作品に入り込みにくかったり、面白い話と出会うまでに時間がかかったり、不満はいくつもあるがそれでも読み切る価値はあった。某ルートが好きで好きでたまらない。
初っ端からドンパチ騒ぎで馴染みのない名詞を連呼する登場人物達。加えて東京バベルという世界についての未知さも相俟って、序盤はついていくので精一杯な感じだった。しかしながら日常パートの中で状況を整理する時間があるので、終始わけが分からないという程ではない。実際に中盤に差し掛かる頃にはその世界観に慣れ、物語を楽しむ余裕が生まれていた。
この作品を読んでいてまず印象に残るのは戦闘だろう。厨二チックな武器で神を名乗る者たちと戦っていく。とてもシンプルで王道な流れだ。どの武器もイカしたデザインしていてその辺は流石だなと、たまに臭過ぎるモノもあるけれど逆にそれが良い味を出している。
戦闘中の人物の動きもしっかりと地の文で書かれているし、スチルの切り替わりも激しい。「ああ、こいつらやってんなぁ…」とにやけてしまうこともしばしば。若干スピーディーではあるが大事なところはよく描けていたかなと。
また、ただ戦うのではなく、何のために戦っているのかを追求した内容になっていたのがとても良い。
「渇望」から武器を生成する作品は多いが、本作の場合は「存在理由」から。どちらかというと存在理由の方が具体的で、故に主人公はずっと見つけられなかったのだろうなと。私だっていきなり「存在理由は何か」と問われたらパッとは返せないと思う。
そんな存在理由を見つけ、それを実現するために戦っていくというのが本作のメインテーマであった。なかなか斬新で実に私好みの話作りだ。だから期待を胸に読み進めていったのだが、ラジエル√と空見√をやった時点ではそこそこの出来。悪くないのだが意外性や感情の揺れはないくらいの内容だった。だがリリス√でその感想は一転、見事化けてくれた。
元々リリスというヒロインがかなり刺さっていたのもあるがそれでも、他と比べると話の出来は歴然だった。まず今までのリリスが幻影だという設定が良くて、それをさらに物語で良い具合に伸ばしてきた。
幻影は”彼女”だけではない、他にも無数の“彼女”が存在するのだと。そうやって様々な幻影と言葉を交わしながら、徐々に彼女の下へ近づいていく光景は見ていて心地よくて、「ああこういう話を待っていたんだよ」と恍惚とした表情を浮かべてしまった。
また、主人公を手助けしてくれるのは何もリリスだけじゃない。リヴァイアサンやケルベロスなど、その辺の人より断然、頼もしい奴らが彼を支えてくれていた。途中までリヴァイアサンはリリスとどういった関係なのかがイマイチ掴めていなかったが、成程そういうことかと。目立った活躍は残さなかったが、一方でティアマットの人間性を垣間見ることが出来たので話全体で見ると中々重要なキャラなのかなと。
そして、ケルベロスはもう相棒と呼ぶしかないだろう。ぽっと出のワンちゃんかと思ったら凄く聞き分けが良いし、主人公との連携もとれている。主人公がケルベロスに乗り出した時なんかはこのままずっと二人の歩みを見ていきたいなと感じたほどだ。また、主人公もケルベロスを大切にしている。最終戦前のケルベロスの会話が非常に印象的。
「…何たる我が侭な。お前が一言『ついてこい』と言えば、我はそれこそ地獄の果てまでついて行くのに」
ご主人様の事が大好きなケルベロスちゃんであった。地獄の番犬なのに人を守る命令をすんなり受けているところがまた…かわいいなぁこいつ。かなりお気に入りのキャラクターだったので別れの場面では少し泣きそうになってしまった。
この√の結末に関しては三つあって、一つ目は未来で空見たちと再会し、最後にリリスと出会うEND。誰のために生きるかを改めてお互いに確認し合う。ヒロインの√としては文句なしに良かった。泣きながら笑みを浮かべるリリスが美しい…。
二つ目は玉座にてリリスと共に生を終えるBAD END。これも生存理由について考えてあげるとわりと納得できる結末だったのかなと。ビターな感じで嫌いではない。
そして、三つ目。不条理と戦い続けるその存在理由を貫く生き方。これが非常に良かった。遍くすべてを救おうなどとは思わない、けれど見過ごすことはできない。そんな主人公ならではの答えだ。加えてリリスの決断も素敵で、本当に良いコンビだなと。
こうすれば良かった。ああすれば良かったなんて思うことなく、力のかぎり走り続ける。本作のテーマとして掲げた「存在理由」とは何かがはっきりと示された素晴らしい締め方だった。
全体を見るとやはりリリス√以外は凡かそれ以下。ただ、リリス√は本当に、飛びぬけて良かったのでこの話が読めるというだけでもプレイする価値はあるかなと。読後は幸福を感じるあまり呆けてしまった。
ハッピーエンドだけを求めない、芯のある結末に感謝。