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gggrrrさんのハルカの国 ~明治決別編~の長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
ハルカの国 ~明治決別編~
ブランド
Studio・Hommage(スタジオ・おま~じゅ)
得点
98
参照数
62

一言コメント

国とはなんだろうか。国を作るとはどういうことだろうか。一人の薩摩隼人の生き様。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「ハルカの国」二作目。タイトルにはハルカの名前が冠されていますが、主観は前回と同様にハヤことユキカゼ。前回の越冬編とは時系列的にも地続きの物語だが、今回の主役はタイトルのハルカでも、主観のハヤでもない、五木という薩摩隼人。

彼は実は立ち絵こそ出ていなかったが、前作に登場していました。官(政府の役人)の人間の中でも、印象深い知性を感じさせる「話とものが分かっている人間」として、短い印象ながらも頭に残る人物としてしっかりと描写されていました。

この二作目は、彼の物語。五木という男にとっての「国」とは何か、なんであったのかを語るお話。

二人の姉妹のような化けと出逢い、触れ合い、命を預けあった旅の果てに彼が見出したものは何か。ハルカとハヤの関係を深堀する話でもありますが、何よりも五木という男の有り様を克明に描いたのが、この明治決別編になっています。

失敗を重ね、何度も後悔と自身への失望に打ちのめされながらも、それでも自分を掴もうともがくハヤ。

そんなハヤを眺め、その熱く激しい、愚かなまでにひた走る心に、これまでの自身の有り様を思い、賢さだけが正解ではないと感じ、ハヤと一緒に変わっていくハルカ。

そして、信じるもの、信じたもの、置いてきてしまったもの、それでも譲れないもの、それに背かず貫き通した薩摩隼人、五木。

狼谷の越冬では、文字通り生き神のような聡明さで、なんでも知ってどんな時でも正しさを示したハルカ。でも、彼女も彼女の土地であった狼谷から出て、新たな世界が広がった。今までの自分ではいられなくなった。ただひたすらにがむしゃらなハヤはもちろん、ハルカにとっても変化をしていなければならない、明治という時代。彼女たちの時代はまだ残っているが、直に人間の世界へと変わっていく、変化の時代。そこに生きた3人。3人で生きた、3人で旅をした。

五木の感じた2人は、そのまま私が感じた2人だった。最初は姉(ハルカ)の聡明さが良かった。だが、次第に妹(ハヤ)の拙くも飾らない心を好ましく思ったと彼は語ったが、まさにその通りだった。普通なら嫌悪するような考えなしなハヤの行動も、その心に触れるからこそ好ましく、また感じるものがある。

理想を描いて戦った五木。その果に建てられた明治政府。でも理想とは違ってしまった政府の在り方。こんなものを作りたかったのか、こんなものを作るために多くのものを置いてきたのか。こんなもののために自分というものを、自分が信じたものを曲げて生きなければならないのか。それを突きつけられた五木という人間。

ハルカと、ハヤと、五木。ちょうど両極端と真ん中の3人。がむしゃらに心のまま走るハヤ。賢く重く構えるハルカ。賢さと拙さを併せ持つ五木。でも、一番不器用だったのはハヤではなく五木だったのだろう。

ハヤは、「強さ」は、「剣」は自分のものではなかったと受け入れざる得なかった。そして理想とは違った、自分が思い描いていた自分とは違った自分を、受け入れることが出来た。それが、五木には出来なかった。最後まで思い描いた、こう在るべきと、こう在らねばならぬと胸に抱いた義侠心に、背くことは出来なかった。賢いのに、よく回る頭を持っているのに、心が賢さに従うことを許さない、だから貫いた。ああ、なんという男だろう。こんな男がいたのだろうか、遥か遠い明治の頃には。こんな男たちがいたのだろうか。こんな愚かで尊い男たちが、愚かで尊いがゆえに名を残さずに果てていったのだろうか。

薩摩隼人の生き様を、とくと見させていただいた、そんなお話。