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bitter_snow_fragmentさんのCRYSTAR -クライスタ-の長文感想

ユーザー
bitter_snow_fragment
ゲーム
CRYSTAR -クライスタ-
ブランド
FuRyu
得点
80
参照数
890

一言コメント

アクション要素は難ありだが、シナリオは良い。久弥直樹の才能は枯れていなかった。特に2周目が面白い(長文感想では、ストーリーの内容にかなり触れています)。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

アップデート前に全クリ。アプデ前だと正直アクションゲームとしては苦痛なので、今から始める人はさっさとアプデしましょう(ダッシュ攻撃とかすらなかったので)。
もっともそうした点を差し引いてもアクションゲームとしては微妙な面が多い。ストーリーでも遠距離攻撃のできる777が加入するのが一番最後なので、それまでは近接3人で頑張らなくてはならない。硬くてのけぞらない雑魚相手は面倒。そして、レベルが上げるにつれチートスキルが手に入るのだが、逆に言えばレベルが上がりきるまでは辛い(レベル50あたりになると、零の魔法攻撃、777のビームというチート技が使えるのだが、それまでは本当に辛い。小衣さんは状態異常攻撃持ちのスキル以外は、どこぞのふっはっくらえ並に通常攻撃連打の方が強い。それでも汎用キャラの零、単発火力の小衣、遠距離夢想の777と使い分けができるのに対し、千は使いにくいキャラだった印象)。でもチートスキルを使えるのが、自分は最終週くらいでした。Easyでさっさとストーリーを進めるべきです。
こうしたアクション面での面倒くささは、周回の関係上何度も戦う遠距離型の中ボス(ブルバキ)で現れる。複数体で毎回現れ無駄に固く、常に距離をとって遠距離から魔法をぶちこんでくるため、めんどくさかった。同人ゲーやインディーズゲーでこういうのあるよなぁと思いつつプレイした。

しかし本作は、こうしたアクション面での難点を容易に覆せるくらいシナリオが良い。久弥直樹の才能は枯れていなかったと言えるほどである。シナリオは、プレイヤーの予想通りに進む点も多いのだが(耳の良い人ならノイズ加工していても声優からキャラの正体を察することができるだろうし、黒幕の動きもプレイヤーからは見えている)、それにも拘らず、こちらの胸に響くシーンが多い。
例を挙げれば、自分が殺めてしまったみらい(妹)を蘇らせるために必要な時間がなくなっていくに従い焦り始め、セレマ(飼い犬)や仲間にもぞんざいな態度をとっていくようになる零、自分と同じ日に生まれ共に生きてきたセレマの死期にすら気づかなかったことで悔いる零、死後も尚大切な人である零のために動くセレマのシーンは、涙腺を刺激する。1週目ラスト、自分自身の記憶や名前、大切な零のことすら忘れていくにも拘わらず、「大事な人」(零)の大切な人(みらい)を助け、名前を呼んでと言い、零のことを忘れないと叫びながら消える777のシーンも、私に強く刺さりました。

ここで一度補足をしておくと、1週目を終えると自動的に、周回プレイに入ります。序章のシーンに新規イベントが追加され、以降5章のセレマの死までカットされて新章が始まります。2周目の目玉はなんといっても、みらいの変貌ぶりでしょう。薄々正体をプレイヤーに悟らせていたこともあり、こちらも身構えていたのですがそれでも、千の母親が死ぬきっかけとなったバス事故を引き起こしたのが、みらいであり、千の母がアナムネシスとなり小衣の子どもを殺したという悲劇の連鎖のきっかけとなった事実は、十分衝撃ですし、みらいが口を開く度に痺れる台詞回しが飛び出してきます。
例えば
・アナムネシスが千の母であることを知り、葛藤の末、拳を振り下ろさずに許すことを決めた小衣のシーン(ここの辺りも非常に良いシーンです)から、アナムネシスを殺害し、開口一番「さっきからなにやってるの。目的が違うよね、私のこと追いかけてないと」と言い「私だけを見て、私のことだけを考えて、頭の中を私でいっぱいにして、そして私だけを愛するの。それが私を殺した償いなんだから。(中略)要らないものはポイッとしないとね。零お姉ちゃんここからは、ふたりだけの時間だよ」。
 とユーザーの期待に応え、ど真ん中150Kmの全力ストレートが飛んできます。この後も悶えるようなセリフを一々言ってくれるのですが、特に印象に残ったのは
・眼の前の光景に対して震える声で、これは何、何を見てるの、と言う零に対して「ただの現実だよお姉ちゃん」とさらり、とオサレな台詞で返す。ついでに「愛の哲学」というパワーワードを生み出す。
・追いかけてきた零に対して、ご機嫌とな調子で平然と「家に帰ったら何が食べたい?」「今日はポテトのフルコースでもいいよ」とはしゃぐ。
・姉にもう一度会うため両親や、バス事故の乗客や千の母を殺しておいて、アナムネシスに復讐されたことに「アナムネシスって本当最低だよね」といい、憤りに震える零に「最低なのはあなたよ、みらい」と言われたにも拘わらず、「そんなのいいから、早く言ってよ。帰ったら何食べたい」と返す。
・セレマが死んだことを告げた零に対して、「え、セレマ死んじゃった? やったぁ本当にお姉ちゃんと二人きりだ」と、うっとりと言う。
・戦闘前に、姉を一度殺してヨミガエリさせれば、自分に都合のいい「お姉ちゃん」にしようと言う。
・戦闘中も、「素直に死んでよ、お姉ちゃん、ヨミガエリさせてあげるから、ね?」と猫撫で声で言ったと思えば、(反抗されたことで底冷えする声で)「ほっぺたぷにぷにつんつんだけじゃ、許せないな」、などと言い出す。
(余談ですが、この辺りは声優さんの演技力のおかげで破壊力が増しています。楽しそうにみらいと、震える声で怒りや悲しみを見せる零の対比が非常によく描かれています)

この辺は私の好みも多分に入っていますが、Crystarのシナリオ上のピークかと思います。余りの破壊力にこちらをドン引きさせ、腹筋を刺激しつつも、みらいというキャラクターのヤバさと魅力の虜となってしまいました。

話を戻すと3週目の仲間割れルートも、プレイヤー側に黒幕の手口を全部見せる一方、次第に不協和音を奏でつつ崩壊していくパーティメンバーの姿、そして最終局面の憎しみの連鎖(つまり、アナムネシスに赤子を殺された小衣と、小衣に母を殺された千がまず殺し合い、暴走した777を手に掛けた零が、すべての現況であるみらいを殺した=妹の敵である千と殺し合い、それらすべてを笑いながら見る黒幕)でこちらを魅せてくれました。
そして、最終週ではこれまでユーザーの前に姿を見せていた零の双子の妹、久遠の目的が明らかになります。これまでの世界の記憶を姉に渡すためには、自らが倒される必要があることを告げ、最期には笑って姉の門出を祝する久遠のシーンは、名シーンだと思います(ゲームシステムや設定ともしっかり合致しているというのがまた憎らしい演出です)。直後に明かされる777の秘密も、1週目と相まって涙腺を刺激します。
そこからの展開は、概ね大団円なのですが、個人的にはここにはいくつかの不満があります。
・全体的に話の進行があっさり行き過ぎている(全員がこれまでの出来事の記憶を共有し知っているという事情があるため、そこをまた掘り返す必要はないのでしょうけれど)。一度アナムネシスを許した小衣が改めてどう思ったのかとか、これまでの出来事の直接的な原因であるみらいへの一同のスタンス、特に姉の零が何を改めて思ったのか辺りはしっかりとした描写が欲しかった。
・各キャラのトラウマを克服するシーンがカットされていること(千なら幽鬼の姫=みらい、小衣なら元恋人、777なら生前の自分)は、惜しい。戦闘が挟まるとテンポが悪いのだろうけれど、せめてテキストで描写してくれても良かったのでは。
・もう少し黒幕について描写が欲しい(一から十までいわゆる愉悦を求めてだったのか、それとも辺獄の管理者としての事情もあったのか)
・後日談がもっと欲しかった(みらいと別れるときの会話、アナムネシスを見送る時の小衣の台詞などは良かったです)。

以上のように最終ルートはかなり駆け足で、プレイヤーの脳内補完で補えるレベルではあるものの、やはり描写はもう少しあっても良かったかと(この辺りは良くも悪くも久弥らしいな、とも思いました)
しかし、ストーリー自体は水準以上の出来であることは間違いありません。

以下は、細かな評価点
・少し残念なところもある引きこもりで、生活力が皆無で、所々敬語になったり、素面でシュールなツッコミ(序盤の「無視ですかそうですか」なシーンとか)をいれてくる、ポテトが主食のポテトイーターの泣き虫メンタルの零ちゃん:それだけに、やさぐれているときの零が仲間に当たり散らしたり、癇癪を起こしたりするのは良い対比です。
・併せて普段は、「恨むなら恨んで」と敵に言う零が、守護者召喚時に切羽詰まって悲痛な感じで、妹のために敵に「死んで」と言うのも、印象に残ります。
・セレマを撫でるシステム:セレマが死んだ時、クッションの前でただ佇む零は悲しくなる。それだけに全クリ後、またセレマを撫でられるのは嬉しい。
・要所要所で姉の残念なところをイジる妹のみらい:彼女はダメなところも含め姉のことを大切に思っているのだろうが、歪んだ愛情を持っている面も多々ある。その一方、自分の思い通りに行かないと姉すら殺そうとするのは、まさしく魅力あふれる悪役だと思う。
・777の健気さ:1週目もそうだけど、最終週でも本当にいい子。
・小衣さんのいい意味でのブレなさ:それだけにアナムネシスを許すシーンが映える。
・なにげにハードモードに置かれている千:主にメンタル面で辛い目にあい過ぎだと思う。
・思装を泣いて手に入れる仕様:零の性格の良さ(人の良さ? 優しさ?)が良く表れている。
・マイルームで、結構喋る零(思装関連の台詞を考えるとかなりの読書家で、哲学とか思想好き? 日記の文章も見る限り、学校には言っていないが頭はかなり良い?)
・声優さんの演技:零、みらいがやはり頭抜けているが、久遠の演技も抑揚のない喋り方にも拘わらず感情を良く表せていると思いました。
・やなぎやぎさんのOP曲とED曲
・ウエダハジメさんのイラストが挟まれるシーン:回想やキャラの掘り下げとして使われており、強く印象に残った。

以下、残念に思った点を箇条書します。
・死者回想録を埋めるのが面倒:重要な設定も触れられており、このへんはもう少しユーザーフレンドリーにしてほしかった。特にみらいが養子である(千とは異母姉妹?)という設定は、ストーリーに組み込んでも良かったのでは
・一度全クリアすると、セレマを撫でるときの「セレマはいいこだねー」や「わしゃわしゃわしゃ」が聞けない
・携帯での電話機能が、ストーリーを進めるための機能でしかない。それとは関係のない会話を何パターンか用意しても良かったのではないか。
・ストーリー回想機能も欲しい。
・零の元クラスメイトの扱いが悪い。彼女にもフォローがほしかった。
・基本的にプレイヤーに予め開示される情報が多い(黒幕の暗躍等)ため、プレイヤーがある程度シナリオが予想できる面が多い。それでも物語をよく魅せることができてはいると思うが、この点は人によって評価は分かれるだろう。例えば1週目ラストでは、小衣と千の対立だけを見せて「なぜそうしたのか」は不明なままにするとか、777の記憶が消えていくシーンを見せてから、メフィス・フェレスたちの助言のシーンを入れるとか。
・上にも書いたが戦闘はかなり調整不足の印象を受けた。


最後に一言、久弥直樹の才能が枯れていなくて良かった。