全年齢版でも切れ味ある、と思うくらい鮮烈な印象のある作品。(思い出補正・回顧的美化もあるとはいえ)この頃の毒のあるCIRCUS作品のシナリオが傑作だと脳内に刷り込まれてしまった。
各章についての簡単な感想
1章:プレイヤーにある程度予想をさせつつも、三角関係の悲劇はやはり後味の悪いものを残す。しかし、最後に多少救いがあり、または今後を予感させるのがプレイヤーに安堵を与える(どこかでその後1章主人公と小夜が出会っているシーンあったような気がします)。今思えば中々に冒険している。
2章:4章と双璧を成す。主人公である蒼司君だけ(今思うとかなり痛い面もありますが)、他とは毛色が違う主人公です。主人公、さやか、律の三者のそれぞれの関係と思いの変遷が、美しい景色や日々と共に描かれていきます。物語が明るいときは、世界も明るくなり、暗いときは世界も暗くなるというのが実に良くできている。さやかルートは傑作といえる出来だが、一方の若林ルートもこれまた話は面白かった思い出。ただ、さやかルートでさやかを襲おうとする不良くんが、若林ルートだと気のいいヤツになるというのは、良く出来ていると言えばいいのか、それとも印象変わり過ぎだよと言えばいいのか、コメントに困る。
ついでに言えば、若山牧水の詩の話のシーンや蒼司のキャラクターなど、若い人間をこじらせること間違いなしである
3章:ある意味一番ブラックな話。どっちのルートもプレイヤーに苦いものを残す。人間不信になりそうな話。正直冒険しすぎていて、一種の笑いを生む。でも好き。
4章:実は一番明るい話な気がします。少々分かりにくいところもあるが(過去の名無しと主人公、名無しと祖父(?)のところとか)、旅館の女将さんの死を境に変転する物語はプレイヤーを飽きさせない。
総じて水夏は面白い作品だが、全体的にビターでヘビーな色彩の作品で、夏を舞台にした作品ではあるが、その負の面の印象が強い(死、夕方、寂寥)。そうした暗い話を、水夏では様々なキャラクターの明るさや個性によって、和らげているのだと思う(例えば、2章のさやか、4章の名無しやアルキメデス、ちとせなど)。それでもこの作品自体に、夏の明るい側面がないとうわけではない。4章のエンディング(夏祭り)で、照れた主人公に抱きついて「かわいい」「かわいい」とノロケる名無し、イチャつく二人を冷やかす華子とちとせのシーンは、プレイヤーの心に温かいものを残すし、名無しの名前が決まるエンディングでは、彼らのこれからの日々を予感させる。同じく外伝の上代萌のエピソードも夏の明るい側面を描いたものと言える。
曲について言えば、「Fragment~Shooting star of the origin~」と「夏の贈り物」も名曲である。