好スタートを決めるも宇宙・ロケット要素で折り合いを乱し、三コーナーで早くも馬群に飲み込まれそうになりながらもなんとか頑張ってはいる、のだけれど……そんな感じ。惜しいというか、勿体無いというか。
そこそこ期待していたし、それこそ最初の1・2時間は「傑作ではないだろうか」と思わせてくれただけに残念でならない。
先に上げられていました感想で「劣化ころげて」みたいなことを仰ってる方がおられましたが(http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=17830&uid=76421)、そう考えるといろいろ腑に落ちたりもします。てゆうか「ころげて」あんま好きじゃなかった自分ですら「ころげて」上手かったんだなーと評価せざるを得ないくらい。
たとえば「ころげて」では「何故空を飛ぶのか(空を飛ぶことを目指すのか)」という部分で、まず今までのモノを失った主人公が新たにはじめるモノとしてソアリング部があって、留年しまくってる先輩やイスカなどは何なのかという謎や興味対象もあって、走れなくなった主人公が空を駆ける・歩けないヒロインが空を翔るといった隠喩的・暗示的な意味合いなんかもあって、それがゲーム初めてすぐの段階で読み取れるわけです。意味がありそうなものや関心を惹くもの、象徴的なものを二重三重に配置していた。そういうことが「空を飛ぶ・ソアリング部の活動」といったことへの興味の端緒となっている。
対して「流星☆キセキ」のロケットに関しては……、まずそういうところが非常に弱いのです。端的に言うと、宇宙飛行士だった祖父さんが「宇宙は良いものだぞ」と散々言っていたことをきっかけとして主人公は宇宙を目指す・ロケットを作っているわけですが、その動機自体にはドラマ性もありませんし特に惹かれる部分もありません。まあそれ自体はよいのです、宇宙が「どう良いものなのか」を説明してくれれば。と思ったのですが、主人公は宇宙の良さ・ロケットの良さを全く説明してくれません(てゆうか正しくは「説明できません」。邪推したことを言うと、ライターが説明できないんじゃねえスかこれ)。
「宇宙は良いんだ!ロケットは良いんだ!」みたいなことを周りのみんなにしょっちゅう言ってるのですが、具体的にどこがどう良いのかといったところは全く語られません。ここが非常に良くない。てゆうかボクの中で当初傑作かと思われたこのゲームの評価がガタ落ちした理由の90%がここらあたりにあります。主人公は「ロケットバカ」なのですが、そのロケットバカっぷりが全く理解できない。全然共感できない。ここまでバカになるのも納得と言えるほどの理由が語られたわけでもないし、かといって目指している対象がどう素晴らしいのかということが決して説明されない。だから共感できないのです。むしろ熱血キャラといってもその対象(宇宙・ロケット)が中身ない=中身語られていないので主人公はただ空回り的な熱血というか、口調も伴って子供向け漫画の熱血主人公とそう変わらなく見えてしまう。そんなことより向日葵ちゃんクソ可愛いしトゥインクもハイパー可愛いので彼女たちとイチャイチャしろよと思ってしまう。「ロケット作りに忙しいから女の子に構わない・遊びの誘いを断る」みたいなことをこの主人公平気でやるのですが、ロケット作りに全く興味も共感も持てなかった自分のようなプレイヤーにとってはむしろそっちの方がありえねえ、どんな判断だエロゲーの楽しみをドブに捨てる気かと思ってしまうのです。
また動機や何やらの次の部分、「実際のロケット製作」もがっかり度を上げざるを得ない感じでしたね……。いやだってやってる作業の大部分は描かれなかったり触れられなかったりしてるんだもん。つまり殆どにおいて、「具体的に何をやってるのかは分からない」。この辺も例の如く「ころげて」と比べてしまうと、あれは上手かったですねと言わざるを得ない。作業や訓練、起こるトラブルなんかが具体的に描かれていて、それによりプレイヤーも実際にやってるような・ソアリング部を経験したような一体感が得られるわけです。対して本作の場合は、何かを計算してたりするらしい描写は沢山ありますが具体的に何を計算してるのかはほぼ全く語られないし、部品や燃料の発注は描かれますがその実際の部品や燃料は画面に描かれないしそれをどのように使ったりするのかもほぼ全く描かれません。これが非常に痛い。忙しい・頑張ってる・徹夜してるみたいなことだけはしょっちゅう語られるから余計です。頑張って徹夜しているのにも関わらず、頑張って徹夜して「具体的に何をやってるのか」は語られない。そういったことから、主人公、ならびロケットを作るということに対する一体感や共感がことごとくぶっ殺されてしまいました。
ここまで文句ばっかになってしまいましたが、しかしそれ以外はおおむね普通~良かったと言えるレベルでした。特にCGの美しさとキャラクターの魅力は絶品でした。それだけに主人公がロケットなんか作ってるせいでイチャラブ分が少なくなっているのがまことに遺憾であった(言いがかり)。シナリオは、期待してると肩透かし喰らう感があるかもしれませんけど、しかしライターの長谷川さんは「シリアスを回避するところで真骨頂を発揮する人」だと個人的には感じていまして。たとえば2011年にAXLよりリリースされた『愛しい対象の護り方』は、自分の中では年間ベスト級の傑作だったのですが、あれは真摯なくらいシリアスから逃げ続けているシナリオなわけです。シリアスな展開になるかと思いきやあっさり解決するとか、あるいは意外とシリアスにならないで済むとか。シリアス展開を基準に考えると「シナリオダメじゃん」と思ってしまうかもしれませんが、そうではなく、あの作品は日常の楽しさと色と何処までも持続延長させている(その為にシリアスから逃げ続けている)意欲作だったわけです。そういったシリアスからの逃走が為されていて、そのお陰で共通ルートと同じようなアトモスフィアを個別ルートにおいても纏うことが出来ていた。そこが非常に良かったのです。『流星☆キセキ』も同じように、基本的にはシリアスになり過ぎないように作られている(※勿論狙ってそうしているのか素でそうなのかは分かりませんが)のですが、そこでロケットがどうしても邪魔をしてきてしまう。主人公が「ロケットバカ」であるという事実が邪魔をしてきてしまう。まだせめてロケット作りがちゃんと描写されていれば、その中で楽しい空間やコミュニティが構築されたかもしれませんが、ロケット作りは描写されないか具体的には描写されないかのほぼ二択ですからね。それは言い換えれば「主人公における日常」は描写されないか具体的には描写されないかのほぼ二択である。せめてロケットバカというほどのめり込んでいなければ良かったのではと思わざるを得ないのですが。そうであれば長谷川さん得意の「日常」、特にコミュニティにおける日常、その楽しさ、その空気、そして些細な変化とその積み重ね、そういったあたりを存分に発揮した上で、この可愛いキャラとのイチャイチャも存分に描けたのではないだろうか。
そんなわけで、個人的な結論としては「宇宙要素・ロケット要素」が……。無かったら別ゲーになっちゃうのでいらねーとは言いませんが、せめてもっと踏み込んで描くべきだったのではなかっただろうか。それだけで評価が一回りは違った、そう思えてなりません。