作りがとても丁寧で、読み進めるほどに登場人物達に対して愛着が湧いていく。故に没入感も凄まじくて気付けば涙を流してることも…。終盤におけるテンポは若干速めだが、かなり自分好みの物語だった。
毎度コミケシーズンになるとしっかり新作を出してきて、しかもありえない価格で販売してしまうすごいサークル「幻創映画館」さんの新作。今回の舞台となるのはタイトルにもある通り少し未来の、人工的に造られたヒトが人間を支えている時代。新しい職場で人工的に造られた少女を育成する仕事を任された主人公が、社会に疑問を持ち始めることで物語が展開していく。
序盤から中盤にかけては和やかな日常が流れていくといった具合で、ユーやマウ、それからリディと親密な関係になっていく様が描かれているわけだが、これが読んでいてとても心地いい。ユーやマウが愛くるしいのは勿論、リディもただの上司ではなくしっかりヒロインポジションで話が掘り下げられていくのが嬉しかったなと。文章だけでなく改装でしっかり過去について語り、その上で親しい関係になっていく。その丁寧な進め方を見て本作が凡作で終わらないことは容易に想像できた。
サヤについても元々この手のキャラクターに弱いのもあって、印象はすこぶる良かった。ユーやマウのように積極的に主人公とくっつこうとはしないけれど、あの空間には欠かせない存在だったのである。
といった具合で読めば読むほどキャラクターに愛着が湧く作りになっていたので、中盤以降の容赦のない展開には驚かされた。驚かされたというか、本音を言うとまあ見ていて辛かった。実は密かに気に入っていたクラウス所長があっさり殺されてしまい、サヤが敵対し始めてからはもう目を覆いたくなるような場面ばかりで、とんでもないなぁと。私のように前半の日常パートで思いを募らせていたユーザーであればあるほど効く展開だった。
「皆様と同じように涙を流したかった」
サヤの最後の一言が本当にもうしんどすぎて、一度読む手を止めてしまった。人に造られただけであって、マシナも人間と変わらない。けれど、やはりそんな社会があってはならないと痛感させられたシーンである。ここにきて初めてライの心情を理解できたのだと私は思う。命を賭してまで彼女が叶えたかった夢を私も実現してほしいと心から願った。
エピローグの「続く世界と生きるヒトたち」では三人のその後が語られるわけだが、小夜との再会から物語の終わりまで本当にパーフェクトだった。小夜と再会した際、私は少し心配してしまったのだ。ユーとマウは助からなかったのか、ここにきて小夜の方をとってしまうのではないかと。確かに主人公にとって小夜は最も重要な女性であるが、ここでくっつくのは違う。そんな風にドキドキしながら読んでいたのだが、決してそんなことはなかった。自らの名は伝えない、その正しすぎる判断に思わず舌を巻いた。
それでもって私が願った通りのユーとマウと三人で最期を迎えるだが、その時の台詞もまた格別。
「あなたと一緒にいる場所」
「それが、わたし達の居場所なんです」
まさに満点の回答を叩きつけてくれて、気付いたら画面が滲んでいたし、最後の一文を見て号泣してしまった。世界に焦点を合わせず、彼女たちがどうだったかについて語る。その素晴らしい判断に感謝したい。
題材を見た時点で好きな作品になるとは思っていたが、まさかこんなに胸に来る物語を用意してくるとは思っていなかったので、読後はしばらく何もできなかった。幻創映画館の作品は一通りプレイしたが、その中でも一、二を争うほどに自分好みの作品だった。自信をもってそう言える。
現在は2025年公開予定の長編新作を製作中とのことで、こちらについても期待が大きく膨らむ。毎度思うが一人で作っているのが本当に凄い。これからも名作を出し続けてほしいものだ。