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bitter_snow_fragmentさんの月あかりランチ OZ sings, The last fairy tale.の長文感想

ユーザー
bitter_snow_fragment
ゲーム
月あかりランチ OZ sings, The last fairy tale.
ブランド
EX-ONE
得点
80
参照数
273

一言コメント

常夜の学園で繰り広げられる優しいお話。プロローグや雰囲気、舞台設定、魅力的なキャラクターたちでとても惹きつけられる話だけに、最後の最後でやや失速し着地が微妙な感じがするのが惜しまれる

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

プロローグで、主人公たちは見知らぬ場所で目を覚ます。どうやら自分たちは別々の世界からここにやって来たようで、ここは学園のようである。このプロローグの始まりから終わりがとても面白い。登場人物の紹介と世界観・舞台設定の開示が行われると共に、星影学園・魔女・常夜の世界・(若い頃の)もうひとりの自分(ハル)の存在といったプレイヤーを引きつける要素も示されていきます。プロローグの最後、西野さんが「起きろよ、星影学園」と言った瞬間、学園が目覚めるシーンは手放しに素晴らしいと言っても過言ではありません(ある意味、この作品のピークはプロローグにあるというのも間違いではありません。プロローグとその後は微妙に物語の雰囲気が変わることもあるためです)。

この作品はプロローグ終了後、各ヒロインを予め選択することで個別ルートに入ることになります。総じてこれらのルートで上に挙げたこの作品に存在する謎に迫っていき、朧気ながら答えが示されます。
しかしながらアキのルートは予めロックされているため、彼女のルートがいわゆる真ルート的な扱いであることは一目瞭然です。ただプレイヤーの多くは、そこまで行く前に大体の話の筋に気がつくと思います。
まず各ヒロインルートに対する感想としては
・フユ:一番始めに選択しました。常識も経験も異なる世界からやって来たヒロインとの交流及び恋愛という点では一番上手く描かれていたシナリオです。言葉は悪いですが、彼女の願いやシナリオの展開的にも他のキャラを食っているところがあります。正直アキよりもフユの方がメインヒロインらしいキャラだし、扱いとしてもそういう位置づけのように思ったことが何度も(最初に主人公が出会ったのもフユですし、True Endで主人公と同じ教師になっている辺り特に)。ただ彼女のルートを最初に選ぶとここで大体重要なことが分かってしまうので、他のヒロインのルートに余り驚きがないという。(一応アブリルも戦えるのだが)基本彼女が戦闘力では特化しているため、その意味でも目立つ。

・夏乃:(先にフユのルートをやった後だったのでなおさら)ランチタイム時のアズマさんが話の分かる感じな印象。キャラクターとしては十分立っているし、賑やかしや自らの才能を生かしていく描写がルート以外でも結構あった。ただ彼女のルートはやや微妙というか急な感じがしたのも事実。

・アブリル:個別ルート以外の出番で魅力を上げるお人。北山さんとアブリルとの会話やらは好きなのだけど、肝心なルートが雑なループものだという印象を受けた。繰り返しになるが、個別ルート以外で出てくるアブリルは本当にいいキャラしている。少女としての側面と立場のある人間としての側面を持ち、普段は暗い面を見せずに明るく振る舞う親しみやすいお姫様。

・アキ:コンプリート後、プロローグの主人公に対する「お兄さん」呼びとその後の「先生」呼びの意味に気がつく。プロローグや他のヒロインのルートでも常に主人公の味方だが、主人公が鼻の下伸ばしていると冷たくなるタイプ。いわゆる大人しめのキャラだが、主人公の精神的な支えになろうとし主張もするので、印象にはしっかり残る。これはとても良いと思う。
最後に控えているだけのポテンシャルと面白さを持ったシナリオに思える。特にアキがすべてを思い出してから、自身の目的のためには、ハルすらも退けようとする下りが強く印象に残っています。彼女のルートでは、今まで(なんとなくプレイヤーが察しつつあった)謎や伏線の答えが示され、各ヒロインの願いについてもしっかりと言及され消化されていると思います。

他には、
・魔女たちやその後学園にやって来る人々も卒業させようと決意する主人公
・END後に元の世界に戻った後、故郷をより良くするため・また会うため頑張っているヒロインたち(特にフユ)のシーン
・基本的に各ヒロインルートでは、そのヒロインに対応した魔女しか活躍しないのに対し、このルートでは西野さんVSアズマand北山さんが見れること。

などが印象に残っています。
また各ヒロインルートで途中フェードアウトしていった若い頃の主人公(つまりハル)についても、アキルートで正体や行動原理についてしっかりと説明がなされていた、というのも評価点です。
しかしその一方でアキルートは終盤がやや駆け足という印象を受けました。とりわけラストシーン、主人公を待ち望むアキの元に主人公が現れるというのはこの作品の場合却って描かない方が良かった気がします。前述のように再会までそれぞれの世界や場所で頑張るヒロインたち、魔女たちや新しく学園にきた人たちも卒業させようと奮闘する主人公が描かれていたので、その後主人公がアキの元へ帰還する場面が出てくるとせっかく醸し出せていた良い雰囲気、良い終わり方というのを霧散させてしまったように思えます。自分としては、その後の主人公の奮闘や魔女たちとのやり取りを期待していたというのもありますが、やはり主人公と魔女たちが学園に残るシーンとヒロインたちの日々、で終わった方が良い終わり方だったような気がしますね。
付け加えれば星影学園・ランチタイム等の細かい設定についてもやや消化不良な形で終わった印象です。魅力的な舞台設定であり、シナリオにメリハリをつけられる要素であっただけに残念です。特にランチタイムで魔女が凶暴になるという設定は、基本西野さん以外に余り意味はなかったようにも思えます。

その他評価点
・魔女たちのキャラ:4人共いいキャラをしているが、貴重な男性キャラでギャグもいい大人役もやれる北山さんがいい清涼剤。
・キャラの過去とかに言及されたとき出てくるイメージビジュアル的なCG(フユでいえば雪と軍服、アキなら本棚と蝶)
・主人公:いろんな意味で良キャラだと思う。応援できる良いやつです。


総じて、キャラクター設定、舞台設定などは良い雰囲気であり、プロローグで読み手を惹きつけられる面白い作品です。しかし全体的にできの良いフユとアキのルートに対して、夏乃とアブリルの個別ルートがやや微妙なこと、アキルートのラストすなわち物語の着地がやや微妙に思えるというのも無視できません。評価のできる魅力的な要素が他にたくさんあるだけにこの点が非常に惜しい。