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asteryukariさんの西暦2236年の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
西暦2236年
ブランド
Chloro
得点
92
参照数
524

一言コメント

PCゲーム、同人という利点をうまく生かした作品でした。内容もいいがそれ以上に作品としての完成度が高かったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 始める前は考察ゲーと聞いていたため少し身構えてましたが、始めて見ると世界観とOPの出来にすぐに引き込まれました。哲学、思想などが含まれるエロゲをプレイしている時に「この作品、書籍の方が良いのでは」と思うことがあるのですが、この作品はPCゲームという媒体をうまく利用していて完成度が高かったです。

特に物語の後半で背景が実写なこと、反転していることについての謎が解けた時は鳥肌が立ちました。またBGMに関して、使用しているクラシックがどれも世間的に良く知られていて耳に馴染みがあり、話や場面に合った楽曲を使用していて、聴いていてしっくりきました。哲学、思想的な部分を含んでいるため、内容がやや難しい部分もあるのですが、テキストと参考資料が丁寧なため思った以上にスラスラ頭に入っていきました。

内容に関して、序盤は謎だらけで盛り上がりも見せないため進めていて楽しいとは言えませんが、太陽フレアが起きたところ辺りから続きが気になってしょうがなくなりました。この時は外天楼(漫画)のような感じなのかなと思ったのですが、もっと壮大なものでした。アーカイヴに到達したところで話が複雑化していくのですが、主人公もプレイヤーと同じように(私の場合)すぐに理解することなく、本を読み進めていく上で徐々に理解していくのが丁寧でありがたかったです。また序盤の会話も実は伏線だらけで、暗号を解読するシーンなどはプレイしていてワクワクしました。

√分岐が3つあり、一つ目は主人公の親、出来事に詳しく触れ、他人の眼ばかりに気にして生きていたことを自覚し、自分が自分でいるために何をするか考えていくもので、私はこの√が一番好きでした。この√のEDを聞いた時に、見たことある人ならわかりますが、某アニメの影響を強く受けているのだなと。

二つ目はアーカイヴにいるうちにおかしくなってきたヒメ先輩がより不可解な言動を口にするようになり、それに加え主人公も狂っていくという…悲しいですね。ヒメ先輩はプレイ当初から好きなキャラクターだったため、この√を終えてTrue√に行く際に若干の時間を要しました。

True√では世界の真実が明らかになり、こういった多元的世界が話の軸に置かれた作品では衝撃的な結末で鳥肌が立ちっぱなしでした。これはあくまでヨツバとハルの場合というのが救いでもあり、救いようのない事実である点も非常に良かったです。
 
総評としてはかなり面白かったです。True√の回答を出すために一つ目√が必要であったと強く感じましたし、ヨツバが自分という存在をフカンすることで答えを得るという仕掛けも非常に私好みでした。またSF、哲学的要素だけでなく、人の感情について言及した恋愛モノの魅力もあり、エロゲとして非常に完成度が高い作品でした。こんな壮大な物語を終えた今だからこそ落ち着いて言います。マスコかわいい。