巷での評判から、もう少しレベルの高いものを勝手に期待していたことは正直否めない。良い要素や面白さを感じる場面もそれなりにあったが、それ以上に読んでいて苦痛な場面・首を傾げる場面も多々あった。この作品は決して、「最初や序盤を我慢すれば、その後は最高に面白く・熱いストーリーが待っている作品」とは言えない。
この文章の書き手がこの作品を評するならば、次のように言える。
(1)主に主人公の態度や行動に起因する苦痛なシーンが多いため、序盤が読み進める上で一番厳しいのは事実。
(2)しかしそれを乗り越えた後のアライブ篇においても、読んでて苦痛な箇所は散見され、目立つ。それまでの真面目な雰囲気を台無しにしている感さえある。
(3)したがって、この作品は「最初や序盤を我慢すれば、その後は最高に面白く・熱いストーリーが待っている作品」とは必ずしも言えない。
感想の前にゲームの起動について:パッケージ版を購入したのだが、当方の環境ではインストール後のDMMゲームプレイヤーの認証段階でまた8GBのデータをDLさせられ時間がかかり、起動時もDMMゲームプレイヤーから起動する必要がある。この点は結構時間がかかったので、他の方もご注意を。
・ソーサレス篇ストーリー雑感
攻略順:ユズリハ>アズーリア>ミア>アキナ
個別ルートやアライブ篇にも存在するが、ソーサレス篇は読んでて辛い箇所が最も多い。
特に異世界転移に際して、余りにも楽天的というか能天気で、一々軽い主人公の発想・態度・内面がこの要因である。加えて、何故か上がっていく周囲からの好感度。あるいは作中の描写から窺える文明レベル(大浴場・列車の存在)に対して、どうみてもおかしい生活・文化レベル等(アイスクリームどころかジャムまで存在しない、四季の概念がない世界で農業が行われている)が違いすぎる、世界全体の文明レベルと主人公たちの住む学園周りの文明レベルの違いも何だかあやふやだし……的な疑問が次々に湧くためだ。
例えば、貴族が通うエリート学校の食事が皆貧相過ぎる(貴族と平民、女性と男性の間に事実上差別がある世界なのに、なぜか小間使いと学生の間にここでは差別はない)中、主人公のつくったジャムが好評な下りなどである。確かにこういった点は、一から十までいわゆるなろうテンプレを皮肉ったものと読めなくはない。ただそもそも「いわゆるなろう系と、それを巡る昨今の様々な言説」自体に対して冷ややかor興味ない読み手からすると、それすら滑っているというのが印象であるし、私はこれから何度も繰り返すように、アライブ篇にも同じような問題はあると認識している。序盤を広い意味での伏線と呼ぶことは可能としても、その手の作品への皮肉とまで読むのは間違いだろう。序盤にもアライブ篇にも、主人公がふざけた態度をとっているシーンがある以上、おそらく書き手は両者を書き分けるつもりなどなく素でやったのだろう。
ただレイヴの練習やトーナメントが始まる辺りからは、戦闘描写や魔法の演出で読み手を乗り気にさせてくる。その過程で、実力は低くはないもののチームワークに欠ける自チーム、上から目線ではなくチームメンバーを理解した上で戦略を立てるという、物語上の課題も提示された。ユズリハ加入後のユーミとの模擬戦、それを踏まえての新たな決意表明の流れもしっかりしている。こういったストーリー上の目標や面白さだけを見れば悪くないし、主人公も強者としての余裕を持つユーミに対して対抗意識や反発を覚えたり、勝つために真剣な意識や姿勢を見せるようになるから、レイヴ関連に限って言えば好感が持てた。トーナメントでも、相手の戦略やこちらの戦法への対応、様々な攻防がある程度描かれていたと評価できる。
そして、作中で逐一主人公に都合が良すぎることのうち、例えば主人公のよくやっていたFPSゲームとレイヴが似ていることを始めとした、「主人公の前提知識や好みとやけに噛み合う異世界の要素」は、他のレビューで言われているように、明確な伏線と言ってもいいかもしれない。根幹的なことでは、ユズリハルートでのユーミとの会話とか(バレンタインにもらったチョコの話、ワサビ=辛いものと認識しているユーミ、後半ユズリハに会おうとする主人公に肩入れし魔法を使うユーミ)もこれに当たるだろう。ただし主人公に都合が良い要素=全て伏線とまでは言えない。
そもそもソーサレス篇を普通にプレイした場合は、プレイを断念する人がいてもおかしくはない。実際自分の場合発売後の評判をそれとなく聞いていたものの、それでもソーサレス篇・個別ルート・アライブ篇においても読むのが苦痛、または不満と感じた箇所はそれなりにあった。
それらについては以下で詳しく語る前に、ここで先に触れておきたいのが、男女比の圧倒的な偏り・魔力の遺伝の関係から、作中では一夫多妻が普通という設定だ。実際、ヒロインらの感覚や常識もそちらよりではある。しかし結局個別ルートのヒロインは、男女1対1の恋愛を最終的に是とするようになっていて、一夫多妻が普通という感覚は概ね他ヒロインらが主人公の共有(無色の魔力)を要求するという理由付けにしかなってない。これに関しては書き手の都合と言えばそれまでだが、自身のルートでは主人公を独占するヒロインが(作中の異世界ではマイノリティな感覚)、他のルートでは主人公を独占するなと言い出すのは、個別ルートでの攻略ヒロインの感覚が却って不自然に見えてしまう(特にミアルートでのアズーリアとアキナを見た後は)。別にヒロインらが結果的に作中世界ではマイノリティな男女関係観になること自体が問題というよりは、描き方への不満である。ただアライブ篇を見る限り、ミアについてはこの態度に意味があったことは確かだろう。
・ユズリハ
このルートに関しては全体的に言いたいことが多い。出自や血筋から周りから嫌われ避けられているのはともかく、共通ルートで行われる彼女への扱いを改善する下りとその手段(アイスクリームのとこ)があっさりしすぎなのだ。というか最序盤であった魔力のない平民への扱いとかも鑑みるに、ユズリハへの扱いは深刻なものだし(実際ミズガルズ家による所業とかもそれを裏書きする)、作中ほど簡単に解決できないような。ミズガルズ寮の人間による明確な悪意も十分酷なものだが、主人公に優しかったおばちゃんのユズリハへの発言とか、ユズリハが抜けた穴に入り込もうとしてきた他の生徒たちみたいに、差別や悪意は無意識に行われることもあるから恐ろしいのであって。
案の定、個別後半ではまたユズリハが周りから忌避される展開が来るため、書き手の都合でモブたちの態度を変えているようにしか見えない。こうなると共通ルートの下りは不要で、いっそエーリュシオ寮内では最初は特に何とも思われてなかったくらいにした方が良かったのでは、と思うくらいだ。
個人的に、ユズリハルートの筋(偏見や悪意に動かされる集団、「魔女狩り」的な展開、異世界に来て人権云々を主張するのが間違っているのかと憤る主人公、異世界での柵から自由な主人公・異世界で疎外されてきたユズリハと異世界で生きてきたアキナらの対比、クレハがユズリハを憎む理由)自体は良いと思う。
なので作中世界で魔女や魔族が忌避される理由を、もっと早くから読み手に説得力あるものとしておけば、と思わざるを得ない。異世界からやってきたからこの世界の常識なんて知ったことじゃないとか、「異世界の男と魔族の女の子、お似合いじゃないか」と主人公が啖呵を切るところは、嫌いじゃないだけに。でもその後すぐヤるのはどうなのかな。他にも細かい点を言えば色々ツッコミはあるため、全体的に話の構成に難ありと言わざるを得ない。
でも主人公に懐くユズリハは良い。他ルートでもそうだが、恋愛より子孫繁栄な風潮の異世界(このルートで滅茶苦茶テンション高い恋愛小説マスターアキナが「恋なんておとぎ話にしかない」と言われるほど)で、恋愛初心者同士が恋愛をするというコンセプトは良かった。
・アズーリア
一夫多妻の貴族の男からの要求(アズーリアは即刻レイヴを止めろ、農産物の買い付けを拒否する、持参金の残りを支払え、アズーリアの妹を「小間使い」にさせろ)に対して、解決をするための手段が、ポテチとフライドポテトを作って解決云々。言いたいことは山ほどあるが、もう何も言うまい。
「アズーリアに結婚相手がいないから仕方なく結婚する? ならもっと条件の良い(無色の魔力持ちの)俺が貰ってやるよ!」だけなら、余りイラつきはしなかったかもしれない。
恋愛という概念が余りない世界で恋愛をしていき、やがて自分に自信を持てないアズーリアがメンタル・技量ともに成長していき、最後はレイヴでリーダーとして戦えるほどにまでなり、リリリと一騎打ちで勝ち、彼女から新たなライバルとして認められる、という流れは良いのだが、余計な展開(妹の誘拐など)が多く、素直にそれを楽しむことはできなかった。展開上のノイズがなければ、より質の高い成長物語・スポ根風ドラマとなったろうに。
・ミア
相手の特別になりたいというミアの欲求、妹の面影を持つミアを放っておけない主人公、付き合ってからもミアの独占欲は薄れず結果的に、この世界での風潮から見ればマイノリティとして生きようとし、けれども周りは無色の魔力持ちの主人公に群がり……という話の筋はあるのだが、全体的にギャグ。キスまでは許す→なら舌を入れるのはOKとか。恋文は第二夫人候補の自分を通せ(by アキナ)、愛人1号候補も恋文の下読みをさせてもらう(by アズーリア)、助けてユズリハ(by 主人公)→第一回恋文選考会の流れ。EDでの、結婚しててもアヴァンチュールだから問題ないとか、行きずりだから大丈夫(by アズーリア)とかで、この作品においては心の底から笑うことができた。
・アキナ
個別開始から告白、そして実家での修行までの流れ(つまりルート後半まで)は余り面白くなく、アキナを空回りさせて無理やり話を作っている感は否めないし、主人公の対応は一々微妙なくせに、妙に態度が上からでやる気だけはあるのがやけに鼻についた。実家での修行の結果得た技も、他ルートで普通に出ており余り驚きがなかった。ただプロメテウスを使えなくなる=この世界ではもはや貴族として生きていけないも同然になったアキナが、せめて優秀な子どもを好きな相手とつくりたいという望みに縋る、というのは作中世界での価値観と読み手との間のギャップを示していて、良かった。
一方ブリットアニア戦は、他のルートでのそれと比べると物足りなさを感じたが、見応え自体はあったと思う。これはリリリの新技よりも他ルートで披露していた戦略眼、連携、瞬間移動の多様の方が目立ち、リリリとアキナの戦いも、同じ一騎打ちではアズーリア、勝利の仕方もリーダーの撃破ではなく互いの意地の勝負に持ち込んだミアの場合の方が面白かったためだろう。
上記のように、ソーサレス篇は悪くない箇所もあるが全体的に粗や微妙な展開が散見されるという評価にせざるを得ない。アライブ篇のことも踏まえれば、最序盤の展開も多少の意味はあったのかもしれないが、読み手にとってマイナスな印象を抱かせることに変わりはなく、アライブ篇までやってようやく、ああそういうことねと思うくらいで、散りばめられた伏線の妙技に驚くといった域にまでは至っていない。
そしてアライブ篇においてもソーサレス篇に存在した問題点は存在しているように見える。
・アライブ篇雑感
ソーサレス篇に比べれば面白いのは確かだが、中盤に疑問点が散見される。最初と最後はは話に乗り切れたが、中盤はやや冷めた気分になった、というところか。
開幕のレイヴ決勝戦での女王へのクーデター。ミアとユズリハがクーデター側としてこちらに武器を向ける、という展開でシリアスな雰囲気が出始めたことで、読み手としても俄然乗り気になることができた。
学院地下での戦闘開始後ミアが「こんな国…」と言った瞬間、家族を処刑されたアキナとリリが激昂するシーン、覚悟を決めた主人公も含めた全員でユズリハに対して勝つシーンは、盛り上がりと同時に憎しみの連鎖と不条理さ、当事者の心理に立った際の納得感を与えられて良くできている。そしてここで読み手には、なぜクーデターが起こったのかという疑問を抱かせることに成功している。さぞかし、何か理由があったのだろう……と。
しかし乗り気になったのはここまでで、すぐさま始まった二週目ではクーデターを起こした側に対する描写から、以下で述べるような数多くの疑問が湧いてしまい、学院側ほどクーデター側に感情移入できなかった。理由を一言で言えば、クーデター側の採る手段が一々稚拙にしか見えないためだ。
二週目は、逆にクーデター側から事態が描かれる。魔女の落とし子とその真実等について語られ、クーデターの理由についても話の展開にも「ある程度は」納得できる。しかし正直に言えばその時点でまだ何か裏が有りげだったし、一周目の時点でも、重要な情報をもたらしたのは誰かを考えれば容易に答えは出る。現に互いの立場がこじれるきっかけとなったのは、アキナやリリの両親が殺されたという情報なのだから。しかし後の黒幕自身のセリフから実際にはこれ以外にも様々な介入をしていたのだろうという想定を差し引いても、以下の疑問を抱く。
①クーデター側にとって、本当にクーデターするしかなかったのかが描かれない
→例えば女王に全てを明かすよう伝えたが拒否された、差別等に耐えるのが限界、とかそういう事情が明かされない。
②クーデターの目的は復讐なのか、真実の公開なのかよく分からず、あげく女王を殺してどうするのかも不明(謝罪? 補償? 関係改善? 真実公表? 差別・偏見の撤廃?)。
③おまけにクーデターをしたくせに自らの正当性を宣伝しない、各領主を殺すことで子女の所属する学院を敵に回す、というふうに積極的に自滅していっているようにしか見えない。例えば、アキナの母親に事情を説明して説得するとか王国全体に先んじて真実を公表するとか、クーデター側が有利に立ち回れそうな方法はいくつか思い浮かぶが、そういった方法を検討したのか実行したのかといった説明が全くと言っていいほどなされていないため、余計に自滅しにいってる印象を受ける。
④これらはクーデター側が、過去と現在まで受けた仕打ち:そこから自分たちはどうしたいのか:そしてそれをぶつける対象は何か(女王だけ? 過去の王国民? 現在の王国の人間全員?):そして自分たちの行いが何をもたらし相手側がどう反応するか(立場は悪くならないか):以上への認識・検討・洞察が作中では尽く有耶無耶にされているため(より正確に言えばライターがその辺りを考えていないため)だろう。
もちろんユズリハルートで描かれたように魔女への差別は根深いものということは示唆されている。しかしクーデターからの王国との全面戦争に至るには、読み手にもワンクッションどころか丁寧な説明が欲しい。「動機や原因まではともかく、何も知らない普通に生きている現在の王国の多くの人に被害を与えるクーデター蜂起」に至る理由付け・正当性のフォローに欠けている。
作中の交渉シーンで怒りを顕にするアキナ・リリに対して、主人公は軽率にも即座にミア・ユズリハを信じると口に出してしまう辺りも、書き手の都合を感じた。特にそれまでの作中の描写を見る限り、ミアはクーデターのリーダーの娘、ユズリハは女王(影武者であることは当然学院側は知らない)を殺し、クーデター側は両親たちも殺し、主人公は彼女らと一緒にいた。リリではないが、彼らに説得力のないことを言われても信じるに足るものがない、というのはその通りだろう。なにせクーデター側は己の正当性を宣伝してすらいないのだから。なにせ女王が影武者であることや両親が殺された情報自体が怪しいことは当事者たちにはわからないのだから。
それで主人公の「王国には隠していた理由が……」→リリ「ここで死にますの?」では、どう見てもクーデター側のやり方がまずいよね、としかならない。あれじゃ交渉になんかならないよとか、和解にならないならせめて殺さないようにすることだけが最後の望み、(by ミア)とか向こうが悪いみたいに言う筋合いは全くない。もうあの頃には戻れない的な雰囲気だけど、色々やるべきことやってたら絶対違っていただろう。
要するに、アキナら学院側と、ミア・ユズリハらクーデター側どちらの正しさもあるのだ!とやりたかったにしては、クーデター側の不手際やミスと思われる描写が多すぎて、両者の正しさが対等になっていないし、作中で即座に(主にブチ切れたリリやアキナから)反論されてしまっている。このときの私の正直な感想としては、「いやまぁ怒りや辛さからこういう行動に至ったのまでは理解はできるけど、そんなやり方じゃ最初からそうなるわ……」としかならない(まぁアキナが荒んだ目で里を焼き払う下りとかで、やっぱ憎しみの連鎖ならこれくらいやらなきゃな、よくやったライターとかガッツポーズしてる完全に無関係の無責任な立場の人間が言う噴飯ものの発言に過ぎないのだが)。ヒロイン同士が憎しみあって殺し合う展開がアライブ篇1週目で来た以上、クーデター側はいかに王国がえげつないかとか、いかに切羽詰まって蜂起したか等々、読み手すらも焦燥感と絶望感に掻き立てるハードモードを見せてほしかった。
まぁそれは置いておいて、実際クーデター側が早期に蜂起をし優勢になるアライブ篇終盤だと、学院に攻め込んできた際、クーデター側は自らの正当性を持ち出しているのだが、この時の大義名分は一部以外、別にここで語って問題のない内容だしそれを聞いたアキナは動揺し、激怒した一部の学生が却って問題を起こす、とそれなりに効いている。
2周目を経て、物語は序盤の異世界転移の場面に戻る。さらっとソーサレス篇個別ルート後でもクーデターは起こっていたことが語られたり、様々な分岐があったことが明かされるのだが、主人公の死の原因が狙ったように全部ユズリハなのが可笑しく、特に窓からユズリハに突き落とされるところで、失笑を禁じ得なかったし、ユズリハと逃げようとして突き飛ばされて死因:馬車のところは某科学ADVのアレを思い出す。
最終的な悲劇を避けるべく様々な方法を試す主人公の思いと姿勢は十分納得はできるし、記憶上の出来事の違いやメンバーや周りからの好感度・対応の違いに疑問を覚えるというのも、こういうものならでは。(レイヴでチームを勝たせないという選択から)あまり役に立たない助言をしたが思わぬ良い結果が……という展開が起こるが、この場面で主人公の動揺や疑問、歴史の修正力と言えそうな展開も併せて描かれることで、ある種の謎の提示になっているので違和感は少ない。
さて最終的に明かされる異世界やら主人公(コウキ)の真実自体はともかく、ループに見えたのは実は魂が目覚める前見ていた未来視であり、ロード・学院長と会話している瞬間こそ主人公(コウキ)にとっては現実だったということがようやく明かされる。より重要なのはその後ロードから語られる2018年の地球での出来事(ところで変貌した人々の立ち絵はもう少しなんとかならなかったのか)、マザーストーンの正体、これらの点も含めてそもそもこの作品はSFではなくそういう謎を解くものではないため、この説明には特に驚きもしなかったがさほど違和感もなかった。この点は、正直ああそうだったのか、程度。
ただロードが言う真相のうち、マザーストーンの正体と、主人公たちがマザーストーンのサンプルに選ばれている、マザーストーンのせいで主人公たちは殺し合う運命に、という部分は、少々無理やりな設定or 設定から展開を逆算したのか?と思った。
その後続く、ホウキに触るための試行錯誤云々も、妙にギャグ調だが余り面白くない。同じ展開をここまでに何度かプレイヤーに見せていることから変化球を出したかったのかもしれないが、真面目な雰囲気を崩してまでやる意味はない気がする。特にアキナとミアの場合、ソーサレス篇での主人公への好感度の違いが重要なのだが、私は主人公の態度が酷いせいでは、としか思わなかった。
ここでの主人公は、未来視でのことを覚えているはずなのに、やけに軽くて後先を考えない楽観的な態度や配慮に欠けた行動が散見される(例えば、ヒロインとの信頼を深めることを優先せずに、二言目にはホウセキに触らせてと宣う。攻略が上手くいかないと悪い意味でゲーム感覚な姿勢。ホウセキを触ることがこの世界で何を意味しているか散々聞いているにも拘わらず、人前でそれを常に懇願する。故意とまでは言えなくても、ユズリハを傷つけるような態度をする等)。せっかくシリアスな空気だったのだから、もっとできる限り誠実かつ丁寧にまた一から信頼を積み上げていくのが見たかったというのは一読者のわがままに過ぎないのだろうか。
この様はソーサレス篇序盤を思い出させ、イラつきさえした。この少し前の主人公との落差の激しさに読む気持ちが萎えかけた。ミアとアキナの態度云々も、少なくともアキナについては無駄尺だろう。ロードも何故かこの辺りでは、ユズリハに関わるな云々がしつこく、妙なアドバイスばかりだ。 ロード自身の過去でもあるコードの話では、コード自身の決意や覚悟・焦燥が描かれる反面、周りとの距離が開いていく様、クズノハという理解者を得るまでの幸福、それが崩壊する瞬間、名を捨てロードとなる過去→その後のユズリハに対する謝罪、は短いながらも十分読み手にも分かる形で書かれていたのだから、他のキャラの前世ももっといい感じに本筋に絡められなかったのだろうか。
幸いミアの出奔を期にシリアスな雰囲気は戻り、END分岐に入る。基本不満はないが、やはり主人公が自己犠牲を選ぶなら、自分の意志でロードの思いを継ぎ、未来のためにできることをするというう覚悟を、もっと早くから提示していて欲しかった。
しかしながらこれ以外は満足しているのも事実。同じく過去の記憶を持っていたミアが転生体であるのに対し、真の魔女ユーミが2018年からずっと不老不死の能力と洗脳を駆使して生きてきたこと自体も、ソーサレス篇のユズリハルートで伏線がしっかりあったので説得力があると思う。レイヴの決勝戦で座る女王が影武者で、対戦相手こそが真の女王だったという展開は良くできている。特に、ビクビクせずに生きようとか、「友人」の結婚式の場面の話、敢えて反乱軍に自ら情報を流し最後に裏切る・戦争で一騎当千(敵軍998人プラス友軍2人)を味わうゲーム感覚などは、ユーミの内面の中のある種の純粋さ・傲慢さ・下衆さを象徴していて好きだ。その後、閉じ込められた主人公が推論から言葉で事態の逆転を図るというのも見事。でも何よりもやはりユーミの独壇場が最高だし、主人公の好きな世界を作ったよ、と笑顔で言ってるのが純粋だけど斜め上の愛を感じる。でもここまで読むと、確かに主人公に都合が良い世界だったことは伏線でも、ソーサレス編序盤やアライブ篇のホウセキ云々時の主人公の態度はやっぱ素だった(≒書き手は特にこれを意識していなかった)ことが判明する。
そして始めから予想していたことではあったが、この作品のユーミとの最終決戦は、やはりライターのLEGIOん氏の担当作である11eyesの最終決戦とのデジャヴを(最後にある各キャラごとのささやかな分岐ENDも含め)感じてしまった。もちろんあちらが一人で戦ったのに対し、今作は6人で戦っていたなど細かい違いはたくさんあるのだが、善良な娘が堕ちたというラスボスの性質・最後は剣で(鉱)石を破壊というのがやはり印象強かったようだ。ヒロインの純粋さと落差を感じる堕ちっぷりにゾクゾクしたものを感じたのも似ている。
最後の最後、再びみんなでバーベキューをするシーンで締められる、というのも良い終わり方ではあるが、TrueEndのもはや当事者たちの思いが忘れられ伝説となりつつある中、一途に美由紀のことを思い生きてきた主人公(?)の哀愁漂う雰囲気がやはり一番だと、私は思う。
ここまで散々話の展開に文句は言ってきたものの、最終決戦前後からは良い流れである。アライヴ篇が終始その緊張感を保っていてくれれば……。
以上、長文かつ書きなぐりのような文章でお目汚し失礼いたしました。最後に少しだけ。
・テキストが読みやすいのは救いであり評価できる点の一つ。読みやすさとわかりやすさは何より大切。
・自分語りでしかないが、私は基本ユズリハかユーミのような見た目やタイプのヒロインが好きなのだが、クリア後はすっかりユーミ好きにされた。この辺りもまんま11eyes。消える間際の一言や、仮初でも愛した人間を捕まえていたときの姿が切ない。
・それはそうと、篤志と呼ぶと膨れるくらいの可愛さを持つ学院長(実質親友のTS)ルートまだ?