統一感なんてまるでない、そんな人々が集まったからこそ各々の心の動きを目で追うのが楽しかったのだなと。核となるストーリーも大変私好みで、あっという間に時が過ぎていってしまった。
信馬鹿さんの作品という事で、前作の闇鍋企画がハイクオリティな作品だったのもあり、次はどのような冒険を見せてくれるのか、またどんな魅力を持ったキャラクターが出てくるのか、ありとあらゆる点で楽しみで仕方なかった。
初めてみてまず驚いたのが、システムそのものの変わりようで、闇鍋企画までの作品とは比べ物にならないくらいコンフィグが充実しており、また操作についてもマウススクロールで文章を読み進めることが出来るようになったりと利便性がかなり向上していた。
加えてSRPGパートについてもグラフィックがガラッと変わっており、序盤はそれに戸惑ったりする瞬間もあったが、基本的な戦闘システムが変わったりしたわけではないのでそこはホッとした。ただ、これは恐らく慣れによるものだが、出撃前の編成及び武器購入等は前作の方がシンプルで操作しやすかったかなと。
また、戦闘についても魔法の強みでもあった範囲攻撃がほとんどなくなってしまったり、武器に個性がなかったりと不満もいくつかあったりした。しかしながら、それでも充分過ぎるくらい面白く、そして苦戦を強いられた。
序盤はまあ慣れてるからとドヤ顔を浮かべながらサクサクと進めることが出来たのだが、段々と危ない場面がちらほら出てきて、そのうち全員生存したままでクリアするのが難しくなってきたりもして...といった具合でとても楽しみながらプレイしていた。ただ、何回もコンティニューしたりすることはなかったので、難易度のバランス的には丁度良かったかなと思う。毎回全敵を倒すようなパーフェクトな進め方をしていたらまた話は変わってくるのかもしれないが...。
数ある戦闘の中で最もツラかったのはラストもラスト、30話の「決戦」であり、個々に苦戦しなかったユーザーなんていたのかと思うほどに厳しい戦いだった。決戦という事で、ボソンの王を含めた将軍たちと一騎に打ち合う事になることになるわけだが、その将軍たちがまあとんでもない。
王は正直、適当にちまちま殴ってれば死んでくれるのだが、将軍たちはそうもいかない。味方と同じようにスキルを存分に使用してきて、HPをごっそりともっていく。ステータス的に次の攻撃は耐えられるといった状況に限ってスキルを使用してくることなんかもザラで、そのたびに発狂し、喉を掻きむしっていた。
中でもリィンとシェイドは強敵であり、幾人もの仲間たちが彼らの餌となってしまった。セーブ&ロード戦法で何とか乗り切ったものの、もう一度チャレンジしてすんなり勝てるかと問われると難しいかなと。本当に数人しか残らないくらいには激戦であった。他に辛かった戦いといえば25話の「力と力」とかだろうか、あれも中々のものだった。
といった感じでゲームパートだけを評価しても充分に戦える作品だったが、信馬鹿さんの作品がそれで終わりなはずもなく、本作はゲームパート以上にシナリオが優れていた。
ストーリーとしては主にボソン軍との戦いと、それから原典に焦点を当てて進行していくわけだが、その中で個々のキャラクターの心理、成長がしっかりと描かれているのが凄いなぁと。単なる会話劇で終わらず、そこから更に各々の関係が発展していく様を見るのが何よりの楽しみだった。元々、「恋愛ADV」というジャンルを好んでプレイしているのもあって、話の合間合間に挟まれるちょっとした恋愛描写は私をたびたび魅了してくれた。
好きなキャラクターを挙げようと思うと、本当に皆好きなキャラクターばかりのだが、上記の理由からやはりシキとランドになってしまうかなと。もうこの二人の関係を追うだけでも本作を楽しめると言ってしまってもいいほどに素晴らしかった。何が素晴らしかったかというと、それはランドくんの成長がしっかりと描かれていたことに他ならない。
木刀くらいしかまとも握ったことのないような頼りない男の子、時間と共に一人の剣士として成長していく。彼の「守られる側」から「守る側」になっていく姿を見て感動を覚えないユーザーなどいないだろう。実際にゲーム中でも序盤は盾役にしかならなかったのに段々と力をつけてきて、クラスチェンジもして、最終的にはユニット内で一二を争う程頼もしいキャラクターになっていた。流石はTSさんだ。
最後のシキと戦いで負けたのも彼らしいというか、改めて考えると実にキャラクターの役割に合っていて良かったなぁと。彼は剣士だが、守る剣士なのだから。無論、攻める剣士はシキである。
シキもシキで序盤は頼れる師匠といった立ち位置だったが、戦いを重ね、ランドを異性として意識し始めることで段々と女の子らしい魅力が出てきて、いつの間にか立派なヒロインになっていた。キスを彼女からする所なんかは何とも彼女らしくて、恋愛においても彼女は攻めていくんだなと、感心したし笑顔になることが出来た。最後まで意地っ張りな可愛らしい女の子だった。
といった具合で、二人は別格というか何というか、本作の大きな魅力そのものであると言っても良いかなと。本当にお似合いで、そして幸せになってほしい組み合わせだった。
あとはロロージョなんかもお気に入りで、何かと調子に乗ってしまう性格と、時たま見せる心の弱さが大変私好みだった。そして、そんな彼女を傍で支える役としてトラウラはよくやってくれたと思う。ロロージョが戦いの中で「探検隊に戻りたい」と嘆く場面は印象的で、それに対するトラウラの台詞が実に良かった。彼女もまた探検隊の一員だったからロロの気持ちが理解できたのだろう。だからこそ厳しく口調で彼女を諭したわけだ。
また、終盤のシキとの別れのシーンもロロージョらしくて良いなぁと。
「せっかく仲良くなれたのに…っ!出て行くなんて嫌――っっ!」
本当に探検隊の事が好きなんだなぁと感じたし、その気持ちを照れたりせずに前に出すことが出来る彼女はやはり素敵だ。トラウラも彼女を慰めるのではなく、シキに出て行く理由を問うのがまた良い。彼女もロロ―ジョと同じで「探検隊」という存在を愛おしく思っていたのだろう。
他にもヤンニックやパティなど、お気に入りのキャラクターはたくさんいるがキリがないのでこの辺にしておこうと思う。
ここまでゲーム、シナリオ、キャラクターと印象的な部分、好きな点について語ってきたわけだが、本作を評価している理由がもう一つある。それは原典に書かれていた内容だ。あんなの闇鍋企画を愛した全プレイヤーの心に突き刺さるだろう…不意打ち過ぎて身体が固まってしまった。その後の彼女たちのチラ見せもすごく嬉しいし、過去に紡いだものはしっかりと繋がっているのだと思うと涙が出た。本当に、過去作をやってきてよかった。
総評としては非常に楽しい作品に仕上がっていたなと思う。次作がいつ完成するかは不明だが、完成したら真っ先にプレイしたいと思う。楽しみに待ってます。