写があるので、どんな事情を背負ったキャラなのか
分かりやすくなってて親しみが増します。
 ただ、メインヒロインであるアインに関しては、前作ですでに徹底的に語り尽くされていたせいか
スプークハウス所属になったことによる新鮮さぐらいしか見所がなかったのが残念かな。
序盤以外全然目立たなかったですし。
あとはクリストフェルも回想以外では出番少なかったなぁ。


 敵本拠地では、主人公エスを中心に据えつつ新キャラも交え、
前作同様ゲームブック的システムを生かしたダンジョン攻略となるのですが、
カザト&キヨタのコンビの方が目立ってるので、この二人のやりとりが好きな人なら存分に楽しめます。
相変わらず、選択を誤ったら死が待っているという緊張感はなかなかのもの。

 ただ、敵本拠地の探索については、少々不満に思いました。
舞台が東京ということで、近代的なビルをダンジョンに見立てて仕掛けを解いていき
攻略していく内容になるのかと期待していたのですが、
ビルに突入したあと、内部が敵の幻術で前作の舞台である狂人塔に似た物に変えられてしまい
前作と似たような雰囲気での探索をさせられるハメになる。
当然背景も使い回しだし、この展開には新鮮さを感じられず、残念だった。
 そんなわけで舞台自体に魅力が無い上に、探索部分自体が前作よりかなり短いため
攻略もあっという間だし、ゲームブック的な楽しみは相当減っていた気がする。
個々の謎解きなどは相変わらず凝っていましたが、ギミックに工夫がなく、展開のダイナミックさがなくなったし
アイテムをゲット&使用する機会も激減していて、解き明かす達成感も薄れてしまっていた。
なんというか、ゲームブック風ADVを謳っている以上は、
その方面の作り込みをおろそかにして欲しくはなかった。

 バトル方面に関しても、新しい敵キャラには前作のクリストフェルやウルリーカのような
底知れない迫力のような物がなく、戦闘描写もあっさり目の上、
すぐ死んで退場ということが多いため(特に黒乃などは数合わせレベル)
盛り上がりにも欠けるし、味方側の各キャラクターの活躍の機会も相当少なかったと思う。
アインの見せ場が無く目立たなかった理由は、その機会を設定できるような敵と舞台ではなかった
というのが大きいでしょう。


 結局のところ、キャラの掘り下げに気を遣いすぎて
新キャラを中心とした本筋に力を入れ損なったのか、
こぢんまりとしている上に散漫な印象を受ける。
前作が軸のしっかりした緊迫感あふれる内容だっただけに、比較するとかなり落ちます。

 まあ結論として、蠅声の王の続編と呼ぶにふさわしい内容には仕上がっておらず、
ファンディスクの域を出ていないですね。
前作キャラを大事にしつつ新しい展開を、っていうのは難しいのかもしれません。
続編として作り込むなら、前作キャラはある程度切り捨てた方が良かったかも…
せめて新規味方キャラの琴科さんはもうちっと優遇してやるべきだったと思う。
 ただ、前作キャラを優遇した甲斐あってファンディスク的な良さは充分にありますし、
前作の脇役キャラが好きだというなら、やる価値はあると思います。
特にカザト&キヨタのカップリングが好きなら中盤の展開は必見。
キヨタのツンデレ的な世話焼き気質と、カザトの小悪魔的でいて意外と情にもろい性格が
ものすごくお似合いで、見ててニヤニヤできる。
この二人に萌えることができただけでも今作を買った甲斐はありました。
前作ではこの二人がコンビで戦う描写は見ることができませんでしたからね。

 あと、ラスボスである狭間に関するエピソードは結構ほろりとくるものがあるので、
本筋にしても見どころがないわけではありません。一定の水準のシナリオではあるでしょう。
短いけど。

 それにしてもこの話、続編が出ても全然完結してないなあ。
新キャラの中には顔見せ程度の登場にとどまったキャラクターもおり、
依然としてⅠからの謎も残されたままエンディングを迎えていて
(しかも次回作以降に向けての伏線としか思えないような謎の残し方)
Ⅲを出してもらわないと到底納得できない消化不良っぷりですねw
でもこれ全然売れなかったみたいですし、ライターの大槻涼樹さんも
この作品の発売後に退社してしまったという話ですから、望み薄なのが悲しい。


 最後にシステム面についてですが、
前回はバトルでの数値とかを紙にメモしないといけなくてまどろっこしかったのが、
今回は全部ゲーム上で表示させてくれるし、メモも取れるようになってたのは良かった。

 あと今回は音声が付きましたが、かなり中途半端なパートボイスだったので少々不満です。
普通に声付きの台詞が続いたと思ったら、次のシーンではボイスがなかったり、
さらに次のシーンに移行したらまたボイス付きになる、などということが頻繁にあり
かなり不自然な感じで、気になってしまう。
付けるなら全部の台詞にしっかりボイス付けて欲しかったところです。

 あとはスタッフのお遊びコーナーみたいなパラグラフがほとんど無くなってたのが残念。
ああいうのも、このシステムの作品では大きな魅力でしたからね。
なんというか、この作品は前作に比べて余裕のようなものが感じられない気がする。