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asteryukariさんの久遠の彼方の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
久遠の彼方
ブランド
信馬鹿(信じた馬鹿が俺だった)
得点
88
参照数
426

一言コメント

敵味方関係なく皆で一つの輪を作っていく光景が美しく、そんな世界に浸っていられる時間は無論、幸せだった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

密かに待ち望んでいた信馬鹿最新作。闇鍋企画やHeartiumとは異なり、続きモノではなく完全新作。それだけでもう気分は最高潮で、単体作品でどこまで魅せてくれるのかと期待に胸が高鳴った。そう、期待のハードルはかなり高めに設定していたはずだった。にもかかわず本作はまるで嘲笑うかのように私の期待を大きく超えていってくれた。


物語は勇者が魔王を倒し人類が覇権を握っている時代。魔法が全てという価値観の貴族社会を舞台にしている。そのため最初から国と国との対立関係なんかも生まれている。まあ穏やかではない幕開けだった。

ストーリーはトウガの王子であるクオンを中心に展開していく。クオンは端的に言ってしまえば完璧超人で戦いは勿論の事、外交も得意のもはや敵なし主人公なわけだが、そんな彼が夢想して全て終わりにはならないのが本作の面白いところ。無論、彼がきっかけで物事が解決に向かうことは間違いないのだが、どの問題も根が深すぎてすんなりとは解決できないのだ。

物語が進むごとに皆が団結どころか、物語が進むごとに新しい敵対勢力が登場し、それらを宥めたと思ったら、以前戦いを仕掛けてきた連中が好機とばかりに攻めてくる。そんな繰り返しで、まさに戦争の厭らしさと恐ろしさを教えてくれる。

凄いのが決してクオンサイドにのみ読み手の意識が集中しない点で、彼らと対立するコクト、それから魔族にも理解が生まれてしまう点。というかむしろ状況によってはトウガに不満を抱いてしまう場面もあって、本当に各々の陣営の、一人一人の登場人物たちが自らの意志をもって戦っていた。これがまず一番に良かった点だと思う。それぞれの言い分をもって、それを通すために武器を手に取る。そうやって起きてしまう戦いは悲しくもあり、熱くもあった。


私の中で面白さがぐんと伸びたのは具体的に言うと10話の「深淵からの祝福」であり、クオンが魔王だと発覚し、監禁されたあたりである。これまで苦労しながら積み上げた人間関係が見事に砕け、プレイヤーとしても見ているのが辛い展開になった。けれども本当に心から分かり合えた仲間だけは、彼を助けてくれる。これが凄く信馬鹿らしくていいなと。

信じる者もいれば信じない者もいる。人の心は簡単に変わってしまうのだと、故にこんな戦争が起きてしまったのだと。まさに納得のいくリアルな人間関係が描かれていて実に面白かった。

で、魔王という立場でありつつ人延いては国の信頼を勝ち取り、再度大きな勢力を作っていく…で終わりではないのが本作の凄いところ。その辺の物語であればそれで20話で完結に向かうところを、本作は20話でまた絶望の底へと叩き落してくれるのだ。しかもいきなりの急展開ではなく、双子の設定を上手く扱った面白い展開で、起きている事態は悲劇以外の何ものでもないのに、プレイヤーとしては大興奮だった。なんだこの作品は、ここからようやく始まるのかと。

そして、一息ついてタイトル画面に戻ることでハッっと気付くわけだ。カナタがいないことに。こういった仕掛けがあるとは思ってもいなかったので、夜中にかかわらず大きな声を出してしまったし、本作が恐ろしくなった。

そうやって気持ちが高ぶりながら進める21話が面白くないわけがなくて、もうここで完全にどっぷり浸かってしまったと思う。無論、21話に至るまでも睡眠をとらず20時間ほどぶっ続けでやっていたわけだが、シナリオもゲーム性も最高な作品だと認め始めたのはこの辺りだった。


500年前のパートは話数にしてみれば一話で終わってしまうのだが、一話で終わったようには思えないほどに新規キャラクター達が魅力的に描かれていた。すべての物語を読み終えた今でもなお彼らの存在は強く記憶に残り続けているし、サブイベントで彼らの話が用意されていると自然と口角が上がった。こんな体験はなかなかない。

現代にクオンとアシュレーが帰ってくる際も、彼らが帰ってくることで再び時が動き出すのではなく、彼らがいなくなった時間もしっかりと描かれているのは流石の一言。メリを筆頭に悲しむ者もいれば、次の戦いに備えて技を磨く者もいる。そんな光景をしっかりとパートとして用意してくれたのは嬉しいと言う他ない。キャラクター達の全てを余すことなく見せてくれる、作り手のキャラクターへの愛を感じた瞬間だった。



人と魔族の全面戦争が始まるとゲーム性も更に向上して、適当に進めていると先行し過ぎたお気に入りのキャラクターが魔族の一撃で天に召すなんて場面もしばしば。逆にユナイトやユナイト級の火力をもつキャラクターで魔族をワンパンできたりもするわけで…それはもう超楽しかった。

良かったのは魔族が全員敵というわけでもなく、シロのように魔族の中でも味方になってくれる存在がいた点で、本当に流れで戦っている者などいないのだなと感服した。カルディナたちはあくまでアスパルト派閥なのだと、そうして敵の敵は味方な展開を作っていくことで物語としても一層盛り上がっていたと思う。一部、クオンに懐柔されてしまったメス魔族もいたが、そこも含めて自分好みだった。


29話「殺花」から始まるシナリオも、ここにきて更に広げてくるのかと笑ってしまうような作り込みで、まだ作品の世界に留まらせてくれることに感謝しながら読み進めていた。特定のキャラクターに感情移入しているが故の不満もいくつかあったが、物語としては綺麗に幕を下ろしたのではないかなと。それにしてもラスト2話でそれまで敵対していた魔族側のことまで好きにさせてくれるのは…凄いとしか言えない。


シナリオ、ゲーム性共にSRPGとして高水準に仕上がっていた。やっぱり信馬鹿は最高だと、プレイ後に叫びたくなったのは私だけではないはず。次回作も期待しています。

さて、ここからはお気に入りのキャラクターについて個別にプチ感想を述べていこうと思う。頑張って10人に絞った…。


●ジャレビ
マスターニンジャことジャレビちゃんはもう本作をプレイした者ならば誰もが愛し、癒されてしまうようなムードメーカーで、彼女が場を明るくするたびにこちらの頬も緩んだ。持ち前の明るさで誰とでも仲良くなってくれるので、会話イベントが毎回楽しみだった。
中でもカナタ・シュナ・ジャレビの初期メンの関係が実はかなり好きで、だからこそ最後のお別れは嬉しかった。三枚の手裏剣は曲がらない!つまり今が最強!


●パーキン
男キャラの中では圧倒的ナンバーワンかもしれない。はじめは堅物そうな伽rかうたーに見えたが意外と人情に厚く、それが10話で爆発する。あのシーンできっとみんな彼を好きになる。ゲーム面でも非常に頼りになるのが嬉しい。
脇役で終わるかと思いきや、クオンとはやはり特別な関係で、彼に群がる雌の誰よりも結婚相手に近かったと言っていい。エピローグのクオンとやりとりも大満足で、何より「親友」と呼んでくれたのが良かった。本当にかけがえのない友だ…。


●ハルヴァ
コクト1の美人ことハルヴァちゃんは、序盤こそマスコット的な可愛さが魅力のキャラクターだったが、物語が進むごとに人間味のあふれたキャラクターになっていってくれて、気付けば彼女の視点で戦況を見渡すこともあった。レヴァ二のことは私も気に入っていたので、終盤はまさに彼女と同じ思いで戦っていたと言っていい。
故にモヤは残ってしまうけれど、復讐に囚われず前を向くことを選んだ彼女は、それはそれで魅力的に見えた。たまに見せるお姉ちゃん面がまた可愛い。


●パステル
500年前のトウガの姫。もうこの子の存在が現代に返ってきてもずっと頭の中に引っかかっていた。これまでとは少し角度の違うツンデレさんというか、好みドンピシャのツン具合で別れのシーンではちょっと泣きそうになった。サブイベントでクオンに再び会うための策を模索するシーンが凄く好き。手紙の件は勿論泣いた。


●ヨウカ
ファーブルトンの第三夫人にして、シロの育て親。かつて最強の剣士と呼ばれた女性が強く優しき母親をしている。そんなところに最初は惚れたのだが、読み進めていくと、どうやら違うことがわかる。今も昔もスパルタ大好き戦闘狂の女性だった。シロの件も愛情を注いで育てたというよりかは、勝手に懐いたらしくて笑ってしまった。サツカを見ても「最高の戦士になる」とか言い出す始末。・・・素敵な女性だ。


●カルディナ
アスパルト大好きご夫人。本作に出てくるご夫人たちはタイプのキャラクターが多いが、その中でも一番は彼女になるかなと。なぜなら彼女が最も一途で真っ直ぐな乙女だから。ハツナギも大概だが、子供がいない分カルディナの方が想いは大きく見える。いつも気丈に振る舞っているからこそ、あの再開の大泣きは効いた。なんだ、やっぱりめちゃめちゃかわいいじゃん貴女。


●スターアニス
終盤に出てきた独特な性格と見た目をした魔族。出てきた当初はポッと出感が強くて、敵として戦っている時も無駄に硬い筋肉マンくらいの印象しかなかったが、ネタキャラ的扱いと、29話の発言でガラッと印象が変わった。彼もまた成り行きで戦うような男ではなかったわけだ。実に美しい。


●ナツメ
クオンが口説いて仲間にした淫魔の魔族。登場時はエロいしか感想がなかったが、口説かれてクオン心酔組に入組したらもう簡単に狂ってくれた。子作りに強い憧れを抱いており、公共の場でも緊張感のある場面でも常に子作りの話題ばかり出している。極めつけがチクロとの会話。

「ええい、ナツメ!!前に出ろ!魔族の誇りにかけてステゴロのタイマンじゃ!!」
「す、捨て子の怠慢…!?」
「こ、子供を捨てるなんて許せない…!!」
「まで、誰もそんなこと言っておらん…」

腹が捩れるくらい笑った。


●ミント
暴走巫女ことミントさんはギャグの塊みたいなキャラクターで、クオン心酔組の中でも随一の変態っぷりを見せてくれた。夜這いをしかけようとしたり、ナチュラルにクオンとの未来、果ては子供のことも考えていたり、クオンからもらったものを家宝にしたり…。コクト舞兵士が言っていた通りの「覚悟の決まってる危ない人」。個人的にクオンがいない時に彼の席でくつろいでいるのが一番キモくて最も好きだ。


●ミルフィーユ
メリ様心酔組(所属一名)で、とにかくメリ様第一主義。それ故、女性組の中では珍しくクオンに敵対心を剥き出しであり、最終的に彼の事は「全身漂白」と呼ぶようになる。メリを怒らせて笑顔で殴られ、クオンを罵倒しまくる彼女がツボでツボで、彼女の会話イベントが発生するたびにセーブしていた。メリもなんだかんだで本音を話したいときはクオンではなく、ミルフィーユを誘って話すのがいいなぁと。にしてもお酒処女とかいうワードはキモすぎる。最初から最後までブレない変態で、私のお気に入りなキャラクターでした。



振り返ってみると本当に魅力的なキャラクターだらけの作品だった。

たくさんの喜びと幸せをありがとう。