かりそめの仲間達と始まった冒険譚は時に切なく、しかしながらやはり愉快なものであった。あの五人で過ごした時間をいつまでも覚えていたい。
本作はどんな相手でも意のままに操ることができる魔術「プロナント」を使い、旅をしていく作品であり、なんと仲間までもがプロナントの力を使って生み出した関係という。絶対に後で拗れるじゃないかと思考が廻った時にはもう先に待ち受ける物語が楽しみで仕方なくなっていた。
と導入部分で既にユニークさが目立っていたわけだが、本作が真にユニークなのはルートの分岐方法である。死にかけの人を助けたり、仲間達をたいせつにしていれば善人ルート。窃盗や殺しを繰り返したり、仲間達の凌辱風景を楽しんだりすれば悪人ルートに物語が分岐していくのだ。これが個人的に凄く良かったところで、二周目に入っても飽きずにプレイし続けることができた。
一周目はまあプロナントの力を試したかったり、魅力的な少女たちの凌辱劇が見たかったのもあって、もうずぶずぶと悪人に染まっていった。悪人か善人かによって利用できるショップ及びショップの品揃えが変わるのも凝っていて面白い。悪人ルートの終着点はとても切なくて、なかなかにくるものがある。あんなに楽しく賑やかな時間を過ごしていたのに、拒絶されて終わりだなんて....終わるに終われない。
きっと初めに悪人ルートを辿ってしまった誰しもがそんな想いを胸に抱えながら二周目に入っていくのだと思う。今度こそはお前らと一緒に旅を終えたいと。
善人ルートは良い事をするというよりかは悪い事をしないように気を付ければ入れるので、難易度的な意味では全く難しくない。目の前の果実に手を出さなければいいだけなのだ。終盤の流れもかなり変わって、台詞が変わるだけでなく、戦う相手やダンジョンそのものが変わっていくから驚いた。
「強い力を持てば人は歪む。それを跳ね除けるのは強い意志が必要だ。あんたは大したもんだよ」
上記は名もなきモブキャラの台詞であるが、こんな風に様々なキャラクターが善人であるプレイヤーを祝福してくれるので達成感がかなりあった。一周目に悪人ルートを辿っていたのも大きいのかもしれない。そういった意味でも本作は悪人ルート→善人ルートの純にプレイするのがマストだと感じる。
また、50階に待ち受ける裏ボス的存在「最古の蛇」を倒すことで特殊EDへと派生できるわけだが、これがめちゃめちゃ良かった。何が良かったかなんて言うまでもないが、やはり「五人で冒険」という結末が見られるのは嬉しい。
誰か一人特定のヒロインと幸せになって終了というのもまあ良いのだが、自分が恋焦がれたのはやはりあの五人でわいわいやる空間そのものなのだ。変態ムーブをかましてドン引きされたり、リーダーなのに不遇な扱いを受けたり…けれどそれを見てヒロイン達が幸せそうに笑っている。そういった光景を愛おしく思っていたのだ。
なのでキャラクターに関して言えば全員好きなわけだが、その中でもイリトは抜けていたかなと。というかあの物語の運びを見て彼女を好きにならない者などいるのだろうか。
「お前にとって、どれ程無価値に見えようとも…私がここまで来られたのは…」
「あの上から目線でいけ好かない男と…あの我儘ですぐ楽しようとする、どうしようもない姉妹の助けがあってこそ!!」
グラシャラボラスとの一戦で彼女が放った言葉はまさにユーザーの求めていた答えであり、彼女の事を一層好きになった。脳筋でおバカな彼女だけれど、だからこそ真っ直ぐ想いを言葉に乗せることができる。あの言葉は彼女にしか言えなかったなぁと振り返るとしみじみ思う。
全体的に見れば度肝を抜くような展開があるわけでもなく、また感動に至る場面も少ないが、五人で旅することの喜びは有り余るほどに堪能できた。加えてバトルの難易度バランスも丁度よく、先にも述べたマルチエンディングシステムなども含めると、やはり良い作品だったと思う。楽しい冒険をありがとう。