同人ですが、下手な商業作品なぞ足元に及ばない良作です。主人公の夫婦が作品の器を越えてしまった作品です。
「流れ落ちる調べに乗せて」の前日譚として作られた本作ですが、その結末に縛られてしまった作品になってしまいました。しかし、その縛りの中でも作者は全力を尽くし、最後の大どんでん返しと複線の一気回収で劇的にまとめてしまいました。
作者も後書きで片倉重蔵と蛍のキャラが育ちすぎてしまったと述べています。本当にその通りで、快男児の片倉重蔵と可愛らしくも参謀的な頭と度胸を持った良妻の蛍は、小説中の坂本竜馬と山内一豊の妻が結婚したようなものです。そこに可愛くて元気玉の小菊が家族の一員として加わます。また他の魅力的なサブキャラも加わり、商売を成功させ、店を大きくしてさあこれからという時に作者による公開処刑がはじまったという所でしょうか。その縛りが無ければ太閤記の様な成功譚としてもっと惹きつける作品になった事は疑いありません。岩崎弥太郎のライバルになる位大きくなって欲しかったです。
片倉重蔵と蛍は単に前日譚の作品の器を作者の予想を超えて非常に魅力的な主人公になってしまいました。別売の設定資料集にありましたが、最後に主人公を裏切る西脇哲也を小菊に救済させて夫婦にさせるルートも考えさせた位です。(是非その大団円ルートも作って頂きたいですね。)
時期は未定ですが、幼い佐島幸を主人公にしたその後の作品も構想にあるそうです。期待しています。
最初の「流れ落ちる調べに乗せて」の序盤は冗長にすぎる程長いので本作かからやっておくとああ、こいつは奴の関係者だな・・とか思いながら出来るのでお勧めです。