溜めに溜めて一気に加速するあの感覚は爽快の一言。かと言ってそれだけが魅力なわけではなく、序盤の語りが終盤になってきちんと生きてくるのも嬉しい。
“ハッキング”を題材として用いた作品という事で、まあ面白いだろうなぁとは思っていたがしっかりと期待に応えてくれた。まず本作は掴みが非常に良かった。冒頭で述べられた「インターネットがない時代というのを、僕は知らない。」という一文はまさに私も同じであり、生まれた時からネットは存在したし、世界はいつだって繋がっていた。
そして、ハッキング、クラッキングというモノも自分の身近にこそないが確かに存在する。とあるシステムがサイバー攻撃を受けたため、私たちの生活にも影響が及ぶなんてことも珍しくはない。その事を意識して読むと作品に入りやすかったし、楽しそうな作品だなと思うことができた。やっていることは少し未来の話だけれど、だからこそ面白いわけだ。
内容の話に移ると、序盤は登場人物たちの紹介と用語の解説がメインといった感じで、愉快な掛け合いを見せつつ本作におけるハッキングとはどういったものを指すのか、またそもそもの言葉の意味などを丁寧に説明してくれる。いわば準備期間といったところで、正直な事を言えば退屈に感じる時間も確かにあった。けれど、ここで設定を理解し、頭に落とし込むことはとても重要で、後々になってこの時間が生きてくる。
中盤からは物語としても面白さも出てきて、退屈な時間なんて見当たらなくなっていく。ハッカー優位の世界を描いておきながらそのハッカーたちが次々と事件に巻き込まれ、消えていく様はまさにエンターテイメントであり、気分の高揚を抑えるのが大変だった。主人公達もその例外ではないという点が面白く、あれだけ自信に満ちていた彼らが何もできずに打ちのめされていく様は未だに強く印象に残っている。
第二OPが流れるタイミングとそこからの加速力は本当に最高の一言で、有能ハッカー達が集結し、”karma”に立ち向かっていく光景は眺めていて思わず笑みが零れてしまった。Karma側もkarma側で単なる悪役になっていないのがまた良いなと。彼らにも彼らなりの正義があって、それをお互いにぶつけあっている。だからこそ熱いし、面白いわけだ。
演出もかなり凝っていて、テキストに合ったものが使用されていた。特に世界中にネットワークの光が広がっていくワンシーンは印象深い。中には少し派手に感じるものもあったが、ハッキング対決という事も踏まえるとあれくらいで丁度良いのかもなと。雰囲気を損なうこともなく、熱さを生み出していたのはお見事だった。
ただ、登場人物に関する話はやや薄めで、ミサなんかは丁寧に描かれていたが、他にも気になる人物は何人もいたので、そこをもう少し掘り下げてくれたりしたらもっと良かったかなと思う。二年の間にあの人物は何をしていたのだろうとか、想像でしか補完できないのが歯痒かった。
締め方もかなり好みで、冒頭の語りとリンクさせつつ、ハッカーとしての回答を提示する作りがすごく良かった。あり得る世界の話だからこそこんなにも見入ってしまったのだと、改めて本作の引き込む力の大きさに気付いた。今後、情報流出やサイバーテロの話題を目にする度に本作の事を思い出していしまうのは間違いないだろう。そのくらいには本作の存在が強く脳裏に焼き付けられた。素敵な作品をありがとう。