えいえんの名作 そして、はじまり
荒削りで、あたたかくて、苦しいくらいに切ない、想いという繋がりの物語。
MOON.とともに実質的なkeyの原点であり、後のKeyブランド的な「泣きゲー」の型を作り、個性的で愛されるキャラ造形、思い出に残る素晴らしいサウンドに、「えいえんのせかい」という極めて概念的なものを描いた、あらゆる意味で「らしさ」が詰まった作品。
プレイ順はみさき→澪→七瀬→シュン→繭→茜→瑞佳。シナリオの好みで言うと瑞佳とみさきが断トツで、キャラクターは七瀬と瑞佳が好き。
ONEの良さは、(端的に言えば)たしかに「ギャルゲー」であることにもある。
日常シーンに関しては節々に麻枝准のギャグのセンスが光っているし、時折永遠の世界を語る詩的で唐突なシーンが挿入される場面があるが、それが何なのか輪郭をぼかしたまま、また普通の日常シーンに戻ることも出来る。危うくもあり、一見理解不能に思えるが、それ故に曖昧に感じる世界がまた近くに、確実に存在することを裏付けてくる。巧みだと思うし、そういうバランス感が心地よく、他とないゲーム体験を作り出す。
また、他愛ないシーンでの異質な選択肢の(そして、そこからのバッドエンド直行の)多さ。退屈な日常における、退屈でないコミュニュケーションによってヒロインと絆を深めていく様子はそれだけで面白く、価値のあるものだった。毎日の楽しさ、尊さ。ONEの学校には「聖域」感が確かに漂っていると思う。一瞬一瞬が特別な時間で、学校というのが特別な場所であることを痛いほど刻みつけてくる。直接語りはしないものの、プレイヤーにとっては眩しいものでもある。
個人的に思うのは、ONEのHシーンには相当感慨深いものがあるということ。みさき先輩√では盲目である彼女を抱こうとして「本当に浩平君だよね?」という台詞を吐かせる。初めて盲目であるハンデの"重さ"を目の当たりにさせて躊躇させるものがある。在り来りぢが、ひとつひとつが感情で、好きだと思う。また、瑞佳√では浩平が所謂試し行動と呼ばれる類のものでクラスメイトに瑞佳をレイプさせようとしたにも関わらず、自分は高熱を出して苦しんでいる状態で瑞佳を抱くことでそれで"愛の証明"をしようとしているんだから…溜息をつかざるを得ないような無茶苦茶に思える展開の中で、どこかこのおかしな√を身近に感じ、自己投影し、胸を締め付けられる幸福を感じている。もうこれは瑞佳√の感想なのでやめる。とにかく、ONEという作品に置いて、折原浩平という男を描くにおいてONEのHシーンは大きな役割を担っていたんじゃないかなあ。
「えいえんのせかい」それは浩平とみずかの盟約でもありながら、みさき・澪・七瀬・繭そして茜、誰にでも有り得た世界。最後まで深く語られることの無い永遠の概念。夢のようで、優しくて、泣きたくなるほど切ない。
ONEは、私にとって、本当に本当に、手に取るのも気を張ってしまうような、繊細かつ特別な作品なのだ。