ある意味、ライターである御厨みくり氏の本領発揮な作品。長文ではストーリーについて思ったことを色々と。
まず森と湖に囲まれた陸の孤島で記憶喪失の人々が共同生活を送るというシチュエーションの面白さ。周りに信用が置けるかもわからない中、手探りで謎に迫っていく感じは出せていたと思います。
しかしながら、物語のピークというものは序盤から共通ルートに入る辺りまでかなぁとも感じました。具体的には、タクマの死とそれを「なかったこと」にする周りの反応、それらへの主人公の疑問・怒りといったくだりは非常に面白いです。この辺りは早く続きを、とばかりにテキストを読み進めていました。
一方、個別ルートについては残念ながら「真相に近づいていくルートほどあまりおもしろくない」と感じてしまいました。個別ルートを振り返ると、一番面白かったのは、館の秘密等よりも人間関係の悲劇・すれ違いに焦点があたる双子ルート、あるいは本筋にはあまり関わらない灰奈ルートでした。逆に、メイン格であるみちると知紗のルートは普通だな、と。先に紡ルートとかをやるとある程度館の秘密等に検討がつくせいで驚きが少なくなりますからね。
以下では思ったことを何点か、コメントします。
・主人公の親、とくに母親が酷すぎる。期待していた兄が死んで弟(主人公)に兄のフリをさせ、弟が耐えきれずキレたら館に放り出し、「いなかったこと」にする。これと和解できる主人公は器が広いなぁとプレイ中は思ってしまいました。
・登場人物は皆たいてい、親を始めとした家庭での問題を抱えています。ライターの御厨みくりさん作品では、箱庭ロジックでも束縛・抑圧の象徴としての親というものが多く出てきますが、この点は翠の海から続いているテーマなのでしょう。
・知紗って、名前の割に一番、おバカなのでは? と思いました(ex. 放火魔、いくつかのルートでの聞き分けのなさと面倒くささ)。けど、彼女がそのように行動する理由は一応理解はできるので、半分引きつつも「まぁそうなるよね」感があるという。真希奈がある意味常識人故にあのような結末に至ったとすれば、知紗は楽園に外見上適応できるほど賢いが故に壊れるときはああなる、といった感じ。しかしそれも見方によってはとてつもなく愚かしく見えてしまう、というのは私の読み取りすぎでしょうか。中途半端に賢すぎるせいで、楽園に適応もできず、かといって何かを変えるほどの力があるわけでもない。正直、一部ルートで彼女が荒れる理由もわからなくはありません。
・期待していたものとの違い?
実はこのゲームに興味を持ったのは、OPでゲス顔をするみちるさんを見たときでした。そのため、共通ルートのとあるシーンで、みちるさんが悪い顔をしつつ、主人公を慰め「説得」する下りは、滅茶苦茶テンションが上りました。ただそういうノリが最後まで続く作品ではありません。なのでそういうのを期待するとソウジャナイ感を多少味わいます。途中まではサスペンスなのですが、後半はそうではないのです。
ただ、そうした個人的な好みを差し引いても、物語が少々あっさりしすぎな感じはします(箱庭ロジックとかも見る限り、細かい描写等よりも、雰囲気を重視するのがライターである御厨みくりさんの傾向かな、と思いました)。しかしながら筋が破綻しているというわけでもなく、決して理解のできない話や読みてが置いてけぼりにされる話ではありません。雰囲気を重視した作品と評価するのが適切でしょう。しかしその一方、BADENDの方がきれいに終わっているのではと思う場合が多かったです。
例を上げれば、タクマのことを忘れられず復讐心に取り憑かれる、みちるに殺されて初めてお互いが知り合いだったことに気づく、マキナに取り憑かれ?水の中に引きずり込まれるシーンなどですね。ユーザー的にもタクマの死がターニングポイントとなり、主人公に一番なついていたキャラが殺されるショックというのもあるため、主人公がタクマの死を引きずらなくなる辺りで少し寂しさを覚えたりもしました。逆にタクマの死を引きずってる時期は、感情移入がとてもできます。
・みちるルートについては、個々の話の流れ自体は良いのですが、肉付けが薄いと感じました。端から見れば壊れているようであり、壊れかけている中で楽園の管理者として生きてきた彼女の内面、周りとのギャップ、これまで犯してきた罪。それらについては、話の流れで(あるいは他のルートでも)プレイヤーは当然感じ取っており、脳内補完できるものではあります。しかし、プレイヤーが脳内で織り込んでいる事情、想像している彼女の心情等について、作中で語られている以上にはっきりと描写し、問いかけ、是非を下すことをやっても良かったのかな、と思います。蛇足ですが、ライターの御厨みくりさんのシナリオ自体に、プレイヤーに細かいところでは内容補完を委ねる傾向があるのかな、とも思います。
しかしながら、どこまでが正常でどこまでが壊れているのか(もはやプレイした人間にも明確に言語はできないが)曖昧な所を描けているという点で、みちるというキャラが立っているのは間違いありません。そういうキャラをなんだかんだ作れるというのは、このライターさんの長所です。
・優希と灰奈
清涼剤であり、常に主人公の味方であるこの2人の安心感。この2人がいないと考えた場合、櫂にとっても読み手にとっても相当辛いことは間違いない。
・紡
御厨みくり作品伝統の、さり気なくエグイことをする無自覚で無邪気な幼女の先駆け(もっとも紡が無自覚・無邪気・幼女かというと怪しいのですが)。夜間屋敷を寝ずに監視し、楽園に適合できないものをハサミで殺すという行いは十分エグイ。