ErogameScape -エロゲー批評空間-

gaogaogao改め烏賊悪魔さんのCROSS†CHANNELの長文感想

ユーザー
gaogaogao改め烏賊悪魔
ゲーム
CROSS†CHANNEL
ブランド
FlyingShine
得点
100
参照数
1154

一言コメント

「家族計画」と対を成す(或いは本人)、エロゲ歴史の道標的存在

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あらすじ

とにかく鬱。
一週目(非誤字)は笑いがありつつも退屈でなんかアンテナをくみ上げて、はぁなるほどね、て感じだったが、
二週目には早くも鬱に。まさか人類滅亡だなんて・・・
三週目で群青学院に鬱。
四週目で新川豊に鬱。
あとは強いほうのハーマイオ○ーたん・・じゃなくて美希たんと主人公が世界とともに分解されるシーンに泣鬱。

全員を一人一人、元の世界に転送するシーンに一度づつ泣鬱。
特に桜庭に泣鬱。
それでエンドかと思いきや曜子たんに○○されて真実が暴かれて曜子たんを○○するシーンに鬱。

ひとりひとりぼっちになった主人公に鬱。
群青学院放送部の○○が元の○○に届いてまた鬱。



このシナリオの登場人物はみな、どこかしらの欠陥を心に持っている。
完全依存、潔癖的な規範主義、破壊衝動、身体障害、サイコパス、心神喪失
彼等はゆえに隔離施設「群青学院」に送還された。
最初のプレイではその事実が見えてこないため、進めていてわけのわからない思いをしたが、
三週目以降にその事実がすこしずつ明らかにされ、かなり鬱になった。
一度目の攻略で約半分の謎が明らかにされるが、それでも冬子などの二度目まで待たないと訳のわからないシナリオもあった。

とにかくギャグ的なテキスト力が高いがゆえにシナリオの悲劇に感情移入が増幅されて鬱。
最初のどこかほのぼのとした雰囲気がだんだんと破壊されていくのが痛い、痛すぎる。
繰り返される世界を認識していく主人公はそれまでを記憶したノートを祠に残す。
その祠だけは世界の転生を免れ、記憶を残すことができる。
きっかけとなったのは七香という謎の多い少女。
全員を攻略後、主人公は七香の言う「弱いままでいい」世界捨て、彼等を元の世界に転送することを決意する。そう、この世界は彼の作り出した世界に等しかったのだ。
彼は一人で生きていくという尊い決意をした。
全員とのよき思い出を。
全員にもよき思い出を。
攻略一週目と半分ぐらい同じ日々を経て、主人公は祠にて彼らを転送する。
最後に主人公を自らの半身と呼ぶ曜子ちゃん(強ッ)を転送して主人公と曜子ちゃんの過去を暴いて終わり。
と思いきや長いエピソード。

一人きりの世界で主人公はアンテナをくみ上げた。
そこから発信される「群青学院放送(CROSS†CHANNEL)」はもとの世界へと届く。
元の世界ではネット上のうわさとなっている幽霊放送。
その正体は彼の流した放送だった。
放送の内容、一言めは・・・「生きてください」

~あらすじ
ゲーム終了後に私は
「うる星やつらビューティフルドリーマー」
「腐り姫」
「ONE」
「灰被り姫の憂鬱」
を想像した。
繰り返される世界からの脱却というテーマはいかにも「ビューティフルドリーマー」「腐り姫」的である。
それをテーマにしたシナリオが美希のシナリオで、個人的には一番好き。
サイコパス(?)な美希が繰り返される世界を通じて強くなり、そして人間味を失っていくという悲しさ。
時の流転を繰り返した美希が最後にとった選択、
それは主人公とともに新しい自分に戻るという選択。

赤い夕焼け、主人公との何気ない日常、セクハラ
のすべてに涙する美希の、本当の気持ちが判った様な気がした。


次に印象が残ったのは桜庭。
彼の行動のいちいちが、いかにも群青学院的でアレな人なのだが、最後の主人公との友情がよかった。
なんだかんだで彼が一番マトモな人だったような気がする。


さて、私の個人的趣向はともかくとして、このゲームがエロゲの歴史に残した意義と家族計画との関係について語りたい。
①「パロディ系のギャグ」
②「差別意識」
③「鬱」
④作者は山田一?

①まずこのゲームの最大の属性として「パロディ系のギャグ」というものがある。
他作品では「それは舞い散る桜のように」「家族計画」
他のジャンルでは「ケロロ軍曹」「勝手に改蔵」「エクセルサーガ」などがあげられる。
「知っている人にしかわからないネタ」は読者層を狭めるゆえに諸刀の剣なのではあるが、反面で非常に深い共感的な笑いを読者に与える。
文字メディアでは「マサルさん」「稲中卓球部」のような破綻的なギャグが成立し得ない以上、もっとも効果的な笑いの手法としてこれは非常に評価できると思うし、感動系ゲームの主流となってほしいとも思う。


②このゲームの特徴は「社会からの差別」を書ききれていない、否、むしろ書こうとしていないところにある。
群青学院が障害者隔離施設であるにもかかわらずその悲劇っぽさをあまり書こうとしていないし、
積極的に「障害者」を書こうとしていない。
だがその障害がきちんと一人一人テーマになっている。
「『ONE』のように障害者を理想化して差別している」
のか
「『スーパーテレビ』のように障害者を書ききろうとしているのか」
のか非常に微妙なところで、障害をテーマ化しつつ、余分なところを一切書かない。
これを意識的にやっているのだとしたら凶悪に新しい。
「某差別反対運動」に対する凶悪なアンチテーゼとなり得るからである。
この意味で、今後のシナリオ論に与えた影響は非常に大きい。

③鬱。この系統のネタは久しぶりに見た。
そして鬱系のシナリオがここまで評価を得たことはなかっただけにジャンルの開拓に一役買うことは間違いない。まぁ非常に扱いの難しいネタではあるのだけれど。

④田中ロミオは山田一本人ではないかいう噂をよく聞くが、確かに納得できる話だと私は思う。
「ぁぃぅぇぉゃゅょ」の使い方や「桃園の誓い」が確かに似ていると言えると思うし、
そもそも『個の確立』というクロスチャンネルのテーマは『他人との絆』という家族計画のテーマと非常に好対照である。家族計画の作者が次に書く作品としてこれほど適切なテーマはないだろうと思う。
少なくとも田中ロミオが山田一の影響を受けまくっていることは間違いないと思う。
ただ、本人かどうかは断言できない。
というか、本人以外には無理だろう。
まぁ田中ロミオの新作が出るらしいので、そのときにお手並み拝見と行こうじゃありませんか。