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dearoldhomeさんのCROSS†CHANNELの長文感想

ユーザー
dearoldhome
ゲーム
CROSS†CHANNEL
ブランド
FlyingShine
得点
90
参照数
252

一言コメント

浮き彫りになる醜さを許容し、求める美しさを保とうとする黒須太一の姿に心を打たれた。オールクリアして初めて本当の意味で価値を感じられた作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

通常版(旧版)でプレイしたが、パッチが見当たらなかった為オートセーブOFFにすることで回避。

隔離された学校、閉じていく世界、ループする1週間といった一見でも興味を引くには充分な題材。
このゲームのネタバレの範囲が分からないが、プレイするにあたって様々な方の感想やブログを見漁ったのでゲームの大まかな内容はある程度予測できていたと言っていい。
が、終盤・結末の"それ"はネタバレを知っていた程度で揺るぐことのないものだったし、むしろ序盤での退屈なプレイ中はモチベーションを奮起させる為に率先して踏みに行っていた(推薦はしない)。

言葉通り「オールクリアに価値アリ」のゲーム。
各キャラクターの送還に入る部分(勝手に通過点と呼んでいる)やTRUEエンドに辿り着くまでは正直これは合わないかもなあと思ってしまうほど期待していたような展開は無く。
もちろん期待値を上げに上げていたのも要因の一つではあるが、私の場合は攻略サイトを見つつプレイしたにも関わらず「・田崎商店に行く」の選択肢が出てこない、(ループもの特有の)既読スキップで飛ばせるところも少なくないという仕様のために攻略が難しかったというのがある。FINAL COMPLETE版の攻略サイトはそれなりにあるものの、通常版の場合検索でぱっと出てこないため適当なサイトを見繕っていたのだがそれが良くなかったようだ。

キャラクターのそれぞれが魅力的だったが、特に好きなのは冬子。
タイトルにもある通り、私の思うこの作品の魅力は黒須太一が自分を含む各々の醜さ・不完全さ(ゲーム内では"群青色"と呼ばれるような、社会に適応しにくいとされるそれぞれの特徴)を知った上で他者に対してはまた美しさを見出し、それを復活させた上で元の世界へ送還するというこの過程だ。
それが最も顕著に現れていたと思うのが冬子で、拒食症を抱え群青学園に通う自分にコンプレックスを持たり、依存体質で境界性人格障害のようでいたり彼女が、他者を寄せつけない様を太一は「美しい」と感じていた。「実験」と称し彼女を手篭めにした過去もある(唯一、ループする1週間より以前に既に肉体関係を持っていたヒロイン)が、それでは彼女のあの気高さが感じられなくなってしまう。
それを理解した太一が「送還」を行う時には、きっぱり身体の関係を持たず、かと言って距離を起きすぎることもなく、これからは1人になるけど頑張れと想いを込めて戻す。
彼女に求めた姿、そして彼女にとってより良いであろう選択をして、きちんとした場所へ返すというこの一連の流れに酷く感動し、そして1人戻されてしまった冬子を思って切なくなった。
「おいしいごはん食べてますか、群青学院放送部です」
こんななんてことないメッセージがここまで優しく聞こえるのは、この作品だけであろう。


曜子「相手から何も与えられない・・・・・・寂しくはならない?」
太一「・・・・・・キレイなものを見るのが、好きなんだよ」
「まずそれがあるんだ。ずっと昔から」
「その気持ちだけが、俺の最初の感情なんだ。」




ベンチに寝そべる黒須太一に、私はいつまでも思いを馳せている。