人とロボットは共存できるのか、テーマの一貫した作品であり、ボリュームも十分あったので読後感はかなり良かった。
パッケージ絵にもあるとおり本作は「人とロボットの物語」である。よくあるジャンルにも見えるが、ロボットと人との共存について描かれている点が他作品との大きな違いになるかなと。ロボットにも心は芽生えるのかとか、人間に成ることができるのかとか、そういった事に目を向けているのではない。ロボットと人間ははっきり違うものであると示した上で話は進んでいく。
斬新だったのが初めからロボットに心が存在しているという点で、これは珍しいなと。話の途中で自覚するのではなく、初めから持っている前提で話が進行していく。だから序盤はこのキャラクターがロボットで、このキャラクターが人間だと言われてもいまいちピンとこなかった。しかしだからこそ、日常の会話はごくごく自然なものに見えたし、共存というテーマに意識が向いていくわけだ。
残念なのは敵対している側の主張が凄くチープな点で、終始そのチープな相手が壁として立ちはだかってくる。なぜ共存に否定的なのか、どうしてロボットのいる世界を嫌うのかが終盤になって語られるのだがそれもやはり薄いというか、それだけといったところ。まあ変に日和らない所は評価できるが、いわゆる老害の戯言くらいにしか思えなかった。なので終盤の展開自体はあんまり気乗りしなくて、退屈に感じる瞬間も多々あった。
しかしながらプロットはかなり好みで、これまで二編に分かれていた話…過去と未来が繋がった時は笑みを浮かべてしまった。リナリアがなぜハルトのことをロボットだとわかっていたのか、またなぜハルトは自身の正体に気付かなかったのか。一つの答えが今までの疑問をほとんど解消してくれるような、そんな爽快感を味わうことができた。まあ人間とロボットの魂を掛け合わせ一つにするなんてトンデモ理論を用いたわりに説明が端的だったのは少し引っかかったが。
個人的にアイカがかなり好みのキャラクターをして、野球でついた傷を用いて思い出話に耽るところなんかも凄く良い。あの何気ない日常風景をこんな形で生かしてきてくれる事に大きな喜びを感じた。
復讐に半分、もう半分は仲間のため…とは言ってたがやはりハルトへの想いが大部分なのかなぁと。戦いが終わったら普通に恋をしてと言う彼女だったが、そうはならないはずだ。これからもリナリアと仲良くやっていってほしいものだ。
結局、人間とロボットはどうあるべきなのか、その問いに対してのハルトが出した答えは「わかりません」だった。なのでまあオチとしては釈然としなかったりもするのだが、悩んでどこまでも歩んでいける。それがわかっただけでも彼らにとっては大きいのかなと。何よりこの作品らしい。
といった感じで話の本筋についてはやや好きに傾くくらいの手応えだったが、物語の背景にある設定が凄く好みだったり、話の組み方に好感を覚えたので総合的な満足度は高い。いつか人間とロボット同士の婚姻が一般化した世界になったら”しあわせ”だなと思う。