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gggrrrさんのオトメ*ドメインの長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
オトメ*ドメイン
ブランド
ぱれっとクオリア
得点
90
参照数
1170

一言コメント

コンセプトを外さずに、きちんと仕上げた良質のキャラゲー。ミドルプライスというコストパフォーマンスも秀逸

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

このオトメドメインは、体験版の開始早々、インパクトの大きい展開を示してユーザーに問いかけてきます。

「この展開を嫌悪感が無ければ、このゲームを楽しめるよ」

という意思表示ですね。しかし実は、全編通して体験版が一番そういったユーザーが「引く」であろうシーンが多いです。「残念お嬢様」の印象をつけるためでしょうが、それ以外の理由もあるでしょう。

製品版でよりひどい残念シーンを出すと、「こんなキャラだとは思わなかった」というショックを受けるナイーブなユーザーもいるでしょうから、そういった顰蹙を買わないためにもよい場面選択であったろうと思います。

実際、体験版以降はそこまで極端に「残念」要素が濃い描写は出てきません。無いわけではありませんが、コンセプトに外れない程度に配置してるくらいなものです。

さて、このゲームの売りはなんといっても女装主人公である湊くんですね。見た目とスキルは完璧なこの子ですが、精神面はかなり脆いところがあります。

しかし考えてみれば当たり前です。この子は両親を早くに無くし、唯一の庇護者であり、心の拠り所であった祖母を失ったばかりです。それも唐突に失ったわけではなく、だんだんと弱ってくのを看病しながら看取ったわけです。共通ルート最後で語られますが、湊くんは孤独をとても恐れています。だから風莉お嬢様の無茶な誘いにも乗り、女子高に来ました。端的に、寂しくあったのでしょう。

だから湊くんは拒絶・喪失をかなり恐れています。ひなたルートで言い出せなかったことも、柚子ルートで振られた(柚子の演技でしたが)ときの落ち込みようもそれに起因していると思います。

そしてなにより風莉お嬢様の好意に答えるのに時間がかかったことが、彼がなにより孤独を恐れていることを表していると思います。最初は「風莉お嬢様に変に思われて嫌われたら、居場所がなくなる」ことを恐れ、次はようやく落ち着いた自分の居場所が変化することを恐れます。

湊くん、実はとても怖がりですね。しかし彼の境遇を考えると当然だと思います。

ここに「女装主人公」という利点が生きてくると、私は考えています。通常の、それこそ「どこにでもいる平凡な青年」などが湊くんと同じような精神構造で二の足を踏んでいると、なにをへたれていやがる、などと思うことが多いでしょうが、女装主人公はここが大きく異なります。

まず、顔がはっきりと表示されており、キャラクター性が確立されていること、そしてまず男と見られないような、女性の中であってもとくに秀でている容貌をしていること。

これにより、主人公にユーザーの自己を投影させることを遮断し、1個のキャラクターとしてみることができます。

私などは、こうしたゲームで主人公に自己投影ができないので、常に第3者視点で俯瞰して物語を楽しむプレイスタイルをとっています。なので顔がわからない無個性な主人公では、物語が淡白でどこか影絵人形劇めいたものに見えてきます。

話を湊くんに戻しますと、彼は可憐な容姿を持ち、学力、運動神経に秀で、そして完璧な家事スキルを有しています。ここで精神性まで完璧だと、却って動かしづらいキャラクターになりますし、多少性格が幼いところがあっても、愛嬌となります。

一言で言えば「可愛いは正義」ですね。女装主人公ものの醍醐味です。

多少の欠点などは霞みます。なぜなら、彼ら(女装主人公)は美しいのだから。人間見た目が重要ですからねぇ。



話がそれたので内容にもどると、自身の弱い部分を曝け出した直後に個別ルートへの分かれるという手法が、話の流れとしてとても自然です。共通最後で「あなたはここにいていいよ」とヒロインズに言われた後、湊くんの心は隙だらけノーガードです。

そこへ柚子の場合は持ち前の母性?溢れるボディを使って彼を抱きしめることで、湊くんを母性で包む込み、安心させ心を掴みます。母も祖母もなくした彼にはクリティカルヒットでしょう。

ひなたは、彼にここにずっといてほしいお願いし、一途に懐いてくるようすを見せることで、湊くんに保護欲を掻き立てさせ、心を掴みます。こちらは逆に男としての「自分が守ってあげたい」という意識の強さの発揮でしょうか。

2人が行動を起こさなければ、自然と風莉お嬢様へGOですね。

しかし、そうした湊くんの境遇ゆえの感情発露は、実はゲーム中ではあまり語られません。というのもコンセプトがライトでまったりした雰囲気でのポンコツお嬢様との触れ合いですので、あまり重い心理描写を挟むとゲームの雰囲気がチグハグになります。ゆえに、主人公である湊くんの感情の源泉がどこに起因してるのかは、ユーザーが行間を読み、考察しないとわからりづらいようになっています。

無論、そうしなくても流れの雰囲気で楽しめますが、キャラの行動の感情経路を考えるのも楽しいです。そうした点で見ると、このオトメドメインは実に思春期らしい、激しいけど思慮が足りない、だからこその勢いがある、という少年少女の青春模様が描かれていると思います。

行動が極端から極端に走るのは、青春盛りの若者にならではだなあとおっさんは思いました。

雰囲気は纏まっており、コンセプトも外さず、キャラの魅力を引き出しながら、根底にはしっかりとした設定と文章力がある。体験版のシーンで食わず嫌いするのはもったないゲームです。